アフタートーク 見慣れない演劇を眺めてみたはいいものの、流れの剣士であるヨルンには”正直あまりよく分からなかった”というのが感想で。それらを理解できないことにちょっとした歯がゆさを感じたせいで、むしろ気分が悪かった。普段ならば絶対に足を踏み入れることはない世界に迷い込んだようなものだ。落ち着かなさにさっさと席を立って劇場を出ようとしたときに、ヨルンはふと馴染みのあるものを見かけ、足を止めた。
……ヨルンにはそれが何なのか、すぐに認識することができなかった。否、認識はできていたがどうしてそれがこんな場所にあるのかが理解できなかったのだ。
それは、劇場に飾られた花々や行き交う人々の香水の中に……嗅ぎなれた血の臭いが、さも当然のように人の姿をして歩いていたのだから。
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