翔→巻 (あまてる風味を添えて)「巻緒アニさん、ちょっと持つぞ」
「ありがとう玄武くん」
ソファに座っていた僕は、視線の先で起きた光景に息をのんだ。
本棚の上にある段ボールを取りたいらしい巻緒さんを、玄武さんが抱え上げたのだ。まるで大きな荷物を肩代わりするみたいな言葉とともに。
玄武さんは、315プロの中で雨彦さんに次ぐ高身長だ。体格もよくて筋肉もしっかりついているから、巻緒さんが段ボールに向かって腕を伸ばしてもふらつくことなく支えている。巻緒さんも、玄武さんが支えきれずに落とすなんて全く考えてないみたいだ。
もし、僕の背が玄武さんくらい高かったら。もし、僕に巻緒さんを抱えられるだけの力があったら。もし、僕が巻緒さんと同じ年だったら。
きっと僕だって、困っている巻緒さんを助けることができたのに!
目的の箱を抱える巻緒さんを、玄武さんがゆっくり降ろす。まるでダンスのエスコートみたい。
ああ、悔しいな。
今の僕には、困っていた巻緒さんを助けることができなかった。足りない身長や力が巻緒さんと僕との距離みたいで、悔しいし歯がゆい。
「すげー顔だな、翔太のヤツ」
向かいのソファから、冬馬くんの言葉が聞こえた。たぶん独り言のつもりなんだろうけど、僕に聞こえてちゃ意味なくない? そう思ったけど、今の僕は冬馬くんにツッコミをいれるだけの余裕はなくて、代わりにため息をついた。
北斗くんが小さく笑った声が聞こえる。
「冬馬だって同じ表情をしてたよ。天道さんが他の人と楽しそうにしてた時に、ね」
「なっ⁉ おっ、俺は別に…!」
二人のやり取りを聞き流す僕の目の前を、段ボールを抱えた巻緒さんが小走りで駆け抜けてく。僕は、巻緒さんが見えなくなるまでその姿を目で追い続けた。