壺中犬一、
其は惨憺たる有り様であった。八足門の構えも空しく邸内の至るところに転がる死体を血に昂る半獣達が臓腑を喰らい、引き摺り出し、欲望の全てを叶えんと暴虐の限りを尽くす。其は全く地獄であった。
吐き気を催しそうな光景に眉一つ動かさず、五月雨は邸内の生体反応を探った。今日が初陣の彼が命じられた役割は斥候である。紫色の瞳を伏せて、そこかしこで上がる絶鳴の吐息を数える。
「殲滅したか」
「恐らくは」
戦闘可能な成体の反応はもうなかった。ただ、違和感を一つ覚える。
「中央の塗籠のあたりに、何やら反応が」
「確認せよ」
「は」
庭先からも火の手が上がったようだ。ぱちぱちとはぜるような乾いた木材の焼ける音にかきけされそうな、小さな気配がする。
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