西の国の古い歌 ららら、と歌い出したのは少し酔ったクロエだった。西の魔法使いがたむろしていた魔法舎のバーでは窘めるものなどおらず、代わりにラスティカが一緒に歌い始める。クロエの高音とラスティカの中低音が重なるのを、シャイロックとムルは聞いていた。クロエは歌詞が曖昧で喃語のようになっている。意味をわかって歌っている訳ではなさそうだった。ラスティカはというと、そんなクロエを微笑ましい目で見ていた。
「随分と懐かしい曲だね」
ムルがにんまりと笑う。クロエはきょとんとしたが、ラスティカは微笑んだ。
「クロエが知っているなんて。貴方が教えたんですか?」
「うん」
シャイロックが言えば、ラスティカは頷いてワインを飲む。クロエは少しだけ唇を尖らせた。
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