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    saipoko2021

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    11/27開催寂左・左寂webオンリーイベント【41.750km】展示作品

    部屋で休む左馬刻の許にかかってきた1本の電話。寂雷がかけてきたその訳は。

    ただ二人がいちゃついているだけのお話です。
    夏に別カプで書いていた、推しの『声』をモチーフにしたシリーズの寂左馬バージョン。

    #41_750km
    #寂左
    lonesome
    #寂左馬
    desolateHorse
    #ヒ腐マイ
    hypmic bl
    #寂雷
    silentThunder
    #左馬刻
    leftHorseCarving

    『声』  君の声が聴きたいよ。
      独りでいる夜は、ふとそう思う。






     静かな部屋に響く微かなコール音。

     特別なその音に、左馬刻はベッドの中でふと意識を浮上させる。薄い月明かりに手にした画面を見れば、見覚えのある名前が自分を呼んでいた。
    「……あぁ?」
     あの人が自分を呼んでいるという事実に、つい素直に頬がゆるむ。そんな自分を内心笑いながら、その自嘲さえどこかここちよい。
     我ながら、業が深いと思うが。
     しかし、共に目に入った現在時刻に首を傾げる。少なくとも、あの人が何の用もなくかけてくるような時間ではなかった。
     数回のコール音の後、留守番電話になる直前に画面をタップする。
     着信画面が通話のそれに切り替わり、あの人と空間が繋がる。
    「よぉ、先生。」
    『左馬刻君……ごめんね、起こしてしまったかな。』
     控えめなその声に、喉の奥で緩く笑う。
     別に、起きていても不思議はない時間なのだが、寂雷には自分のことなどお見通しらしい。
     だから、素直に頷いておく。
    「ああ。ま、たいしたことねーわ。
     それより、こんな時間に電話を寄越すなんて先生こそ何かあったのか?」
     この男が、神宮寺寂雷が他人を頼る事なんてまずない。常にはない事に、自分の手が必要な何事かが起こったのかとつい身構えるが、電話の向こうから聞こえてきたのは柔らかな笑い声。
    『ああ……違うよ。大丈夫。
     そういうことではないから。』
    「じゃあ、なんだよ。」
    『ん……』
    「センセー?」
     珍しく言いよどむ寂雷に首を傾げる。今日は、色々といつもとは違うことが起きる様だ。
     それでも大人しく待っていると、低く呟くような声が耳に届いた。
    『……君の声が、聴きたくなった。と言ったら君は怒るかな。』
    「……っ」
     不意に投げられた意外すぎる台詞にぶわっと体温が上がる。きっと、顔も赤くなっているに違いない。
     そんな左馬刻など気づかぬように、寂雷が言葉を連ねる。
    『なんでだろうね、月を見ていたら独りが少しばかり寂しくてね。』
     気づけば、君を思いだしていたよ。すまないね。
     どこか、淡々とした低い艶のある声が機械を通して左馬刻の耳を犯す。
     この声が直に耳に落とされる衝撃を、もう自分は知っていた。
     機械に、先生の声を再現なんて本当は出来ねーんだろうな。
     そんな埒もない事を考えながら、少しの音も聞き漏らすまいと耳を澄ます。
    「謝ることじゃねぇよ。先生。」
    『迷惑ではないかい?
     こんな時間に、ましてや君を起こしてまで。』
    「そんなことを言うあんたが、遠慮せずかけてきてくれたことが俺は嬉しいんだよ。」
     それだけ、俺の声が聞きたかったんだろ。
     耳元に囁きかけるように言葉を選べば、電話の向こうで落ちる吐息。
    『……ありがとう、左馬刻君。』
     音のない世界に、それはやけに響いた。
      ん?
     ハマの街を見下ろす最上階。
     この部屋までは、街の喧噪は届かない。空調の緩い風がさらりと頬を撫でて。けれど他に音はないはずなのに。
      なんだ?
     何かが、左馬刻の神経に触れた。
    『そう、言ってもらえて嬉しいよ、……左馬刻君?』
     黙り込む自分をどう思ったのか、寂雷が訝しげにその名を呼ぶ。
     スマホから聞こえるその声におかしなところはない。ないのだが。
    『ん……どうか、したのかい?』
     時折混じる吐息が左馬刻をざわつかせる。それは、まるで。
    「先生、」
    『ん?何かな?』
     不自然に息を止める仕草。聞こえるはずもない音が、左馬刻の耳を密やかに犯す。それは、まるで。
    「あんた……何を、してるんだ?」
     思わずそう問いかけてしまった左馬刻に、けれど寂雷は答えない。
    『何?と聞かれてもね。
     月を……見ているだけ、だよ。』
     くすくすと笑う、その声に混じるのは。
     この耳を犯す、その音は。
    「本当に、それだけか?」
    『では、何をしていると君は思うのかな?』
     左馬刻が声に込めた恫喝に、寂雷が気付かぬ筈もないのに。それでも、楽しげな声は変わらない。
    「……っ」
     その声に、もらす吐息に微かに混じる艶。気付かないと思っているのだろうそれが、左馬刻をひどく苛立たせる。
     言うべきかどうかなど、考えずとも分かりながら左馬刻はあえて口にした。
    「聞いてんのはこっちだろ。
     答えろよ先生。」
    『ふふ、なんだろうね。』
     あくまでも楽しげな、からかうような響きに募る苛立ち。
     けれど、それは。その苛立ちは。
    「なぁ、先生。
     一人で楽しむのは感心しねぇな。」
    『ん?』
     こちらも笑いながらそう言ってやれば、機械の向こう側で空気が変わる。
    「楽しそうじゃねぇか。
     どうせなら俺も混ぜてくれよ。」
    『……左馬刻君?』
     その声に混じる戸惑いに溜飲を下げる。
    「俺様の声をおかずにマスかくくらいなら、俺を呼べよ。」
    『…………』
    「バレねぇとでも思ってたのかよ。
     なぁ、先生。俺様の声はそんなにイイか?」
     責めるような口調はけれど楽しげに。
     ああ、さっきまで先生の声がやたら楽しげだったのはこういうことか。
     そんなことを思いながらベッドに体を起こす。
    「勿体ねぇことするなよ、先生。」
    『なにがかな?』
    「俺を呼べよ。……無駄打ちなんてさせねぇからな。」
     あんたは俺のもんだろ、先生。
     そして、俺はあんたのもんだ。だから。
    『ふふ、そうだったね。
     ……本当に、呼んでしまってもいいのかい。』
    「いいから、さっさと呼べよ。」
     そーいうとこまどろっこしいんだよ。
     通話を開いたまま、クローゼットから適当に引っ張り出した服を雑に羽織る。
     港を渡る風の音に耳を澄ませて、けれど手に取ったコートはベッドに放り投げた。
     どうせ外を歩くわけでなし、こんなもんでいいか。
    「で、どーすんだセンセー。」
    『来て欲しいな、左馬刻君。』
     君に、どうか触れさせて。
     熱を隠さないそのつぶやきに、体の奥がぞくりと震える。あの人が、俺を捕らえるそのまなざしが体にまとわりつくようで。
    「……30分で行ってやんよ。
     イくなよ、センセー。」
    『さて、どうしようかな。』
    「おい、」
     車のキーを手にしてすごめば機械の向こうから楽しげに笑う気配。
     大丈夫だよ、とまるで俺をあやすように低い声がのどをくすぐる。
    『聞いていてあげるから、早くおいで。』
    「センセーこそ手ぇ止めんなよ。」
     全部、俺に聞かせてろよ。
    『いいのかい、そんなことを言って。』
    「いいんだよ。」
     


     俺があんたを受け止める瞬間まで、全部俺に聞かせろよ。……そう。


     41.750kmが、ゼロになるまで。
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