生きている音「先程は失礼した」
声をかけてきたのは、従者の方からであった。
幕舎の前に立ち、寝ずの番の構えだろう。外は夕闇が支配し、小さな篝火すら明るく眩しく感じられた。
黒甲冑は戻る足を止め、改めて従者をながめた。背こそ女性にしては高いが、僧兵の鎧を着てはいても、胴の厚みや腕の太さが女性のそれだ。見誤った原因は立ち居振る舞いだろうか。
「…こちらも、手加減の出来ぬ性質で」
従者が頭巾を上に引き上げて真っ直ぐにこちらを向いた。照らされた顔は、目元の朱塗りが目を大きく、厳しく見せている。
「多少だ。問題ない。
あの程度で壊れるような鍛え方はしていない」
この女。
「「夢読み」は王女であったが、おぬしは何者だ」
小刀を抜き、素手になっても首を狙う身のこなしは並の者ではない。
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