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    ムー(金魚の人)

    @kingyo_no_hito
    SS生産屋

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    POIPOI 61

    モクチェズワンライ1218「吹雪」で参加です。
    ヴ愛の夜行列車から飛び降りた直後のモさんの独白。

    目の前に広がるキャンバスを彩るのは、白と黒の2色だけ。
    光も通さない夜闇の黒。
    足を囚える雪原の白。
    天と地の境界を曖昧にするのは灰色の吹雪。
    「――………」
    深夜の雪山を歩み進めるひとつの影があった。
    ヴィンウェイの夜行列車から飛び降りたモクマだ。雪深い高山を列車の進む方向とは逆側へ向かって突き進む。下半身全体で雪を掻き分けながら、目を凝らす。
    「……!」
    モクマのまだ踏み入れていない地面に穴があった。穴から手前へ引きずるようにして伸びるミミズ腫れのように盛り上がった雪は、モクマ以外の人間が通った跡に違いない。モクマを置いて先に雪原へと逃げてしまった男の存在証明へモクマは飛びついた。
    雪原の中、真っ白なキャンバスに引かれた黒い線を辿ろうとモクマは足を持ち上げた。
    びゅううううう。
    あっという間に黒い影は目の前で真っ白に塗りつぶされた。
    「……ぐぅっ……!」
    目の中に氷の粒が入ってしまって、モクマは反射的に目をとじる。
    酷い吹雪だ。凍てつく風と凍える厳しい寒さに身が竦む。強い向かい風に息も満足に吐けない。山の全てがモクマの行く手を阻む。
    人を寄せ付けない自然の厳しさと対峙し、頭をよぎるのは相棒の安否だった。大傷を負っている彼がこの白黒な世界で息が出来ているのか心配だった。否、あの黒穴のところで力尽きて倒れてしまっているかもしれない。
    膝が埋まるほど深い雪に足を取られながら、黒い影を見つけた場所へからがらたどり着く。
    「はぁっ……はっ、はっ」
    青白い雪を掻き分ける。掘っても掘っても現れるのは冷たい雪の塊のみ。それも吹雪ですぐに埋もれ、掘った端からかき消える。地面を掘るモクマの身体にも容赦なく雪が吹き付ける。このまま雪の塊となって地面との区切りがなくなってゆくようだ。
    「っ………はぁ、………」
    ――こういう大自然を前にするとね。 本当は、なんにも区切られてないんじゃないかと感じるよ。世界も、人も
    大自然の前では人は等しく無力だ。
    無敵の武人と恐れられる人間でも、雪の中に消えた大切な相棒一人すら見つけ出してやれない。
    「く、………っ………はぁ」
    ――ただっぴろい自然の中にいると、自分がかき消えるような感覚があってね。存在ごと呑み込まれるようで、気が安らいだもんだった
    休まるどころか焦燥から鼓動はずっと騒ぎっぱなしだ。
    モクマの身体は吹雪に見舞われて雪だるまになっていく。自分の個としての存在が雪原の中の木と変わらなくなる。
    昔は自然の一部になって、自分という境界がなくなることに憧れていた。昔の自分ならば、今の状況は生を諦めるに丁度良かった。
    だけども、今は勘弁願いたい。
    (どうか吹雪よ、止んでくれ)
    掻き消さないでくれ――夜行列車から飛び降りた相棒が歩き進んだ道の跡を。
    雪で埋めないでくれ――命の炎を苛烈に燃やしながら生き急ぐ男の身体を。
    手が震える。寒さにかじかみ、雪をかくスピードが遅くなる。大分掘り進めたが、人が埋まっている気配はない。
    ここではないのか。
    「くっ………雪が……」
    吹き付ける雪に再び目を潰された。防衛反応から目尻に涙が浮かぶ。
    吹雪によるモザイク模様の景色が更に滲んで映った。
    「……ん?」
    目元を擦る。
    掘り進めた場所から少し外れた奥側、木の根本に黒い影があった。
    モクマは立ち上がり、雪を踏みしめながら影へ近づく。
    モクマの目頭から暖かな涙が滑り落ちた。
    「……………。チェズレイ」
    吹雪よりも静かな男の吐息が、愛しい存在の名前を呟く。
    モクマは膝をつき、チェズレイの上に積もる冷たい雪を払いのけた。
    白黒の世界の中で青白く輝く命を掘り起こし、抱き起こす。血の気が引いて蒼白なチェズレイの顔を自分の胸へ押し当てて横抱きにし、モクマは立ち上がった。
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    ぱんつ二次元

    DONEED後時空でカジノでルーレットするモクマさんのモクチェズ。モブ視点です。 軽やかなピアノの音色に合わせて澄んだ歌声がホールに響く。カジノのBGMにしておくには勿体ない美しい声が、けれどきっと何処よりこの場に似合う挑発的な歌詞を歌い上げる。選曲はピアニスト任せらしいのでこれは彼女の趣味だろう。
     鼻歌に口ずさむには憚られるようなその歌が、どれほどこの場の人間に響いているかは分からないけれど。
     ルーレット台の前には、今日も無数のギャラリーがひしめいていた。ある人は、人生全てを賭けたみたいな必死の面持ちで、ある人は冷やかし半分の好奇の視線で、いずれもチップを握って回る円盤を見つめている。
     片手で回転を操りながら、もう一方の手で、乳白色のピンボールを弾く。うっとりするほどなめらかな軌道が、ホイールの中へとすとんと落ちる。かつん、と、硬質な音が始まりを告げる。赤と黒の溶けた回転のうちがわ、ピンに弾かれ跳ねまわるボールの軌道を少しでも読もうと、ギャラリーの視線がひりつくような熱を帯びる。
     もっとも、どれだけ間近に見たところでどのポケットが選ばれるかなんて分かるはずもないのだけれど。
     ルーレットは理不尽な勝負だ。
     ポーカーやバカラと違って、駆け引きの余地が極端 9552

    💤💤💤

    INFO『シュガーコート・パラディーゾ』(文庫/152P/1,000円前後)
    9/19発行予定のモクチェズ小説新刊のサンプルです。
    同道後すぐに恋愛という意味で好きと意思表示してきたチェズレイに対して、返事を躊躇うモクマの話。サンプルはちょっと不穏なところで終わってますが、最後はハッピーエンドです。
    【本文サンプル】『シュガーコート・パラディーゾ』 昼夜を問わず渋滞になりやすい空港のロータリーを慣れたように颯爽と走り去っていく一台の車——小さくなっていくそれを見送る。
    (…………らしいなぁ)
    ごくシンプルだった別れの言葉を思い出してると、後ろから声がかかった。
    「良いのですか?」
    「うん? 何が」
    「いえ、随分とあっさりとした別れでしたので」
    チェズレイは言う。俺は肩を竦めて笑った。
    「酒も飲めたし言うことないよ。それに別にこれが最後ってわけじゃなし」
    御膳立てありがとね、と付け足すと、チェズレイは少し微笑んだ。自動扉をくぐって正面にある時計を見上げると、もうチェックインを済まさなきゃならん頃合いになっている。
     ナデシコちゃんとの別れも済ませた今、ここからは本格的にこいつと二人きりの行き道だ。あの事件を通してお互いにお互いの人生を縛りつける選択をしたものの、こっちとしてはこいつを離さないでいるために賭けに出ざるを得なかった部分もあったわけで、言ってみれば完全な見切り発車だ。これからの生活を想像し切れてるわけじゃなく、寧ろ何もかもが未知数——まぁそれでも、今までの生活に比べりゃ格段に前向きな話ではある。
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    ムー(金魚の人)

    DONEモクチェズワンライ0213「甘味」で参加です。
    モクチェズ初めてのバレンタイン、と言っていいのかなコレ。

    ※大祭KAGURA後、ミカグラ島を発つ前
    モクマの退院は「大祭KAGURAから数週間後」なので大祭KAGURAを1月末開催とし、バレンタインの時はまだ入院中と仮定してます
    『恋の味 確かめてみて』
    「お?」
    テレビから聴こえてきた馴染みある声にモクマは食いついた。
    DISCARDと決着が付いた後、モクマはほか3名の仲間と共に病院送りとなっていた。戦いで傷ついた身体を癒やし、4人部屋で他愛のない話をしては大笑いして看護師さんに注意を受けていたのもはじめの1週間だけ。その後、アーロン、ルークに続いて先日チェズレイも退院してしまった。今は大部屋を独占状態だ。
    モクマの退院は順調にいってあと1週間後らしい。これが若さか……と自身の重傷具合を棚にあげて心で泣いた。
    一人きりになったモクマの退屈を癒やしてくれたのは、個室に備え付けられている19インチの液晶テレビだった。
    そのモニターには赤いバラをあしらったドレスを着た歌姫スイが自身の楽曲をBGMにミカグラチョコレートの宣伝をしているところが映っていた。四角いチョコレート菓子を頬張る笑顔が眩い。
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