①「“…ですが、そこは世紀の大天才、稀代の知恵者ムル・ハート。男たちがえいやっと振りかぶった棍棒をひらりと避けて、逆さのまんま問いかけます。
『以前、貴方は定義したのです。覚えていらっしゃいませんか』
とんがり帽子が床に着く前にひょいと浮かせて地面に立つと、ゆっくりとこちらへ近づいてきます。
小太りの男は尻餅をついたまま後退ります。覚えていないのかと言われても、脂汗が流れるばかりで何も思い当たらないのです。
男の周りを囲っていた着飾った女たちは、いまや近寄るそぶりもありません。
『そう怯えないで。俺は経過を観察しに来ただけです。それでは、なぞなぞを出しましょう』
ムルは眉を下げながらそう言ったですが、男は震えるばかり。それもそのはず、どんなに優しげにして見せても、不敵で不遜な性根ばかりは隠しようがないのでした。
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