This is Love注意
鉄カオ描写があります
カラダが…あつい……。
なんだ……これ……?
心臓がドクドクする……。
ケツがムズムズして、なんか……出てる……。
俺のカラダ、どうなっちまったんだ……?
もう無理だ……。
あついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあつい
誰か助けて…………誰か……誰か………………
「か……ねだ…………」
そのとき、扉からバン!と派手な音がした。
「鉄雄!」
あぁ、金田だ。
頭がグラグラして、目もよく見えねえけど、わかった。金田の匂い。
「鉄雄!大丈夫か!?しっかりしろ!」
「か…ねだ………………んっ……!」
金田が俺を抱き抱えようとした瞬間、ピリッと電流みたいなモンが走った。
心臓がさらにドクドクする。破裂するかもしれねえ。
ケツからさらにドロッとしたモンが出た。俺、死んじまうのか?
熱くて苦しい。
助けて金田。お願い助けて。
助けて助けて助けて助けて助けて。
「鉄雄…おまえ……オメガだったのか……!?」
オメガ?オメガって……なんだっけ?
知らないそんなの。どうでもいい。
熱いんだ。熱くて苦しい。
でもなんだか……寂しい………………
寂しい寂しい寂しい!
助けて金田、寂しい、なんとかして、助けて、お願い、金田…………………………
「大丈夫だ、俺が助けてやる。鉄雄、大丈夫だ。」
ほんと?
うれしい!やっぱり金田ってヒーローなんだ。すき!すき!だいすき!ねえ助けて!熱くて苦しくて寂しくてしょうがないんだ。助けて金田。ねえ何するの?首……1番ジンジンするとこ……どうするの?
やっ!なんかこわい こわいこわいこわい!そこはやめて!ダメ!いやだ!!!!金田!!!!
「鉄雄……」
金田がこれまで聞いたことないような優しくて怖い声で俺を呼んだあと、首に鋭く大きな痛みが走り、俺は意識を手放した。
This is Love
ガハハ!と下品な笑い声が響き渡る。
寮を抜け出し、軽く流したあと、春木屋で飲む。いつも通りの夜だ。しかし、今日は酒を飲むヤツが多かった。
「な〜、金田と鉄雄はいつ番ったんだよ?」無神経な質問に思わず眉をひそめる。
ほらきた。仲間達と一緒にいるのは好きだが、酒が入るとこういう話題になるのが俺は心底嫌いだった。
「あ〜鉄雄と再会してすぐだったから1年前くらい?」
「へ〜、きっかけは?」
「鉄雄がヒ…」
「おい、金田!」
「ワリー!これ言っちゃいけねェんだった!ま、色々あったンだよ」
ンだよー!教えろーッ!そンくらいいいじゃねェか!と非難の声が挙がる。
金田が上機嫌に酒を煽るのとは反対に、俺の頭は急速に冷えていった。
「あ〜あ、でもαとΩっていいよなァ〜!βとしては羨ましいったらありゃしないぜ」
「だよなァ〜!こないだ、あの今話題のさァ〜αとΩの恋愛映画観たんだけどよォ、なんつーか血の繋がり?とかカッケーじゃん?いいよねェ〜」
本当にお気楽な奴らだ。イライラする。
「な〜、番ってどんな感じなんだ?」
「ン〜、別にそんな変わらねェけどなァ。」
金田は酔いが回ってきたらしく、ぼんやりとテキトーに答えた。
「あ〜でも、何考えてるか大体わかるようになった。」
俺は思わず誰にも聞こえないくらい小さな舌打ちをした。
マジかよォ!と面白いオモチャを見つけたように周りが囃し立てる。
「えっ、じゃァ鉄雄が何考えてンのかワカンの?」
「詳しくはわかんねーけど、喜怒哀楽くらいは伝わってくンぜ?鉄雄、そう怒ンなよ」
「鉄雄、怒ってンのか!?ワカんなかったぜーっ!」「へェ〜、番って面白ェのな!」と次々に歓声があがる。
ワカってんなら、答えンじゃねェ!と怒鳴りたかった。
そんな俺とは裏腹に、金田はみんなの反応を楽しんでるのが伝わってくる。
「でもよ〜〜、やっぱりαとΩって言ったらさァ…………」
ナァ?と周りのやつらが目を合わせだした。
「やっぱスゲェの?αとΩのセックスって……」
ガタン!と俺は反射的に立ち上がった。
「お前らいい加減にしろッ!デリカシーってモンがなさすぎンぞッ!」と甲斐が叫ぶ。
それさえも我慢できなくて、俺は足早に出口へ向かった。
「お前らさァ、そーいうコトは鉄雄がいないとこで聞けよなァ」
コッソリ教えてやんのによォ。と金田が呟くのと、甲斐が「鉄雄!」と呼ぶのを振り切るように、俺は乱暴に扉を閉めた。
この世には男と女という性別以外に、α、β、Ωという3種類の第2の性別がある。
生まれつきエリートでカリスマ性を持っているα。
最も人口が多くいわゆる"普通の"人間のβ。
そして繁殖に特化したΩ。
Ωは男であろうが女であろうが、妊娠することが可能だ。そのため、αより数が少なく、3ヶ月に1度"ヒート"と呼ばれる発情期がある。ヒート時にはΩ特有のフェロモンを撒き散らし、番のいないαやβまでも誘惑してしまう。ヒートは通常1週間ほど続き、その間Ωは言葉通り熱に苛まれ、自我を保てなくなるー
と教えられたのはいつだっただろうか。
中学の頃の保健の授業でやったのかもしれない。
だが、もうその頃から俺は学校なんてものにまともに行っていなかったし、通常12歳で受けさせられる検査も受けていなかった。
俺はΩだった。
劣等種だ。
この世で1番弱い生き物。
Ωは常に危険と隣り合わせだ。Ωとバレたら軽蔑する輩なんて腐るほどいる。ヒートの時にレイプされたって、Ωのせいになることが大半だ。
だからこそ、Ωは自衛するしかない。
抑制剤は常に持ち歩き、Ωという性について誰よりも知っていなければならない。
事が起こったのは、ここに来てすぐのときだった。
職業訓練校なんて、本当にどこにもいく場所がない奴らが送還される、最後の砦みてぇなモンだ。大体の奴らが野蛮でどうしようもない、餓鬼。
まさに俺だ。当然のごとく俺はここに連れてこられた。
そしたら、いた。
金田だった。
金田とは昔……もっともっとガキの頃に施設で出会っていた。
よく、覚えてる。
施設のクソガキ共にオモチャを奪われたんだけど、金田が取り返してくれたんだ。
思えば、もうそこから力関係は決まっていたのかもしれない。
その日から俺は金田の後ろをついてまわった。
施設を出ることになって、金田と離れてしまうまで。
離れてからも、金田のことはなんとなく忘れられなかった。
あの頃の俺を救ってくれる奴なんて、大人でさえ1人もいなかったから、本当に衝撃だったんだ。
金田は初めて俺を救ってくれた奴だった。だから、忘れられなかった。
職業訓練校にきて、金田と再会したときビリビリきた。よくわからないけど、そうとしか言いようがない。ビリビリ、きたんだ。
俺もビックリしたけど、金田も相当ビックリしたみたいで、あのときの金田の顔、忘れられない。
金田はすぐ再会を喜んでくれたけど、俺自身はあのとき、心の底から再会を喜んではいなかったかもしれない。
そのビリビリが、なんだか嫌な予感がして…。
結局、その嫌な予感は的中した
ほどなくして、俺は金田のバイクチームに入った。
バイクはよかった。
風にあたると気分が高揚して、なにもかも忘れることができる。
そう、楽しかったんだ。
アレがくるまでは。
ある日、自分のバイクをいじっていたら、それは突然きた。
俺はパニックになって、とりあえず近くの空き部屋に入り、落ち着くのを待った。
しかし、待てど暮らせど落ち着くどころか、悪化する一方だった。
当たり前だ。ヒートなんだから。
だが、俺は最悪なことに自分がΩだということも、Ωの存在自体も知らなかった。
死ぬんだと、思った。
俺は常にいつでも死んでいいと思っていた。
死にたかった。
だってそうだろ。俺にはなにもないんだから。
生きてたってしょうがない。
本心だった。自殺しようとしたことなんて何回もある。
だけど、人間ってのはやっぱり都合のいい生き物で、いざ死ぬかもしれない状況になると、生きたいって、心底思った。
恐怖した。死を。
俺は本気で助けを求めた。
でも、動ける状態じゃなかったし、周りに人がいる気配もなかった。
誰か助けてって必死に願った。
いや、正直に言うと、実際には"誰か''ではなく、''金田"を呼んだのかもしれない。
そして、金田は本当に来た。
ビックリした。すごく嬉しかった。
それは本当だ。
俺は金田に助けを求めた。そして、噛まれた。
頸を。
俺と金田は番になった。
「鉄雄くん!待った?ごめんね遅くなって…」
「カオリ……いや、今きたとこ。」
カオリはここで出会って初めて仲良くなったβの女だった。なんとなく、カオリとは波長が合って、一緒にいると落ち着いた。
「どうしたの?元気ないね…。何かあったの?」
そう、カオリはなんでも気付く。金田なんかよりよっぽど……
「いや……またアイツらが俺と金田のこと、からかってきただけ。」
「そっか……。みんなどうしてそういうことするんだろうね……」
「暇なんだよ。くだらねえ……アイツらに付き合ってちゃ、こっちがもたねえぜ。」
「金田くんは、そういうときどうしてるの?」
「どうって……」
金田も、一緒だ。アイツらと。
金田は番だけど、いや番だからこそ、俺を下に見ている。
「誰も……俺を同じ人間として……扱ってくれない…………」
思わず口から出た。
ずっと思ってたことだった。
「そんなことないよ!」
弾かれたようにカオリが身を乗り出して、俺の目を真っ直ぐに見つめてきた。
「そんなこと……ない。鉄雄くんは私と…みんなと一緒だよ。だから、そんなこと言わないで…」
カオリはそう言いながら、俺の手を両手で優しく包み込むように握った。
カオリ……。
やっぱりカオリといると本当に落ち着くんだ。
たまに考えちまう。
もし、俺が、
Ωじゃなかったら……………………
「鉄雄」
ハッとして後ろを振り返ると、金田が立っていた。
「金田……どうして……」
「ん〜、まあ大体番のいる場所くらいわかるモンだぜ? ど〜もォ、カオリちゃん?だったよね?鉄雄が世話になってるみたいで」
あっけらかんと喋りながら、金田は近づいてきた。
カオリはすぐに立ち上がって「あっ、金田くん……いや、そんなこと……」と、遠慮がちに呟いた。
「何しにきたんだよ」と思わず睨むと、「ン〜、最近よくどっか行くし、仲良いヤツでもできたのかなァ〜と思ってよォ……。だったら、挨拶ぐらいしとかなきゃだろ?」
番だし。
金田はニヤッとした笑みを浮かべた。
いつもの、人を小馬鹿にした、俺の大嫌いな笑みだ。
カオリが居心地が悪そうにこちらを見ていたので「カオリ、今日はもう帰れ。」と言うと、「エエ〜〜ッ!イイじゃん、もっとお話ししようぜ〜ッ?」と金田が抗議の声を挙げた。
「コイツといつも何話してんの?俺の悪口?ねェ教えてよ、カオリちゃん」
と、金田は明るい声とは裏腹に、じわじわとカオリに詰め寄った。
俺は急いで2人の間に入り、「カオリ、本当に帰っていいぞ。」と言うと、カオリはオロオロしながらも「ごめんね……鉄雄くん、じゃあまた……」と呟いて、遠慮がちに去って行った。
「こういうことすんの、やめろよ」
「こういうことって?別に何もしてねーじゃん」
「…………俺が…誰と仲良くしようが…俺の自由だ…」
「当たり前だろ。別にそのことに関しては何も言わねぇよ」
金田がゆっくり俺に近付いて、頸を触った。
「気付いてねえと思ってたら大間違いだぞ、鉄雄。お前の考えてることなんて、大体わかンだ。否が応でもよォ…」
心の中で舌打ちした。
だから嫌だったんだ。金田にカオリとのことがバレるのは。
俺はいつもの癖で俯きながら「別に……カオリとはそんなんじゃねェ」と呟いた。
「そう思ってンのはお前だけなんじゃねーのか。いや…………お前もどーだかな」
そう言われた瞬間、頭に血が上って思わず金田の胸倉を掴んだ。
「ふざけんじゃねェ……!なんでもかんでも決めつけンな!」
「だったら、俺の目ェ見て言えよ!」
そう叫ぶのと同時に、金田も俺の胸倉を掴んで凄んできた。
あ、ダメだ。と思った。
俺は腰が抜けてしまった。
当たり前だ。αとΩの力関係は"絶対“なんだから。
俺は、金田に逆らえないーーーーー。
「バカなこと考えんじゃねェぞ、鉄雄。お前は"俺のΩ''なんだ。そこんとこ忘れンなよ」
なんだそれ。
こんなことってあるか?
俺は、おまえのなんなんだ?
なあ、金田。