【イルアズ】さいわいをさがす 家は、もうずっと暗いままだ。
あの日から、ずっと。
「只今戻りました、お母様」
扉の閉まったままの部屋に声を掛けても、誰も何も答えない。広くて空っぽの屋敷に、私の声が空しく響くだけ。
「……おかえり、リリー」
この家でたった一人、姉のビオレはなんとか会話に応じてくれる。でもそれも、いつもほんの一言か二言で。母の部屋の前ですれ違ったけれど、ビオレはそのままふらりとどこかへ行ってしまった。
お父様も、もう長いこと帰ってこない。
ずっと昔、まだ私がほんの小さな子どもだったころは、誰も彼もこんな風じゃなかった。
大きな屋敷には沢山の使用人がいて、いつも暖かな笑顔に溢れていた。庭には薔薇が咲いて、私もビオレもいつもそこを駆け回っていた。
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