支度 廊下の先、細く開いた扉の向こうからは、温かなみかん色の光がこぼれている。肉や野菜を煮た食欲を誘う香りも漂ってきて、タネトモはふと足を止めた。
軍の幹部たちが食事をとるための小さな一室だが、階下にある大食堂でも同じように食事の支度がなされているに違いない。あたたかな料理の香りは直に廊下を伝って広がり、宿舎にいる者たち皆の元へと届くだろう。
部屋の中には誰かがいるらしく、廊下の壁にこぼれてくる灯りは時折遮られてちらちらと動く。動きと動きの合間に熟慮が入るのか、光の揺らぎは不規則だ。どうも手慣れたスタッフの動きではないと、タネトモは半ば訝しみながら近付いていくと、ドアノブを静かに引き開けた。
食卓の上には、いつもと変わらずほんの数人分だけの食事が用意されようとしている。折敷の上に並べられた椀、艶のある塗り箸。小鉢のひとつを覗き込んで盛り付けを調整しているのは、事もあろうに総大将の弟だった。
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