サクラ舞フ。前編はらりと廊下に桜の花びらが舞うーーー。
一人で生きて、一人で死ぬ。俺一人で十分だ。
誰かに分かってもらう、理解してもらう。そんなのどうでもいい。
どうでもいいはずだった。ただ刀の己を振るい敵を倒す。
けれど、審神者は守るべき対象。守るべく対象。
自分よりも小さいその体格、手も腕も足も細くて小さい。
その割には無鉄砲で、時には傷らだけになり、自分たちと同じ稽古をけろりとする。それでも守べく対象。
不愛想と誰もいう自分の顔の表情を言い当てる。
面倒な鶴丸の対応も軽くあしらいながらも、時には一緒に悪戯をして初期刀でもあり近侍の歌仙に叱られる。
どうしょうもない、本当にどうしょうもないやつ。
無垢で、汚れを知らない、どうしょうもないやつ。
こちらを向き、俺の名前を呼ぶ。
あぁ、本当にどうしょうもないやつだ。
そこだけ、無駄に明るく見える。
「なぁ、主よぉ、どういう事だと思う?」
一枚の桜の花びらを持って鶴丸国永が自身の主の男の審神者に言う。
男は書斎のローテブルに両肘を置いて両手を組んで、そこに額をあてながら「うーん」と低く唸る。
「その言い方は酷いじゃないの、鶴さん?俺も気になるけどさ」
「いつかはって思ったけど。それでいて自覚はない。これは困ったことだねぇ。」
太鼓鐘貞宗、燭台切光忠の声が続く。二人の言葉に主の男は「考えたくない」と低く唸る。時期外れの桜の花びら。
「あんなに愛おしそうに見てるんだもなぁ。いつかはこうなると思ったけどな。」
「いや、まだ大丈夫だ。大丈夫。」
男審神者は「気づいてない、お互い気づいてない。」と言い続けている。
「確かに、審神者の一人として守るべき対象としか思ってなさそうだからね、からちゃんは。」
燭台切の言葉に主の男は「そのまま気づかないで欲しい」と唸る。
男の本丸には、時の政府から預かっている一人の少女がいる。つい最近に少女は審神者の力に目覚めてからは見習いの審神者として生活している。
生活には支障はないが一部、昔の記憶がない。けれど、少しの間だけどこかの本丸にいたことはあるらしく、その時に一緒にいてくれたのは伊達組だった。
それ故か、少女は伊達組の刀たちの接し方にはなれていた。不愛想な大倶利伽羅の扱い方も。
今朝。見習いの少女が高校に本丸を出る時だ。たまたまそこにいたんだろう。それは完全なる偶然。必然ではない。
「からちゃーーーん、いってきまぁぁーす!」
いつもの様に明るく元気な声が本丸に響く。少女は大俱利伽羅に大きく手をふってから本丸をでた。
少女に届かないのでは?のボリュームで「あぁ、気を付けろ」と返す。大倶利伽羅の後ろにはらりと桜の花びらが数枚舞い落ちた。
死界からこっそり見ていた鶴丸国永と太鼓鐘貞宗は、俗に言うスペースキャットの顔をしてしていたと、他の刀剣男士が証言していた。台所当番で居合わせなかった燭台切光忠だけが「僕がいない所でそんな事が!」と悔しがっていた。
そして、本丸の主の審神者の男性は頭を抱えていた。