BeautifulRose「私、髪を染めた方がいいのかしら」
ドレッサーの鏡の前で幾度も溜息を吐く少女を見遣る。
「急にどうしたんだ?」
年頃の子の扱いは難しい。それが異性なら尚更だ。
俺は父さんに育てられてきたし、チームも男所帯なせいか、俺は女性の気持ちというものが良く分からない。
「あたし、最初は嬉しかったわ。母さんから『貴女の髪はあの人譲りだ』って聞かされた時は」
トリッシュは突然家にやって来たペリーコロさんによって、初めて自分の父親がギャング組織パッショーネのボスだと知ったらしい。無理もないだろう。彼女の母親が愛した男は、ソリッド・ナーゾ。それこそがディアボロの使っていた偽名だったのだ。そしてトリッシュはよりにもよってその男に殺されかけた。心に傷を負っていてもおかしくない。
「あたし、何で母さんに似なかったの……?今だって、あたしを利用しようとする連中がいる。アイツは死んだってのに、アイツの残した運命の呪いが降り掛かるなんてもうまっぴらだわ」
小さく俯き細い肩を震わせるトリッシュの頭を軽く撫でる。
「だからこそ俺達がいる。君をこの世のあらゆる残酷な事から守る為に」
全てが終わりジョルノが新生パッショーネのボスとなった今組織改革は少しずつ進んでいたが、やはり未だにトリッシュの命を狙う者は多い。俺はトリッシュ専属の護衛になったが、彼女を守るだけなら気の合うナランチャか話の合うアバッキオの方が適任な気がするんだが――。
「それはあたしがアイツの娘だから?」
睨み上げるようにグリーンの瞳が俺に向けられる。
彼女の気の強さには敵わないな。
ボスを裏切ると決意したのは俺の心がそうする事が正しいと信じたからだ。彼女の命すら己の過去に繋がるという理由で奪おうとしたのが許せなかったからだ。
だが、今は。
「俺はただ君に笑っていて欲しいんだ」
母さんが家を出た時とても悲しそうな顔をしていた。
幸せに生きる為選んだ道ならそれでいいと俺は納得していたが、母さんはきっと自分の為に俺が父さんの元に残った事の方が辛かったんだろう。
「よ、余計なお世話よ」
俺の手を軽く叩くトリッシュの耳はほんのり赤くなっていた。
「トリッシュ、髪は染めるな。俺は君のその薔薇のような髪の色が好きだ」
気まずさで言葉を続けると、トリッシュは『バカ』と呟いて俺へ完全に背中を向けてしまう。
やはり、年頃の少女というのは難しいものだな。