まだ、月が満ちるには少しだけ日が足りていない夜のことだった。
江澄は露台の端に座り込み、手すりの間から足を空に投げ出した。片手に持った酒壺から杯に酒を満たす。
雲夢の、飲みなれた酒だ。
味は良く知っているのに、今晩はそのおいしさが逃げてしまった。
中秋節を数日後に控え、江澄は十日ほど前からひどく忙しい毎日を送っていた。屋台の仕切り、出し物の準備、食材の調達、ぜんぶ宗主の仕事である。
そんな中でも楽しみはあった。同じく忙しくしているであろう藍曦臣から、どうしても一日だけ会いに行きたいと、時間を作ってほしいと文があった。
互いに宗主の身である。多忙ゆえになかなか会うこともかなわない。それは承知の上だった。
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