夏伊(←五)
懐かしい香りがする。
あぁ…傑が吸っていた香り。
誘われるように階段を駆け上がっても、きっとそこには居ないのに。
扉を開けると、すっきりとしたソーダ色が広がっていた。
そこに甘い雲をトロリトロリと焚いている伊地知を見つけた。
「い〜じ〜ちっ」
いつものように後ろから抱きついて、笑いかける。振り返った顔は冷たくて、呆れたように吐き出す。
「五条さん…」
「伊地知、それ好き?」
「えぇ、まぁ…私より五条さんの方がお好きでしょう?」
「僕?」
五条は首を傾げ、ふざけたように左上を眺めた。
上には空しか無い。あの世に向かってとぼけた顔を見せる。
「甘いよね、僕、好きだよ」
「……そうですか」
「伊地知は?好き?」
「…さぁ?…分からないですね」
2112