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    Katsuki

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    Katsuki

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    『白日の結婚、深緋の絆』
    悠脹短編集の続編として、悠脹webオンリー(2022.9.3-4)に書き下ろしたもの。未来if。

    #悠脹

    白日の結婚、深緋の絆 渋谷事変から、死滅回游。
     そして、羂索・宿儺との最終決戦。
     幾多の助けを得て、虎杖悠仁は生き残った。生き延びることを、皆に許されるに至ったのである。
     宿儺を制御し切れなかったことによる、大量殺人。その自責の念が消えたわけではない。ただ、それを償ったと評価されるだけの実績を上げ、悠仁の自己肯定感はそこそこ回復してきていた。

     認められたことを、一刻も早く伝えたい相手として……脹相の顔を思い浮かべ、悠仁は人知れず頬を染めた。
     悠仁が一番辛かったときに、それこそ身も心も差し出して、支えてくれた、脹相。自分はそれに甘えるがままだったということに、安寧の場を得て初めて気が付くに至った。それに対して、まだ何も返していない、返せる立場ではないことを、心苦しく思いつつ、いざ脹相を前にすると、彼のペースに飲まれてしまうのだった。

     脹相とは、ずっと会っていなかったわけではない。すべてが片付くまでに、三年の月日が経っていた。その間、暇を見つけては、薨星宮で天元の護衛を続けている脹相の元に、足を運んでいた。
     一見、実家に帰る、弟のように。
     その実は、囲っている愛人との、逢瀬を楽しむように。
     悠仁は変わらず、脹相と関係を持っていた。
     最早、世界は二人だけのものではなくなっているというのに。今更、元々の好みだったケツ身長タッパのデカい女に乗り換える気はなかった。その必要もないと思っていた。
     ただ、脹相はどうなのだろうか。悠仁は、脹相の気も考えず、関係を深めてしまったことについて、申し訳ない気持ちになっていた。それなのになお、彼に対していつまでも日陰者のような扱いをしている自分は何だ。
     悠仁は十八になっていた。世間的には、疚しさなく、付き合いを公表できる年齢になった。いや、責任を取らなければならない年齢だと思った。まあ、相手にしても受肉してまだ数年そこらであり、実際は百五十年余も意識を保ってきた、年齢不詳の男なのだが。
     疚しさがないというのは嘘だ。知る人ぞ知る事実ではあるが、彼は悠仁の兄だ。かつてお兄ちゃんと呼んで欲しいと言ったり、兄貴と呼んだら全身で喜びを表したりしていた男なのだ。
     どちらから望んだのか、もう覚えていないが、兄であるという、ただそれだけの理由で自分を受け入れてくれた脹相。当時、悠仁に気取らせなかっただけで、兄であるにも関わらず、という葛藤もあったに違いないのだ。
     彼が公表して欲しいと望むのは、どちらなのだろうか。

     悠仁は、兄貴と呼んだあのとき、とても彼の顔を見られず、思わず背を向けてしまったことを思い出した。弟として照れ臭かったのも勿論ある。けれども、本当は見たくなかったのだ。彼が兄と言われて喜んでいる顔を。それは同時に、秘密の関係である、悠仁が彼の男であるという事実を、否定されているように思えたからだった。
     その後、薨星宮に通うたび、悠仁は脹相を懸命に喜ばせる、いや、悦ばせようとしてきた。弟としてではなく、男として。それができて初めて、脹相の男を名乗る資格があると思っていた。
     だが脹相は、寝屋でしか見せない顔こそあるものの、兄として見せる態度を崩さなかった。あの頃の廃墟の街で、少しは意識してもらえているのかと、期待していた自分が浅はかだった。
     だから、改めてどちらがいいかなどと、脹相に問う勇気はなかった。このどっちつかずの状態が、脹相にひどい仕打ちをしているとの自覚はあっても。

    ***

     悠仁の様子がどうにもおかしい。
     脹相は天元からは、万事解決したから、直に護衛もいらなくなるだろうと聞いていた。つまりは、薨星宮を出て、悠仁と一緒に暮らすことも、脹相の夢ではなくなっていた。
     いやいや、プライバシーとやらもあるからな、と脹相は思い直した。同居といかないまでも、近くに暮らすことができたなら。元からあった淡い期待が、現実味を帯びて来ているというのに、悠仁が浮かない顔をしているとはこれ如何に。
     さらに思い直す。悠仁は自分の扱いを重荷に感じてきたのだろうか。自分がいつまでも近くにいることが、悠仁の妨げになるのではないか。
     自分が悠仁の最も近くにいて、黙って彼の力になれる期間はとうに終わったのだ。弟を独占したいなどという我儘を言ってはならない。今のように、たまに会いに来てくれるだけで十分なのだ。だがそれすらも、諦めないといけない時期に来ているのかも知れない。
     それは正直、寂しいと思った。
     悠仁と触れ合う時間は、弟が生きていることを最も実感できるのだ。悠仁が生に前向きになってくれること、それが嬉しかったのだ。
     それならば、その相手が脹相自身である必要はないのかも知れない。
     ズキン、と胸が痛んだ。
     優しい悠仁は、自分にその事実を言い出せず、困っている可能性は大いにあった。けれども、それをどうしても認めたくない自分もいた。
     他に理由は……と、そこで、また別の可能性を見出した脹相は、意を決して悠仁に尋ねてみることにしたのだった。

    ***

    「覚えているか、悠仁。いつか、俺をオマエの墓に入れてくれると言っていたことを」
    「どうしたんだよ、いきなり」
     悠仁は身構えた。ついにこのときが来てしまったのだと思った。まさか、脹相の方から、自分に選択を迫って来るとは。
    「もしもそのときが来たのだと言うなら、俺はそれを受け入れる。オマエがそのことで悩んでいるというなら、俺に話してくれないか?」
     確かに悠仁は、悩んでいた、脹相の処遇について。だから、脹相の意図を汲めず、兄としてか、伴侶としてか、てっきり、そういう選択の話だと思ってしまった。
    「俺に任せていいの? 脹相、オマエの希望は?」
    「オマエの安全が保証されているならば、俺の生命はオマエに預けて構わない。ただ、そうだな、最期にもう一度、俺を抱いて欲しい。それで、オマエの墓に入れてもらえるなら、思い残すことはない」
    「え、最後? いのち?」
    「俺の処刑が決まったという話ではないのか?」

     ここで初めて、二人は話が噛み合っていなかったことに気が付いた。悠仁は、自分だけ呑気な妄想をしていたことを恥ずかしく思ったし、脹相は、思わず己の欲を口にしてしまったことで、顔から火が出る思いをした。
     しばしの無言、そして……。
    「いやさ、墓に入って欲しいのは、本当なんだけどさ、それは、今じゃなくってさ。やっと、平和になったのに、オマエをそう簡単に死なせられるかよ」
    「悠仁……! すまなかった! オマエが悩んでるのを見て、俺の処刑を言い出せずに困っているものだと……」
     では、何を悩んでいるのか。疑念が一つ前に戻り、脹相の顔が曇る。
    「ではやはり、俺の扱いに困って……」
    「あーっ! もうっ! 違うよ、脹相! 確かにその通りなんだけどさ、オマエを遠ざけたいわけじゃなくて、ずっと近くにいて欲しいから、悩んでんの!」
    「悠仁……」
    「いい加減、立場をハッキリさせないとなって」
    「オマエを困らせるくらいなら、俺はこのままでも……」
    「俺が嫌なんだよ。オマエをいつまでも、ただの脹相にしておくのは。ここを出たら、それこそ立場も保証されてなくて、上にどっかに連れて行かれちまうかも知れないし。だから、脹相は俺のだって、ちゃんと公表したいんだけどさ……」
     脹相は、自分の心配が杞憂に過ぎなかったことに安堵する一方で、悠仁が大きな選択をしようとしていることに気付いた。
    「悠仁。俺は、オマエの、何だ?」

     覗き込んだ悠仁の目には、迷いがある。即答できないということは、その答えは一つに絞れないということだ。それが悠仁の、悩みの訳か。
     兄か、それ以上の何か――脹相自身にも、答えが出せないことだった。ただ、悠仁が、兄だけである自分を、望んでいないのは確かだと思った。
     これまで、悠仁と関係を持っても、あくまでも兄としての立場を貫いてきたのは、それが呪いとしての自身の存在理由だと信じていたからだった。そして、いつ悠仁がその関係を終わりにしたいと思っても、そのつながりを失くさずに、ただの兄と弟に戻れるようにと思ってのことだった。
     自分から兄以外の何かになることは、悠仁のためにもよくないことだと思っていた。その選択は悠仁に委ねるしかないのだと思っていた。
     だが、本当にそれでよいのか。もしも兄弟の関係を壊すことが罪であるならば。その罪を、弟だけに背負わせるつもりか? 悠仁の気持ちを汲み取って、俺が道を先に歩くのも、兄の役割ではないのか?
     己の気持ちには、とうに気付いていた。先程も口にしてしまっていたではないか。悠仁と触れ合いたいと。
    ――呪いなら呪いらしく、己の欲望に忠実であれ。
     かつて、誰かが言っていた。元より、殺したり戦ったりすることでなく、弟を愛することを本能として持っているのは、脹相自身が、人との混ざり物の呪いだからだろう。
     だから、その愛の意味が、不純なものに変容していったところで、それは、己の人間らしさなのだろうと、脹相は思った。
     ならば、呪いと人間の合いの子らしく、それを受け入れようと思った。弟が、悠仁がそれを望んでいるなら、なおのこと。

    「悠仁。オマエの墓に入れてもらえる証だがな」
     悠仁の手をとり、自分の左手の、その箇所に触れさせる。
    「やはり、ここに欲しい」
     悠仁も、かつてのやり取りを、覚えていた。
    「オマエさ、本当に、意味分かって言ってんの?」
    「ああ」
    「兄弟の証じゃないんだぞ」
    「そのようだな」
    「オマエがそれでもいいならさ、俺からちゃんと言わしてくんない?」
    「聞こう」
     脹相に後押しされた形にはなったが、悠仁は晴れ晴れとした気持ちで、その言葉を口にした。

    「結婚しようぜ」

    ***

     姿を公にすることに難色を示していた脹相だったが、絶対に式を挙げたいと言って譲らない悠仁に、結局は折れた。
    「これは、俺のケジメだからさ。みんなの前で、ちゃんと、宣言したいの」
     脹相を薨星宮から引き取る話と並行して、新居探しと、式の準備を進めつつ、悠仁は時間さえあれば、進捗を報告しに脹相の元へやって来た。
    「つってもさ、そんなに何人も呼ぶわけじゃないから。俺が世話になった、人たちだけ」
    「俺は誰も呼べる人はいないぞ」
    「分かってるって。でもさ、報告したい人たちは、いるだろ?」
     壊相と血塗。それから、瓶の中の、弟たち。
    「ちゃんと、手配するから。俺の方も、だいぶ向こうに逝っちまったし」
    「さながら、人前、霊前式だな」
    「神も仏も、いたら俺らはこんな大変な思いしてないのにな」
     そうボヤく悠仁は、まだ様式をどうするか迷っていた。その理由は、衣装の選択だった。洋装も、和装も、それはそれで似合うだろう。脹相の髪型は、直してもらうとして、だ。
     問題は、二人が並んだときに、どうしても自分が見劣りしてしまうのではないかということだった。三年経って、悠仁はさらに身長も伸びて、逞しくなったのだが、男としての見栄えで、脹相に勝てる気がしなかった。
     いっそのこと、脹相に、女物の服を着せてしまおうか。だったら、ドレスよりは、白無垢だな、と悠仁は、脹相とカタログを見比べつつ思った。
    「何を見ている、悠仁」
     悠仁は慌てて、隣の新郎の服を指差した。
    「あ、衣装! どうしよっかなって。これ、お揃いで借りられんのかな」
    「悠仁とお揃いか……それはいいな」
     その言葉で、脹相に白無垢を着せる野望は、なかったことになった。自分の我儘を通して結婚式をする以上、なるべく脹相に喜んでもらいたかったのだ。
     そんなこんなで、あっという間に、式の日がやって来た。

     付き添いのいない脹相の控室には、何故か伏黒恵がいた。
    「いいのか? あっちへ行かなくて。オマエは悠仁の親友なんだろう?」
    「親友の晴れ姿なんて、別に近くで見るもんじゃないっすよ」
     おとなしく着付けをされている脹相から一定の距離を保ち、壁に寄りかかったまま、動かない。見張りのようなものかも知れない。
    「オマエは今回のこと、何か不服か?」
    「いえ。驚きはしましたけど。アイツがアンタに執着してるのは、知ってましたからね。馬鹿正直でまっすぐなヤツですから、アンタのこと、ちゃんと大事にしたかったんでしょう」
    「そう言えば、悠仁のいないところでオマエと話すのは、禁じられているのだったな」
    「それ、照れて言ってるだけだから、別に気にしなくていいと思いますよ」
    「どちらが身内だか分からんな。悠仁にオマエのような友がいてくれてよかった」
    「俺は、あのときアンタがいてくれたから、今のアイツがいると思ってます。俺は、アイツに魔虚羅を出した尻拭いをさせてしまったことも、そもそもアイツを宿儺にしてしまったこととも、無関係じゃないんで。手放しでアイツの存在を肯定してやれないんです。アンタが、どんな形であれ、虎杖に寄り添っていてくれたことを、感謝しています」
    「そうか」
    「これからも、アイツを頼みますよ」
    「こちらこそ、だ」
     支度が終わった脹相と恵は、黙って握手を交わした。

    ***

     ステンドグラスのある式場がいい、というのは、悠仁の希望だった。二人の和解と出発の地を思い出すからだった。
     式場には誰もいない席が目立ったが、そこは空席ではなく、ステンドグラスを通した光の帯は、そこに居るべき者の影を映し出しているかのようだった。

     先に壇上につき、目を閉じて待っていた悠仁は、歩み寄る脹相の足音が、あのとき背後からやって来たときと同じものだと知り、緊張が和らぐのを感じた。
     俺はずっと、この足音に守られていたのかも知れない、と思った。だが、これからは自分も、晴れて脹相を守る立場になるのだ。
     目を開ければ、同じ紋付袴を纏った脹相がそこにいる。やっぱり、かっけぇな、と見入る悠仁に、これで大丈夫だったのか、と目で問う脹相。
     あぁ、問題ない、と言う代わりに、ニカッと微笑むと、脹相も安心したように、目元を緩ませた。
     俺が好きなのは、この顔……だが、これはまだ、兄としての顔と変わりがない、と思った。
     式が終わるまでに、悠仁は新たな脹相の顔を見ることができるのだろうか。

    「今日はお集まりいただき、ありがとうございます! 堅い言葉を使うのは得意じゃないから、俺の言葉で話させてもらいます。
     今、俺がこの場で、生きていられるのは、ここにいる皆さんのお陰です。でも、俺が一番辛かったときに、人であることを捨てずにいられたのは、俺を突き放さずについてきてくれた、脹相がいてくれたからだと、俺は最近身に染みて分かってきました。
     俺は昔、脹相の弟たちを祓ってしまった。だけど、それでも俺を愛してくれて、支えてくれたことは、感謝してもしきれなくて、これが俺が今返せる、精一杯だけど、脹相に、ちゃんとした身分を用意したかったんだ。不用意に、祓われたりしないように。
     だからここに、脹相を、俺の伴侶として、生涯愛し、守ることを誓います!」

    「はーい、ちょっと待ってね」
     突然、場の雰囲気にそぐわない、緩い声が遮った。主賓である、五条悟だ。
    「悠仁、今の話でさ、脹相が君にとってどんなに大事かってのは分かったよ。でも、何で、お兄さんのままじゃいけなかったのかな? 結婚する理由を、僕たち証人に、ちゃんと宣言してくれないと」

     悠仁の顔が赤くなる。今日は自分たちがそういう関係だということを、きっちり告白するつもりで来たはずが、いざ静粛な場では、躊躇われてしまう。
     助け舟を出したのは、脹相だった。

    「愚問だな。悠仁は弟のままでは、俺に素直じゃないからな。これで少しは、俺に甘えてくれるようになるかと、俺がそう望んだのだ」
    「悠仁は? それでいいの?」

     こんなときまで、兄貴面をされるなんて。
    「お、俺が脹相と、こういう関係になりたいと思ったのは……そんときは、兄弟なんて信じてなかったけど、脹相が兄弟兄弟って言うから……。
     本当は、オマエに殺して欲しかったんだ」

     突然の告白に、式場が静まり返る。
     脹相も目を見開いた。
     悠仁の口をついて出たのは、本来ならまったくするつもりのない話だった。
     
    「俺は、脹相に罰して欲しかった。だからオマエに無体を働いた。そうしたら、俺のことを怒って、憎んでくれるかなって」
    「悠仁」
    「オマエに殺されて構わなかったんだ。兄弟って、そういうもんなんだろ?」
     脹相は、悠仁の溢れ出る想いを堰き止めるように、悠仁を抱きしめた。
    「悠仁、そうまでして、俺と繋がっていたかったのか?」
    「俺はただ……」
    「本当は、死にたかっただけじゃ、ないだろう? オマエは生きたかった。その熱を一番教えてくれたのは、オマエ自身じゃないか」
    「脹相、俺は……」

     誰も口を開かない。
     きっかけとなった五条さえも、おとなしく二人を見守っている。

    「そうだよ。本当は、それでも好きって言って欲しかったんだ。オマエに許されたかった、兄弟でなくても。愛して欲しかったんだ」
     悠仁は泣いていた。今まで、脹相にもちゃんとぶつけたことのない想いだった。
     脹相は、悠仁の顔を覗き、はっきりと言った。
    「あぁ、愛している。オマエのことはもう、ただの弟とは思っていないさ」
    「じゃあ、なんて?」
    「俺の弟であり、俺の伴侶。さっきオマエが教えてくれたが、いい言葉だな」

     どこからともなく、拍手の音がして、式場にいる誰もが、二人の関係を祝福した。

    「皆さん。えっと、取り乱してごめんなさい。
     改めて、俺から脹相に、伴侶の証である、指輪を用意したんだけど……あれ、こんな色だったっけ?」
     運ばれてきた指輪は、全周が、血よりも真っ赤に変色していた。
    「予め、俺の術式をかけさせておいてもらったのだ。やはり、死の間際に異変を察知するのでは遅過ぎるからな。それに、俺ばかりがオマエの異変を察知するのでは、釣り合いが取れないだろう(フッ……世話が焼ける)」
    「じゃあ、これを付けてれば、オマエの異変も俺に分かるようになんの?」
    「その通りだ」
    「すっげー! それでこそ脹相!」

     先程のしんみりした空気を吹き飛ばす、悠仁の快活な笑いに、式場もまた明るい雰囲気を取り戻した。
     深緋の指輪が、互いの環指にはまり、式典はつつがなく終了した。
     
     撮影もそこそこに、披露宴を前にして、脹相は控室に姿を消してしまった。そう言えば、九十九由基の姿も見えない。二人で何かをしているのか、悠仁が不安になりかけたときだった。

    「脹相殿の、再入場です」
     一旦暗くなった披露宴会場の入口に、スポットライトが当たる。
     光が反射してよく見えない……と悠仁が凝視した先にいたのは、白無垢にお色直しをしてきた脹相だった。
     会場が、喝采に包まれる。

    「オマエ、その服、どうしたんよ!」
    「前に、悠仁が、この写真を見ていただろう。俺に着て欲しいのかと思ってな。九十九に用意してもらった」

     まったく、やっぱりどこまでもコイツは、俺の想像の先を行く、と悠仁は思った。
    「本当、敵わないな……」
     嬉しそうに笑う悠仁を見て、脹相も満面の笑みを浮かべる。
    「俺は、オマエのためなら何だって受け入れてやるさ。悠仁が喜んでくれることが、俺の喜びだからな」
     悠仁は、はっとした。これこそ、自分が求めていた笑顔なのかも知れない。自然な化粧でも際立つ美しい睫毛が、始まりの日を思い出させた。
     白無垢を着た姿は、兄としての脹相だけだったら、決して見ることができなかった姿だ。間違いなく、自分の伴侶として振る舞ってくれたことが、悠仁はたまらなく愛しかった。

     お互いを思いやること。それが、彼らの絆だった。兄弟として、相棒パートナーとして、伴侶として。彼らは今、二人で一つであるという意味を、確かめ合った。
     どんな呪いよりも強固な絆の証が、二人を見守っていた。
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