『声』 君の声が聴きたいよ。
独りでいる夜は、ふとそう思う。
静かな部屋に響く微かなコール音。
特別なその音に、左馬刻はベッドの中でふと意識を浮上させる。薄い月明かりに手にした画面を見れば、見覚えのある名前が自分を呼んでいた。
「……あぁ?」
あの人が自分を呼んでいるという事実に、つい素直に頬がゆるむ。そんな自分を内心笑いながら、その自嘲さえどこかここちよい。
我ながら、業が深いと思うが。
しかし、共に目に入った現在時刻に首を傾げる。少なくとも、あの人が何の用もなくかけてくるような時間ではなかった。
数回のコール音の後、留守番電話になる直前に画面をタップする。
着信画面が通話のそれに切り替わり、あの人と空間が繋がる。
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