手をつないだら「茨、いこう」
撮影終わりの海辺の砂浜で、凪砂は茨の手を初めて握りしめて、手を引いた。
夕暮れに近い空は良い色をして、水平線と溶けている。
「ど、うしたんですか、あの」
引かれるままに茨は引き摺られて、熱い砂浜を踏みしめていく。凪砂は黙っていた。その代わりに手を強く握った。海風がばたばたと服をはためかせ、海汀は形を変えて砂浜を濡らした。
「閣下、あまり遠くへは」
前をいく凪砂へ茨は訴えた。これが何の時間かわからなかった。潮の香りと漣が満ちて、行き着く先を教えない。
こうこうと海鳥が鳴く。
「……恋人みたいだね」
「……」
凪砂は振り返って茨を見つめた。手を繋げたまま。
深いつながり。物理的なつながり。凪砂はそれをしたかったわけではなかった。肉体がつながって、初めて内包された空虚を知る。その先にある目に見えないつながりが、本当に欲しかったのだと[[rb:俄 > にわか]]に確信する。
2021