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    はなねこ

    胃腸が弱いおじいちゃんです
    美少年シリーズ(ながこだ・みちまゆ・探偵団)や水星の魔女(シャディミオ)のSSを投稿しています
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    はなねこ

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    幼なじみ高校生現パロのシャディミオ小話です。長くなりそうなので分けています。(全部で3話か4話くらいになりそう)
    季節外れのバレンタインネタです。
    ミオさんがうじうじしています。
    スレちゃんにミオさんの背中を押してほしいなあと思って書いていたら、書き進める内に強火のシャミ担みたいになってしまいました。

    #シャディミオ

    ミオリネ・レンブランの冒険1「もうすぐバレンタインですね」
     二月に入り一週間ほどが経過したある日の放課後、校舎裏の片隅で、花壇に移すクロッカスの芽出し球根を運びながらスレッタが言った。夢みるように瞳をきらきらさせて、
    「ミオリネさんはシャディクさんにチョコあげるんですよね?」
     と訊ねてくる。質問というよりほぼ確信めいた口ぶりだ。
    「あげないわよ」
     ざしゅっ。
     わたしは移植ゴテの先端を土に刺した。適当な深さまで土を掘り起こす。軍手に土が跳ねる。
    「ええっ」
     芽出し球根が入ったコンテナボックスを抱えたままスレッタが小さく叫ぶ。
    「あああああげないんですか?」
     露骨に信じられないって顔しないでよ。
    「あげないわ」
     もう一度――今度は先ほどより幾分ゆっくり、わたしは同じ言葉を繰り返す。
    「え、で……でも、どうして?」
     わたしの隣にしゃがみこむと、スレッタは花壇の手前にコンテナボックスを置いた。ビニールポットに入った芽出し球根をわたしに差し出しながら、ふしぎそうに首を傾げる。興味本位とか好奇心とかじゃなく、心の底からふしぎでたまらないという眼差し――この目で見つめられると弱い。
     ふうっと息をついて、わたしは手もとに視線を落とした。スレッタから受け取った芽出し球根をビニールポットから取り出し、先ほど掘った穴に植えつける。わたしも大概甘いよなぁと思いつつ、昔語りを始める。
    「わたしとシャディクが幼なじみってことは、あんたも知ってるでしょ」
    「はい」
    「家族ぐるみの交流があったし家もご近所だから、子どもの頃はね、わたし、毎年あいつにバレンタインのチョコレートを贈っていたの」
    「ほわわ」
    「なんであんたが照れるのよ」
    「いえ。改めて聞くと、やっぱり少女漫画みたいだなぁと思いまして」
     どうぞ、続けてくださいと、スレッタが先を促す。
    「――シャディクが四年生、わたしが三年生のときのことよ。いつもみたいに市販のチョコを用意すればいいのに、その年のわたしは妙にませていて――多分、そのとき読んでいた少女小説か何かに影響されたのね。シャディクに食べてもらいたいって、九歳のわたしは、はりきって手作りブラウニーに挑戦したの」
    「九歳のミオリネさん、いじらしくて、きゅんとします」
    「いじらしいなんて、そんな可愛いもんじゃないわ。単に無謀だったのよ。お菓子作りそのものが初めてだから当然要領も得なくて、完成したブラウニーは生焼けだった。失敗作だった。でも小学三年生の頭では味見をしなきゃいけないなんて思いつきもしなかったから、生焼けブラウニーをラッピングしてリボンをかけて、上機嫌でシャディクに渡したの。そうしたら――」
     ――ありがとう、ミオリネ。味わって食べるよ。
     そう言って、はにかむように笑ったシャディクの顔が脳裏に浮かぶ。ひまわり色のリボンを結んだ箱を胸に抱きしめるようにして、
     ――うれしい。誰にも、とうさんにも分けてやらないんだ。ふふっ。僕の、僕だけのチョコレートだ。
    「ミオリネさん?」
     スレッタの声にはっとする。湿った土の匂いが鼻をかすめる。軽く頭を振って、わたしは言葉を継いだ。
    「あいつ、生焼けブラウニーをぜんぶ食べてお腹を壊しちゃったのよ」
    「え……」
     スレッタが絶句する。――そりゃそうよね。
     芽出し球根を植えつける手を止めずに、わたしは話を続ける。
    「ひと口食べたら生焼けって分かるんだからそこでやめればよかったのに、ぜんぶ食べちゃうとか意味わかんない。――わたしね、そのとき、もう二度とシャディクにチョコを贈らないって決めたの。だから、あいつにチョコをあげないのは、別に今に始まったことじゃないのよ」
     ――七年前の生焼けブラウニー以降、バレンタインにシャディクから「欲しい」って言われたこともないし。
    (もっとも、去年は受験勉強をみてもらったお礼に、シャディクにチョコレートを贈りはしたけれど、お礼の品をチョコレートにしたのは、たまたま贈答用として店頭に並んでいたお菓子が時期的にチョコレートばかりだったからだ。『御礼』の熨斗もつけたし、バレンタインは関係ない)
    「分かった? 昔話はこれでおしま」
     い、とわたしが言い終わらない内に、
    「ミオリネさん! それは勿体ないです! すごく勿体ないです!」
     移植ゴテを握りしめたスレッタが立ち上がる。スニーカーの足もとにパラパラと土が舞い落ちる。
    「はあ?」
     わたしはスレッタを見上げて言った。
    「何が勿体ないっていうのよ?」
    「だってバレンタインですよ? 女の子が男の子に正々堂々真っ正面から『好き』って伝えられる日なんですよ! これはチャンスなんですよ!」
     スレッタの勢いが止まらない。
     再び腰を下ろすと、今度は前のめりになってわたしに詰め寄る。立て板に水の勢いで、
    「いいですか、ミオリネさん。ミオリネさんが過去のブラウニーの件を心苦しく思っているのは分かります。でも、いつまでも過去に囚われたままじゃダメなんです。払拭しなきゃダメなんです。シャディクさんにしたって、生焼けだと分かっているのにブラウニーを食べたのは、食べたかったからですよ。意味はとてもシンプルです。生焼けでも失敗作でもお腹を壊すって分かっていても、ミオリネさんの手作りブラウニーを食べたかったから、シャディクさんは食べたんです」
     ひと息にまくしたてる。
    「――そんなの」
     わたしはきゅっと唇をかむ。
    「そんなの、シャディクに言われてないわ」
    「言われてなくても、そうなんです」
     スレッタがきっぱりと言った。
    「だから、塗り替えましょう」
    「ぬり……かえる?」
    「塗り替えるっていうか、ええっと、上書き? するっていうか……。とにかく、今年のバレンタインはとびきり甘くてハッピーな思い出を作って、苦くてしょっぱい思い出を笑い飛ばしちゃえばいいんです。甘い思い出を作るのにバレンタインはうってつけじゃないですか。チャンスは最大限に生かすんだって、昔読んだ本にも書いてましたよ」
     にこっと笑ってから、わたしを見つめるスレッタの眼差しが、どこかさびしそうに曇る。
    「バレンタインは女の子にとって特別な日だって、それも本で読みました。なのに、この先ずっと、ミオリネさんがおばあさんになっても」
    「ちょっと、誰がおばあさんよ」
    「すすすすみません、ただの例えですよ。ええっと何が言いたいのかというと、毎年バレンタインが来る度にミオリネさんが苦い経験を思い出すなんて、そんなのつらいです。悲しいです。それに、ミオリネさんからバレンタインのチョコレートをもらったら、シャディクさん、すごくすごく喜ぶと思いますよ」
     シャディクが?
     喜ぶ?
     ――うそ。そんなの、うそよ。
     わたしはかぶりを振る。
    「喜ぶとか、そんなの分からないじゃない」
    「そうです、やってみなきゃ分からないです。シュートは打たなきゃ入らないし、クロッカスは植えなきゃ咲かないんです!」
     それと同じです、と拳を握りしめて強く主張する。
    「いいことを思いつきました!」
     握りしめた拳を開き、両手をぱちんと合わせて、スタッフがうふふと笑う。
    「わたし、とっておきのおまじないを知ってるんです。だからミオリネさん、わたしと一緒にチョコレートを作りましょう!」
    「え」
    「今年のバレンタインは月曜日だから、日曜日に作ったら余裕で間に合いますよね」
    「ちょっ、そんな勝手に……」
    「ミオリネさん」
     スレッタがわたしの目をじっとのぞき込むようにした。
    「ミオリネさんは――今わたしの目の前にいる十六歳のミオリネさんは、シャディクさんにチョコをあげたくないんですか?」
    「わたし、は……」
     わたしは、シャディクに……、もしも、シャディクに……。
     ――ありがとう、ミオリネ。うれしいよ。
     わたしの頭の中で十七歳のシャディクがはにかむ。
     胸の左側がうずく。目眩がしそうで、わたしは思わず目を伏せる。
    「バレンタインのケリはバレンタインじゃないとつけられないんです。つけなきゃいけないんです。だから……、だからミオリネさん。わたしと一緒に……」 
     落ちる前髪の向こうからスレッタの声が降ってくる。
    「――考えておくわ」
     それだけ言うのが精一杯だった。
     話を切り上げるように腰を上げて、わたしは植えつけが終わった芽出し球根にじょうろで水をやり始めた。
    「ここはもういいわ。この後おかあさんと約束があるんでしょ?」
     はっとしたようにスレッタが顔を上げる。「そうでした」
     あ、でも……と、スレッタが戸惑いがちに視線を泳がせる。その先に土にまみれた移植ゴテがあった。わたしは軽く肩をすくめる。
    「後片付けはわたしがやるから、あんたはもう行きなさい」
     スレッタの申し訳なさそうな表情がふっとやわらぐ。
    「ありがとうございます。あの、ミオリネさん――連絡、待ってますね」
     失礼しますと、深々と頭を下げて、スレッタがくるりと身を翻す。後ろで結った髪をしっぽみたいに揺らしながら駆けてゆく背中を見送る。
    「バレンタインのケリはバレンタインじゃないとつけられない……か」
     ぽつり、つぶやく。
    「わたしだって……」
     ――わたしだって、わたしだってシャディクに……。
     風が冷たくなってきた。
     花壇の前にかがみこむ。軽く土を落とした移植ゴテとビニールポットをコンテナボックス入れる。ジャージの膝を払って、わたしはのそのそと立ち上がった。
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