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    毒戦BELIEVER⑩

    ##毒戦
    #毒戦BELIEVER
    #ウォノラク
    wonorak.

    Burrito 世界は矛盾でできている。
     それでも、起きたことには必ず原因がある。


     ノルウェーの僻地にある家で独り、呑気にラクを待っているなんて、なんだか笑える。
     現在進行形でなくても犯罪者とは呼ばれてしまうわけだから、ラクたちの家はそのアジトに違いない。
     自ら望んで軟禁されているようなものだ。
     とはいえ、発覚しない犯罪は裁かれない。同じ行為でも被害者がいなければ犯罪とはされないこともある。
     自分も潜入捜査中は幾度も法を犯した。ウォノにとっては発覚せずとも罪は罪だ。どこの誰の法で正しかろうが、誰かが問題にする限り。
     潜入捜査の間中、一線を超えないよう、踏み留まるのに必死でいた。一度そこを超えたらみるみる倫理観が鈍り、息をするように違法行為が身に付いてしまう。
     起こってしまえば、償えることなど本当はないだろう。同じかそれ以上に損をしろと罰を与え、与えた分の損害を被れというだけだ。
     不本意な罪で、暴かれることで呪いが解けたように更生できるなら、裁かれる意義はある。環境のせいで歪んだ人生を、刑務所で更生できるパターンもあるのだ。
     ウォノはそれに賭けてきた。スジョンもあんなことが無ければ、多少グレたままでも人間らしい生活を送れたはずだった。
     罪の意識も心の傷も闇も増え続ける。
     それでも自分は死ねずに、虚しさとともに生きている。
     どれだけ虚しくても、死を望んだことはない。
     完全に心が晴れないまま生き続ける方が、償っている気になるだけか。
     自分の守りたい真実のためなら、他人の法など気にしていられない。そんな弱さが空しいのに、解放された心地でいる。
     信仰はないが、信じたいものはある。
     救われたいと願うなら、呪いは必ず解けるのだと。
     ラクたちは自分たちに害を為す者には容赦しないが、血も涙もないわけではない。
     思っていたよりずっと行儀の良い三人は、ウォノよりずっと自由な精神で、傍らの危険を手懐ける。

     ――危険、だからか。

     ラクを放っておけない理由。
     法だの罪だのは関係ない気がする。
     ラクに危険が及ぶことも、ラクが何かに危害を加えることも阻止したいのか。
     ここで楽しく過ごしている限り、その分の危険が生じることが防げるなら、監獄に入れるより合理的な解決法なのではないか。
     何もかも手遅れで、失ったものは二度と戻らない。その重さをラクたちは、誰より理解している。



    「ウォノ。早かったんですね」
     冷えた空気を連れ、ラクが一人で帰宅した。
    「ライカたちは?」
    「遠くまで散歩中です。狩りの下見もするとか」
     携帯端末を放っていたのを思い出し、メッセージを確認する。
     グループメッセージで今の話と、ジュヨンから『ラク結構酔ってアホになってるかも』とひと言届いていた。両方に『了解』と返し、端末を定位置に戻す。
    「元気だな、あいつら。お前はいいのか」
    「寒いし、狩りは好きじゃないんで。ウォノと暖かいところにいる方がいい」
     ラクは上着をソファに放って大きめの毛布に耳までくるまり、ベッドでくつろぐウォノの胸に頭を預けた。
    「ブリトーみてぇだな」
     ラクはゆっくり瞬いてから、ウォノの手元に目をやる。
    「探偵小説?何探偵ですか」
    「……祓魔探偵」
     娯楽に寄った軽めのミステリだ。
     一人で食料品と酒を買う道中、リサイクルショップで韓国語が目に入り、いくつか買ってきた。インターネットで何でも読める時代に、ホームシックなんて。
     ラクと話していると気が紛れる。お互い、話をこぼさずに聞くタイプなのも有難い。
    「そういうの読むんですね」
    「このくらいが気楽だ」
     ラクの髪に軽く触れると、やんわりと手をつかまれる。
    「手はこっち」
    「おい」
     何をされるのかと思いきや、ラクの冷えた耳に添えられた。
    「はぁ……あったかい」
     温度差で紅潮した頬。
     髪も手も顔も冷え切っている。
     触れ合うことは自然になったが、ラクが求める時は、無意味な触れ合いではなくなる。
     徐々に薄くなってきた傷痕に指を滑らせると、薄く開いた目がそれを追う。
    「寝るのか」
    「ん……読み聞かせしてください」
    「何言ってんだ」
    「祓魔探偵の活躍をウォノの声で聴きたいんです」
    「やだよ」
     じろりと睨むと、見上げる顔が妙におどけている。
    「じゃあ、身の上話を聞かせて。アジョシ」
    「なんだそのキャラは」
     小悪魔めいた言い回しに、眉をしかめる。
    「んー……ブリトーのブリトニー?」
    「は、馬鹿――」
     思わず笑ってしまった。
     ウォノをからかうのは常だが、ラクはあまりそういう冗談は言わないから、油断した。
    「あは、胸から響いて聴こえるあなたの笑い声、凄くいいな」
     ラクは緩んだ顔でウォノの心臓辺りに手を添え、心地良さそうに目を閉じた。
     ほんのり色付いた目元は、温度差のせいだけではない。
    「ずいぶん酔ってるな」
    「飲んだのに、僕は効きが遅いんで、酔う前に外に出て冷えたんです。帽子はかぶってたけど、顔が」
    「そうだな」
     冷えても、まだ酔ってはいると言いたいようだ。
     ひたひたとまた頬に触れ、冷たい鼻を軽くつまむ。
     ウォノから触れる時は、ライカを撫でるのと似た感覚だ。
     親愛を示す行為には違いないが、意味を求めてはいないと思う。
     意識せずそうする状態に慣れている時点で、相応の愛情と信頼関係がある前提だが。
     信頼関係か――そんなものから最も遠い関係だったはずなのに、ラクは早くからウォノを信頼していた。

     ――俺たちの仲間気取りか?

     かつてウォノがラクを責めた言葉が、不意に自分に問い掛ける。
    「ウォノ」
     鼻をつままれたまま話を続けようとしたラクに呆れ手を離すが、また冷えた耳元に引き戻された。
    「なんだよ」
    「明日ライカの定期健診があります。あなたがいると落ち着くので、一緒に来て」
    「……わかった」
     ライカが落ち着くから?ラクがだろうか?
     そう思って探るが、ラクはいつもよりぼんやりと無垢な顔で視線を受け止める。
    「何ですか?」
    「外ではお前を偽名で呼んだ方がいいのか?ブリトニー」
    「ははは」
     ぼやけていたラクの顔が、パッと明るくなる。
     真顔とは違うファニーな印象なのに、人を惹き付ける不思議な顔だ。
    「ラッキー?ヨンナク?イ先生?」
    「嫌味ですか?本当の名前がわからないのは確かですけど」
    「悪い。そういうつもりじゃ……」
     あまりいい話題ではなかったと反省したが、ラクは気分を害したわけではないようだ。
    「あなたって本当にお人好しですね」
     本を閉じ、ラクの背に手を添える。
    「俺が付けてやろうか」
    「……え」
     存外に期待に満ちた視線に、怖じ気づく。
    「バナナの妖精バナニャンとか」
     自分で言い出したくせに、『ラク』以外の名前が思い付けそうになくて、下手な軽口に逃げる。
     悪い癖だ。スジョンにもよく怒られた。
    「それ、呼ぶのはあなたですよ。バナナは嫌いだし、悪口同然だ。がっかりだな」
     変な名前では、呼ぶ方も確かに恥ずかしい。
     何よりラクにその口調で失望されると、凄い破壊力だ。
    「すまん。ラク以外浮かばなくて……失敗した」
     素直に謝ったら、ラクは不思議な顔で固まった。
    「あなたは……初めて会った時もラクでいいか?と勝手に呼んでたでしょ」
     素行の悪い若者の聴取は得意だった。
     多少ウザがられても、距離感が近い方が本音が聞ける。
     ラクが目を合わせた時の感覚は忘れられない。
     もしあの時ライカが死んでいたら、ブライアンは爆殺されていたのだろうか。
    「うん……じゃあ、妖精の方はどうだ」
    「ヨジョン?ノルウェー限定ならいいですけど、それ、韓国語がわかる人にはハニーとかスウィートハートみたいな印象になりません?僕はそれでも構いませんけど」
     やられた事をきっちりやり返す男の切り返しは、いつでも鋭い。
    「ハンドルネームとか無いのか?今時の若者は」
    「――ギニョルです」
    「指人形?」
    「ゲームをやる時のハンドルネームです。バナナの妖精と発想は大差ないかな。バナナの語源は『指』を意味する単語だという説があって、そこから連想しました」
    「指人形も隠語みたいだな」
    「バナナも結構、卑猥ですよ」
    「お前なぁ」
    「あなたに名前をつけてもらうのは凄く魅力的な提案で、ロマンチックですけど……ラクで大丈夫です。ヨンナクはともかく、ラックなら幸運、ラクなら楽って意味でいられる。そもそも、獣医の前で偽名を使う必要はありません」
    「そうか」
    「古い知り合いです。韓国と中国のミックスルーツで――ライカのこと以外にも色々と、今の生活に役立つ情報がもらえると思います」
    「未認可の医薬品でも都合してやってたのか」
     余計なことだとわかっていながら問う。僅かな疑念でも隠さない方がいい。
     無駄な探り合いはせず、その場で率直に質問することにした。
     ラクの目が一瞬鋭く光ったが、すぐに和らいだ。
     ウォノはただラクと情報共有したいだけで、非難する意図は無いと理解したはずだ。
     ラクは個人間の約束は守る男だ。それでもまだ、ウォノが知ると身の危険が増す場合、言えないことがあるのは承知している。
     悪党はともかく、まだ完全に繋がりを断つには時間や手順が必要な相手もいるだろう。
    「いえ――医療機器を。その代わり、僕らで開設した動物の保護施設と困窮者用のシェルターで、医師と一緒に往診してもらっています」
    「もっと早く、慈善事業家になりゃ良かったのに。まだセックスドラッグで稼ぐのか?」
    「稼いだ金の残りです。今兄妹が作ってるのは、自分たちで楽しむ分だけですよ。金を増やす方法は色々ありますが、どの業界にもしがらみがある。僕のやり方でやるしかないんです。国を出るのは、ソンチャンに右腕を切られた仕返しをしてからって決めてたし」
    「これからは、そういう活動に専念するのか」
    「元々そうするつもりでしたから」
    「ここでは俺が予定外の不純物ってことだな」
    「あなたも向いてますよ。支援活動。昔のツテもあるみたいだし、僕らが逃がした人達も含めて、あなたの情報屋もまだ生きてます」
    「お前は俺がいなくても、救えるし救われるってことだよ」
    「今まで誰もそうしてくれなかったのに?」
     顔が曇って、少し潤んだ。酔っている時にこういう話をしたことは、まだ無かった。
    「親がいただろ」
    「僕が彼らを救ったんじゃないかな。どちらかというと」
    「……そうか」
     子を亡くし悲しみに満ちた夫婦には、希望になったのだろうか。
    「警察に届けられていたら、あなたみたいな人にもっと早く会えたかもしれない。僕は警官になって、あなたのチームに入っていたかも」
     そうなっていたら、どんなに良かったか。
     孤児院は当たり外れの差が大きいが、どこかの養子になれていれば少しは違ったかもしれない。
     ある意味ラクにとっては一番、運の良い道を進んできたのかもしれない。
    「誰かに引き取られて、農園で林檎でも育ててたかもな」
    「バナナ以外ならいいけど」
     また失言をした。
    「難儀だな。お前のせいじゃないのに」
     ラクに同情するというより、不幸な現実全般を憂う顔になる。
    「他人にそういう顔をされるの、ずっと嫌だったけど、あなたのその顔は好きだな。憂うだけでなく、たとえ力が及ばないとしても、不幸の要因を止めようとあがいているから」
     まだ少しひんやりしたラクの手が、ウォノの頬に触れる。
    「そんな立派なもんじゃねぇよ」
     ただのエゴだ。
    「僕を誰より見つめてくれるのは、あなたです。逮捕されてたって多分、死ぬまで会いに来てくれたでしょ。あなたがここに残ることにも去ることにも理由は必要ないけど、僕にはあなたが必要です。僕に欠けているものが見えて、それを埋められるのは、あなただけだと思う」
    「お前、事件の最中は逆に『僕が必要でしょう』と必死だったな。計算が狂ったという顔をする度、隠し事があると気付いたが――」
    「本当はあなたたちを巻き込みたくなかった。でも、覚悟のある人達だから、色々と頼ってしまいました」
    「もう疑う必要はないとわかってる。腹を決めないとな」
    「いえ、あなたはそのままでいて。その性質のおかげで僕らは生きてここにいる。これからの変化は予測できないけど、これまで積み重ねてきた経験で得たものは、たとえ傷付けられ失うことがあっても、全部が無駄にはならないはずだから。僕たちを観察するために潜入していることにしてください」
    「……俺を誰も追って来ないのも、お前らのコネか?」
    「できれば頼らずにいたいんですが、国家情報院にもツテはあります。僕達が欲しいのは時間なので」
    「救済のための時間か」
     ある程度のシステムを構築するだけならいいが、困窮者がいなくなることは無いから、可能な限り長い時間が必要だろう。
    「ええ。できれば巻き込みたくなかったけど、あなたのチームの動きを警戒したり、守るために遠ざけるより、ここであなたを人質に取っておく方が合理的です。忘れてもらって放置してくれると一番ありがたいんですが」
    「ドクチョンにアスキーコードでも送ってくれてるのか?俺は犬を見つけたことと、無事だとだけ送った。まさかノルウェーまで来てるなんて思われてない。あいつらから普通の愚痴とか悩み相談みたいなメッセージが来る。休職扱いだとさ。何か大事件でも起こって人手がいる時にやっと迎えが来るんだろうな。辞めたって勝手に復職させられる」
    「何してる、帰って来いって言われませんか?」
    「いや、大体上司の悪口だな」
    「あなたは自分で思っているより、慕われてます。犬を見付けたと知らせたんなら、餌を買って、あなたの自宅にみんなで行ったはず――多分もう、あなたの端末とライカのGPSで、居場所はおおよそバレてます。呼んだらすぐ来てくれるでしょうけど、ブライアンの件は根が深いからまだみんな、忙しいだけです」
    「人質か……」
     やはりウォノは、宿敵のアジトに軟禁されているようだ。
     深刻な話をしているのに、ブリトーのように巻かれた仔ヤギみたいなラクに、緊張感は皆無だ。
     酔っていても弁が立つのは変わらない。ただいつもより素直になるだけだ。
    「泳がされてるのかも。僕もあなたも」
    「お前はもう食い付いただろ」
    「食い付かれてるのは僕でしょう。もう、自分が先にキスしたの忘れました?」
    「一生それを言う気か?」
    「あなたと僕の間の出来事は全部、忘れたくない」
    「――バナニャンは忘れろ」
     何故かひどく切ない気持ちになる。
     ラクへの気持ちは消せないと悟ったから、ここに残っているというのに。
    「ブリトー食べたくなりませんか」
    「俺は別に。食べるか?」
     冷凍庫に何があったか思い出そうとする。
     買い出しに行ったから、さっき確認したばかりだ。
    「僕も別に。ウォノは、ブリトニーの方がいい?」
     少しだけ艶を含んだ笑みに、呆れて見せる。
    「……下ネタか?」
    「うぅん、思春期ですかね」
     くすくすと笑う上機嫌のラクは可愛い。
    「酔っ払いだろ」
    「形状から連想される特定の部位の話はしてないですが、まあ、誘ってはいます」
    「結構飲んだのか?今頃効いたか」
    「三杯か、五杯くらい?美味しいウイスキーがあって……ん、ハグしてください」
     温まった様子のラクは正面からウォノに被さるように抱き付いた。
     ウォノよりは細いが、決して軽くはない。身長はほぼ同じだ。
    「まだ寒いか?」
     抱き締めて、毛布を軽くかけ直す。
    「いちゃつきたいのに眠いです」
    「寝るなら何枚か脱げ。風邪ひくぞ」
    「脱がして」
    「酒、弱いのか?」
    「このところ支援活動で遅かったから、睡眠不足にアルコールが効き過ぎたみたいです」
     ここ数日、行政が取りこぼした路上生活者をシェルターに保護する活動をしていた。
     ウォノは夕飯作りを任せられ、帰宅する三人を迎える度、寮母のような気分になった。
    「確かにな」
     寝心地の良い服に着替えさせ、ボトルの水を渡す。
     安心しきった顔でぼんやりとするラクを見て、ここにいる意味を実感する。
    「ウォノも。添い寝してください」
    「――俺は別に眠くない」
    「眠らなくてもいいけど、隣にいてほしい」
    「……わかった」
     自分も外出用の服を脱ぎながら、寝間着を取りに行く。
    「え……」
    「なんだよ」
    「そのハイネックのインナー、ノースリーブなんですか」
    「あ?だから着替える。これだけで寝るには寒いし、首だけ暑いし」
     一番内側に着ていたのは、スポーツブランドの黒い制汗用ハイネックインナーだ。
     その上に何枚か着て、一番上にタートルネックのニットを着ていた。
    「やっば……ちょっと待ってそのまま」
    「は?何撮ってんだよ」
    「うわぁ、世界一似合う。童貞を殺すインナー」
    「だせぇならそう言え」
    「違います。凄くいい……!ほら」
     ラクの端末に、スポーツウェアのカタログみたいな自分が表示されている。
    「おい、壁紙にすんな」
    「ロック画面はライカなんで、人には見られないし大丈夫です」
    「よくわかんねえツボだな」
    「いや、これは僕でなくても……かっこいい~」
     恋人がときめいてくれるのはありがたいが、いつも冷静なのに、内心ではこのくらいうるさくはしゃいでいるのだろうか。
    「酔い方が危なっかしいなお前」
    「グループトークに送ってもいい?」
     ラクがウォノの画像に夢中になっている間に、長袖のTシャツに着替える。
    「勝手にしろ。あいつらも俺と同じ反応だよ」
    「ウォノの見た目は三人とも好きですよ。ちなみに僕は、そのヘンリーネックのシャツも大好きです。でもさっきのインナーは、一人では抱えきれない良さ」
    「ジュヨンはお前の見た目の方が好きだろ。イケメンだとか言ってたし」
    「ん?あぁ、工場で言ってた?ジュヨンはオシャレな服装が好きなだけだと思います」
    「そうか」
    「……え、ヤキモチですか今の」
    「そうかもな」
     にまにましながら、ラクはウォノの腕の中に収まる。
    「僕もウォノとジュヨンのやりとりにはたまに嫉妬するので、おあいこです」
    「あ?どの辺にだ」
     ウォノなりに、年頃の女子にだけはセクハラしないよう気を付けているのだが、三人がそこを越えてウォノにセクハラしてくることが多い。
    「だって、僕より先にウォノのいろんなとこ見てるし、接点もあったから」
    「それこそおあいこだろ」
     自分だけわからない話があるのは当然だが、ラクたちの絆には、ウォノには踏み込めない歴史がある。
     ラクはちゃんと説明してくれるし、そこに不満はないのだが、嫉妬に似た気分になることがなくはない。
    「――ん?え、もしかしてウォノ、意外と僕のこと好きですか」
    「好きじゃなきゃここにいないだろ」
    「わぁ」
     冷えたところが温まる度、ラクが隙だらけになっていく。
    「ジュヨンが、お前は酔うとアホになるって送ってきてたが、本当だったな」
    「お酒、買えました?ウォノも飲んだら」
    「俺はいい。アホになったお前を観察しておく」
    「ふ、壁紙にしてもいいですよ」
    「仔ヤギのブリトーをか?」
    「……何それ、美味しいの」
    「お前のこと」
     白い頬に触れ、甘く口付ける。
     ラクはぼんやりとした顔で目を閉じて、そのまま眠りに落ちた。
     ラクに借りている方の端末で寝顔を撮り、グループトークに『酔っ払いヤギは寝落ち。俺も寝る』と一言送り、ウォノも静かに目を閉じた。
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