フラッグシップの恋だった②side:武道
初めて七海を目にした時、腹に一物を抱えているタイプだと強く信じて疑わなかった。少し長めの柔らかな髪は一見分かりにくいがツーブロックで、軽く波打つ髪をビル風になびかせる姿は、それは優美だった。
好奇心が強いのだろう、ポケットに手を入れたグレーのチェスターコートを翻しながら物珍しげにこちらへ闊歩する様は、ここがランウェイかと錯覚するほどだ。
鳩尾への重い一撃に、毛虫のように地面で蠢く武道に周りが無関心を装う中、甘いマスクの男をより完璧に仕上げる立役者の長いコンパスには思わず下敷きにしている材木を突っ込んでやりたい衝動に駆られた。
女性に事欠かない人生であり、これからもそうなのであろう男にやっかみからの悪戯心が沸き立つが、話してみるとこれが意外と愉快な人間だった。
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