花を贈る 弟のことは、隣の部屋に待たせたきり忘れていた。
報告など、どうせ聞かなくても分かっている。戦地に送り出した弟は、今回もまた無事に帰ってきた。そのこと自体がすでに報告――戦は我が方の勝利で終わったという報告――であるのだから。
積み上がった書類へ粛々と目を通し、机の上がおおかた綺麗になった辺りで不意に弟のことを思い出した。他の者を通じて「用事が片付かないからまだ会えない」と返答はしておいたが、帰るようには言っていない。きっと愚直に、通された一室で待ち続けているのだろう。机を片付け、立ち上がった。
応接室を覗けば、案の定弟の丸い頭が視界に映る。背中を向けた恰好で、ソファに腰を下ろしていた。小生が部屋に入るなり飛び上がってこちらを振り向くかと思っていたが、ドアノブを回しても革靴のかかとが音を立てても相手は微動だにしない。おそるおそる近付き、表情を窺う。
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