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    はなねこ

    胃腸が弱いおじいちゃんです
    美少年シリーズ(ながこだ・みちまゆ・探偵団)や水星の魔女(シャディミオ)のSSを投稿しています
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    はなねこ

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    お題箱へいただいた『白いワンピースと夏の海』でSSを書かせていただきました。(『夏の海』が全然盛り込めなかったのでリベンジさせてください!)美探メンバーわちゃわちゃSSです。カップリング要素はありません。
    登場キャラの指定は特になしとのことでしたので、かなり好き勝手に書かせていただいてます。めちゃくちゃ楽しかったです。お題ありがとうございました~!

    MA ROBE MAGIQUE  人間は恐怖を感じると、ドーパミンやアドレナリンといった神経伝達物質やホルモンが分泌されて軽い幸福感を覚えることがあるらしい。怖いのが幸せなんてMっ気があるんじゃなかろうかとちょっぴり疑ってしまうが、氾濫する娯楽の数々に食傷気味の昨今でも怖い話やオバケは別腹だという子ども達が決して少なくないのは、彼らの深層心理でうごめく『幸せになりたい』という欲求が多少なりとも影響しているからなのかもしれない。
     わたし瞳島眉美が通う私立指輪学園中等部にも、たとえば真夜中の廊下を徘徊する骨格標本とか、たとえば異世界に続いている踊り場の鏡とか、たとえばひとりでにメロディを奏でる古いオルガンとか、いわゆる学校の怪談というものが存在する……のかどうかはよく知らないし、わたし自身、オバケや幽霊や妖怪といった魑魅魍魎の類の存在を信じているわけでもないのだけれど(わたしの『眼』で観ることのできない存在なら、それは存在そのものが疑わしい、くらいの認識だ)、そんなわたしであっても、放課後の明かりを落とした教室――特に人気のない特別教室は往々にして薄気味悪いものだということくらいは分かる。特別教室と呼ぶのは躊躇してしまうほどリノベーションが施された美術室――美少年探偵団事務所も例外ではない。
     さて、その日の全課程を終えた後、いつものように美術室の扉を開けて――叫び声こそ上げなかったものの――わたしはとても驚いた。驚くなといわれても無理な話だろう。なぜなら、仄暗い部屋の中ほどに見慣れない女の子が佇んでいたからだ――と思ったのは早とちりで、よくよく見れば、佇んでいたのは女の子ではなかった。
     そもそも『人間』でもなかった。
     では何故、わたしが彼女(便宜上そう呼ばせてもらう)を女の子だと思ったのかというと、その理由は彼女が身につけている衣装にあった。彼女はノースリーブの白いワンピースをまとっていた。――いや、彼女の特性からいうのであれば、『着せられていた』という表現の方が正しいのかもしれない。
     幽霊の正体見たり何とやら。
     そう、彼女の正体は胴体のみのマネキン――いわゆる『トルソー』と呼ばれるものだった(胸があるから性別は女性だろう。彼女と呼んで差し支えないはずだ)。
     頭部も手足もないのに楚々とした雰囲気を醸し出しているのは、ごくシンプルなデザインながらもすっきり洗練された印象を与えるワンピースの効果に拠るところが大きいと思われる。
     しかし、どうして美術室にワンピースを着たトルソーが? 誰かの忘れもの?
     わたしが首を傾げたのとほぼ同時に、トルソーに異変が起きた。というより、トルソーが身につけているワンピースに異変が起きた。
     真っ白な生地に一面、色とりどりの花が咲いた。
     花々の次は、雲ひとつない青空。
     そして、家路を急ぐ雁の群れ。
     サバンナを駆けるヌーの大群。
     オレンジに染まる地平線。
     約十五秒ごとに、ワンピースの柄が切り替わる。まるで大自然をテーマにしたドキュメンタリー映画を観ているようだ。
     え? え? え?
     これは何?
     新たな怪奇現象?
     わたしの頭の中でクエスチョンマークがスパークした時だった。
    「ふむ。上々のようだな」
     聞き慣れた声がしたと思った瞬間、視界が明るくなった。誰かが照明を点けたのだ。見上げれば、天井のシャンデリアが煌々と輝いている。
     声のした方へ視線を向ける。弓形に張り出した窓と天蓋つきベッドの間に、我らが団長にして向かうところ敵なしの小五郎『美学のマナブ』ことリーダーと、指輪学園中等部生徒会長にして副団長『美声のナガヒロ』ことロリコ……もとい、先輩くんと、学園の影の経営者にして美術班担当『美術のソーサク』こと天才児くんが並んで立っていた。天才児くんはその手にタブレット端末を持っている。
    「そちらはどうだ?」と、リーダーが視線を動かす。
    「いいんじゃねえの」
    「うん。後ろもきれいに見えたよー」
     ちっとも気づかなかったけれど、書架の側にいたのは、わたしの胃袋を掌握する番長『美食のミチル』こと不良くんと、師走も半ばを過ぎた今でもショートパンツ道を突き進む『美脚のヒョータ』こと生足くん。
     リーダーは満足げに頷くと、知った顔を見て自分でも意識している以上にほっとしているわたしに向き直った。
    「眉美くんは、どうだい? 君の感想を聞かせてくれたまえ」
     感想?
    「感想って、あのワンピースに映っていた映像のこと? 確かにきれいだったけど……、ね、ねえ! みんなそろって何をしていたの? あのワンピースは何? 上々って何のこと?」 
     クエスチョンマークを整理しきれず早口になるわたしを、落ち着き払った態度のリーダーが手で制した。
    「僕達はソーサクの実験に協力していたのだ。あのワンピースをスクリーンにして、新しいプロジェクションマッピングの性能を試していたところだよ」
    「プロジェクションマッピング?」
    「おや、ご存知ありませんか。プロジェクションマッピングとは、プロジェクター等の映写機器を用いて立体物にCG等の映像を投影する技術のことです。身近な例を上げると、クリスマスのイルミネーション等にも使われていますね」
    「さすがロリコン、幼女をイルミネーション会場に連れ回しているだけあって詳しいよねー」
    「私はロリコンではありませんし、幼女を連れ回しているわけでもありません。季節柄、親が勝手に決めた婚約者と一緒に赴く先として、そういう場所が多くなってしまうというだけです」
    「プロジェクションマッピングとは何ぞやくらい、いい声でいちいち説明されなくても知ってます。わたしが訊きたいのは、どうして天才児くんは美術室でプロジェクションマッピングの実験をしているのか、そして、どうしてみんなはその実験に協力しているのか、ということです」
    「それについては、僕が説明しよう」
     リーダーが語ったところによると――
     天才児くんの実家の系列会社では現在、新たなプロジェクトとして全方位から映像を映し出せるプロジェクターとスクリーンの開発を進めている。このプロジェクトには天才児くんも一枚噛んでおり、開発中のプロジェクターを使えば将来的に、たとえば新作映画の予告編だったり新商品のコマーシャルだったり観光地の案内だったり行政機関からのお知らせだったり、多種多様な組織が多種多様な場所で多種多様な広告を展開できるようになるそうだ。
     この『多種多様な組織』には教育機関も含まれている。それなら翼下の学園内で試しちゃえば手っ取り早いんじゃね? と言ったひとがいたとかいないとか、とにかくプロジェクターとスクリーンの施行場所として指輪学園中等部美術室が選ばれ、巻き添えを食う形で美少年探偵団団員も駆り出された、というわけだ(こじつけも甚だしいわね)。
     美術室の一角、壁際のキャビネットの上に仕掛けられた試作品のプロジェクターを、天才児くんがタブレット端末を使って遠隔操作し、スクリーンと同じ素材で作られたワンピースに映像を投影する。映し出された映像がどのように見えるかをそれぞれの位置で確認し、データを取っていたとのことだ。
    「プラネタリウムみたいに一台で三百六十度映像を映し出せるプロジェクターがあるのは知ってるけど、あれって確かプロジェクターを中央に設置するんだっけ……」
     円で例えるとしたら、中心がプロジェクターで円周がスクリーンということになる。
    「このプロジェクターは、いわばその逆だな。中心がスクリーン――立体物で、円周上のどの地点にプロジェクターを置いても、映写した映像を立体物の裏側にまで投影できる機能を搭載しているのだ」
    「裏側に? でも、光って直進するものでしょ?」
    「学がない僕にはプロジェクターの詳しい仕組みや構造までを理解して説明することはできないが、何でも光の……光の……ええっと……」
    「光の反射や屈折、ですよ、リーダー」
    「そう! 光の反射や屈折を利用しているのだよ、眉美くん。プロジェクターに内蔵されている人工知能がプロジェクターから対象物までの距離や角度を自動で測定し、間に遮るものがあったとしても、光の反射や屈折を駆使することでそれらを避け、対象物へ映像を投影できるそうだよ」
     反射や屈折……。なるほど。詳しく説明されても、わたしの理解が及ぶとは到底思えないわ。
     明るい照明の下で、ワンピースはたなびくオーロラを映し出している。
    「いま気づいたのだけど、部屋を暗くしなくても映像がきれいに映るのね」
    「スクリーンに使用する素材に秘密があるそうですよ。企業秘密なので詳しく説明できませんが」
     別に知りたくもない。テストに出るわけでもないし、ここは何も言わずに「へえ、そうなの。よく分かりました」って顔をしておこう。
    「では、本題に入るとしよう。眉美くんに折り入って頼みたいことがあるのだ」
    「え? わ、わたしに?」
     リーダーの口調が改まったので、わたしは思わず身構えた。物理関連のことで意見を求められても何ひとつ捻り出す自信はないわよ。
    「何、難しい話ではないよ。あのワンピースを眉美くんに着てもらいたいのだ。実際にひとが着用した際の映像の映り具合のデータを取りたい――とソーサクが言っている」
     それくらいならお安いご用だ。
     天才児くんがトルソーから外したワンピースを受け取ると、不良くんと生足くんが用意してくれた簡易パーテーションの向こう側へ回り込み、わたしは制服からワンピースに着替えた。
     丈の長い真っ白なワンピースは縫い目がほとんど見えない仕立てで(シームレスと呼ぶのだっけ?)、肩回りも胸回りも腰回りも、わたしのために誂えたと思えるほどサイズぴったりだった。あまりにもぴったり過ぎて、逆に引いてしまいそうだ。
    「このワンピース……、ひょっとして天才児くんが作ったの?」
     天才児くんがこくりと頷く。こちらから訊ねておいて何だけど、どうしてわたしのサイズを把握しているのよ。
    「着心地は?」と、天才児くん。貴重なひと言目はとても事務的。
    「悪くないわ。思ったよりも軽いし、何だか羽根で出来た服を着ているみたい」
     ワンピースのデザイン上、腕が丸出しになってしまうのだけど、美術室の中はほどよく暖房が効いているので寒さは感じない。
     さて、ここで些細な疑問。
    「立体物なら他にもたくさんあるのに、どうしてワンピースにしたの?」
     わたしの問いに答えたのは生足くんだった。「ソーサクはね、ナガヒロが婚約者ちゃんに読んであげた絵本を見て、このプロジェクターとスクリーンの着想を得たらしいよ。ロリコンもさー、たまには生産的な行いをするんだねー」
     先輩くんが何か言いたげな視線をこちらへ寄越したけれど、わたしも生足くんも気づかないふりをした。今度、湖滝ちゃんに何の絵本か教えてもらおう。
    「やあ、眉美くん。白いワンピースがよく似合うね。そのままでも充分美しいが、これから美をさらに加速させるとしよう。そのワンピースに映し出して欲しい映像のリクエストはあるかい? あのプロジェクターには約五万種類の映像データがストックされている。君の希望に沿う映像もきっとあるはずだ」
    「リクエストって、ええっと、そんな急に言われても……」
    「大福柄とか肉まん柄とかマカロン柄とかいいんじゃねえの?」
     不良くんが口をはさむ。ひとを食欲の権化みたいに言うな!
     ひとしきり考えてはみたものの――ダメだ、ちっとも浮かんでこない。
    「すぐに決められないからリーダーに任せてもいいかしら。わたしに似合う映像を選んでちょうだい」
    「よし、承ったぞ!」
     天才児くんに目配せをすると、リーダーはぱちんと指を鳴らした。
     ワンピースの白が、一瞬にしてブルーに変わる。
     ただのブルーではない。深い青の中にきらきら瞬く星が浮かんでいる。
     わたしはこの映像に見覚えがあった。とてもとても見覚えがあった。
    「これって……」
     わたしが目を上げると、
    「その通り!」
     リーダーはにっこり微笑み、力強く頷いた。
    「幼い君が星を見つけて、僕らがその軌跡を追った、あの夜のあの砂浜から眺めた海と空の映像だ!」
    「こんなこともあろうかと、あの夜に見た景色を録画して残しておいたんだ」
     天才児くんがぽつりとつぶやく。相変わらず表情が読み取りにくいけれど、映り具合には概ね満足しているようだ。
     映写されているということは、今のわたしは、おそらくスポットライトの真ん中にいるような状況なのだろうけど、そのわりにはちっとも熱さを感じない。これもまた、新しいプロジェクターの性能のひとつなのだろう。
    「お気に召したかい?」
    「え、ええ……」
     どうしよう、何だかこそばゆい。
    「眉美くん、回ってごらん」
     わたしはくるりと回る。ワンピースの裾がふうわりと翻る。
     水面が揺れる。星が踊る。
     砂浜へ打ち寄せる波の音まで聞こえてきそうだ。
     指の先にやわらかな感触を覚えて、はっとする。リーダーがわたしの手を取っていた。まるでダンスのエスコートをするかのように。
    「素敵なステップだね。僕と踊ってくれないか?」
     はにかむだけで「イエス」の意志を伝えられただろうか。
     あの夜の海の青をこの身にまとい、リーダーに導かれて、拙い足取りでくるくるとステップを踏むわたしは、自分でも恥ずかしくなるほど弛み切った表情を浮かべていたに違いない。
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