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    mimori_3forest

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    ここからすけべな展開になるはずのレオジャク

    #レオジャク
    greenPeafowl

    持て余す彼らは 延々と並ぶ文字のひとつを、美しい曲線を描いた爪が指さした。視界にそれが写り込んだ瞬間、ジャックはばれないように視線を動かす。短くて無骨な己の爪と、目の前にあるものと見比べる。マジフトの邪魔にならないように爪は短くしているつもりだが、少し違う気がする。華奢ではないが伸びた指先、美しい放物線を形取る爪、褐色の肌にうっすらと浮かぶ血脈。自分とはまるで違う造形のそれらに、ジャックはほんの少しの間だけ目が離せなかった。
    「おい、聞いてんのか」
     不機嫌そうな声色に現実へ引き戻されて、顔を上げる。レオナは眉根を少しだけ歪めて、訝しそうにジャックを見ていた。日頃の横暴な態度とは裏腹に、人の機微に聡い男が、ジャックの視線に気づかないはずがなかった。
    「この俺が教えてやってんのに、余所見なんざ良い度胸してるじゃねぇか」
    「ち、違います!」
     ジャックは咄嗟に声を上げた。じとりと睨むような視線を不意に壁へと向けてから、レオナは小さく溜息を吐く。
    「良い子はもう寝る時間だな」
    目を伏せてレオナが本を閉じる。壁に備え付けられた時計の長針は、すでに10時を指していた。
    「俺は余所見なんか……」
    「続きは明日だ。いいな」
     レオナの言葉に、ジャックはこくんと頷いた。言葉だけが喉の奥で渦巻いて、行き場を無くている。それらを飲み込むようにして、ジャックは立ち上がる。
    (あんたの指に見惚れてた、なんて言えるはずもない)
     レオナから視線を逸らしたまま、そそくさと教科書やノートを片付けた。背中には痛いほどの視線を感じる。おかげにより一層ソワソワと尻尾が動いてしまい、さらに強い視線を感じた。こんな事なら2人きりになろうとするんじゃなかった。ジャックは少しだけ記憶を思い出す。

     勢い余ってジャックが告白してしまったその日から、2人は晴れて恋人同士となった。たまたま補習帰りのレオナと出くわし、一緒に寮へ向かう最中だった。まだ日が沈むことはなく、廊下には夕陽が差し込んでいる。その日は寮の朝練でレオナは顔を出すこともなく、食堂で姿を見かけることがなかった。だから、その僅かな帰り道でも会えた事に、心がざわざわと騒がしくて、それを何故か目の前の本人に伝えたい衝動に駆られてしまったのだ。そのはずみで、好きだと伝えてしまったのは、今思えばまったくもって迂闊としか言いようがない。
     伝えた瞬間の、ぽかんとかすかに口を開けたレオナの顔は、記憶に新しい。それからレオナはかすかに目を細めて、自分も同じであることをジャックに伝えた。まさか同じ想いだということに驚きを隠せないジャックを置いて、レオナはさっさと連絡先を交換する。それからぽつぽつとメッセージをやり取りしたり、2人きりでこっそり会うと会うようになり、やがてジャックが夜寝る前に少しだけ勉強を教わることになった。
     毎日なにかと昼寝や補修や部活やらで、レオナが1人でいる時間は少ない。そもそも夜型のレオナと朝型のジャックでは会う時間が少ないのだ。ジャックから勉強を教えて欲しいと頼み込み、寝る前に寮長室に行くことが2人だけでの約束事になった。
     勿論、そんなものは建前だ。レオナから勉強を教えてもらえることは嬉しいが、毎日の予習復習は自分の力で取り組みたいし、そもそもに人に頼ろうとも思わない。ただ、駆けるように過ぎる毎日の中で、少しでもいいから一緒にいたいと思い、苦し紛れで浮かんだ方法だった。
     それが最近は、どうにもうまくいかない。2人きりになれるのを心待ちにしているのに、いざその瞬間が訪れると、身体の奥が火照るような熱さを覚えてしまう。それは蒸し暑い昼間の植物園の、湿った空気のように纏わりついて離れない。
     後ろ髪を引かれるような思いで、ジャックは立ち上がる。どうにも座りが悪くてレオナと目線が合わせられない。じわりと、ジャックの背中を這うようにして突き刺さる。それでも礼をしようと傾けた視界の端から、不意に声が聞こえた。
    「ジャック」
    近づいてくる気配はジャックが尋ねる前に、顔が近づいてくる。距離感の近さに驚いてる合間に、かさついた唇へ、そっと何かが触れてすぐに離れていく。
    「早く寝ろよ」
     レオナは一言告げて、ゆっくりと身体を離した。少しだけ目尻を下げた表情には柔らかさが灯っている。触れ合った唇から全身へ電流のように甘い痺れを走って、ジャックは顔がカッと赤くなるのを感じた。身体が喜びに震えている。同時に、もっと何かを求めているような感覚に、ジャックはめまいをするほどの羞恥を覚えた。
    「おやすみなさい!!」
     朱くなった顔を隠し、ジャックは慌てるように礼をする。羞恥を振りほどきたくて、やたらと大きな声を出してしまった。だが今更寮長室に戻れるはずもなく、ジャックは足早に廊下を歩く。ドクドクと心臓がうるさい。赤くなった頬に手を当てて、ジャックは今日一番の溜息を吐いた。
    (なんで俺は物足りないって思ったんだ!)

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