「髪、切らないの?」
毛先を弄っている兄に尋ねる。事故に遭って入院してからずっと伸ばしっぱなしで退院しても切らずじまいで今は背中を覆い隠すほどの長さになっていた。
「まあね」
短く答えたきり兄は口を閉ざした。すると兄は髪を掻き分けた。
「麻里には言わない方がいいかと思って」
長い髪を分けて見せたのは一筋の傷跡だった。
「無かったらこんなもの残ってなかったんだけどな・・・」
兄は自分の頭を撫でながら自嘲気味に呟いた。その表情からは何も読み取れない。
兄の頭に残っている傷跡を私は見つめていた。
「お兄ちゃん、これどうするの?」
「どうもしないよ、ついちゃったもんだから。あ、枝毛」
髪を下ろして再び手櫛を入れ始める。
「切るよね?」
2245