視線② 見ていただけ春の風がまだ冷たい今日。
両面宿儺を飲み込んで通い始めた、この高専を卒業する。
最初から死刑宣告をされていて、それを受け入れて過ごしてはいた。だけど、まさか卒業式を迎えることが出来るとまでは思っていなかった。
「先生には言ったのか?」
先生に最後の挨拶をして戻ってきた俺に伏黒が聞いてきた。
「言ったよ。でも、俺のとは違った」
「あの男も、絶対、あんたのこと好きだと思ったんだけど」
2人とも最後の挨拶の内容は知っている。乱暴な口調でも、釘崎に心配されていることは伝わる。
先生の事、ずっと好きだった。
きっかけというきっかけはない。ただ一緒にいる時間に安心できて、何かしていても先生のこと考えていた。いつしか、それが恋愛の意味での好意だと気づいた。
たまに、先生が俺のこと見ている時がある。気のせいだと気にしないようにしていても、やっぱり好きな人に見られていると思うと緊張する。
ある時その視線が、ただ見ているだけのものと違う、特別なものに感じた。
「んー、俺もそうかなって思ったんだけど…まぁ男相手で、しかもだいぶ年下だし…あの視線は、親心だったんかな」
先生は最強で容姿も人機は目を引く。
噂で「誰か一人に真剣にならない」と聞いたことがあった。元から伝えるつもりもない気持ちだったけど、それを聞けば勝ち目はないなと思った。いつか、その日が来た時にと秘めていた策が崩れる。
それでも、もしかして…と感じてしまったあの視線は、ただの親心からの視線だったのだろうか。
「はあ…今日は、ご馳走よ。あんたの為じゃないけど、たらふく食べれば、ちょっとは気分が紛れるでしょ」
「好きな物、選んでいいぞ」
「はは、サンキューな。じゃあ、やっぱりビフテキ!」
2人は慰めてくれている。
俺のこの感情を知った時も、2人は相変わらずだった。
「あの人はやめておけ」「あんた見る目ないわよ」と散々な言いようだったが、最後には「まぁお前が選んだなら」「後悔はしないことよ」だなんなて背中を押してくれていた。
あれから三年近く経つのか。
せめて卒業するまではと、仕舞っていた思いを伝える時が来た。けれど結果は惨敗。
『気持ちを伝えるだけ』そう思っていたはずが、結局先生を目の前にしたらそれ以上を求めていた。
先生、大好き
この言葉じゃ足りないことは分かっていた。
でも、もしも先生も…先生も同じ気持ちなら、何か起こると期待していた。
結果は何もなく、俺から「さよなら」と告げて終わってしまった。
前に「若者は、青春しなさい」と先生が言っていた。その言葉を胸に、毎日を楽しんだし、沢山の思い出もできた。
でも、ひとつだけ心残りができてしまった。
もしかしたら、もっと早く伝えておけば良かったのかもしれない。
もしかしたら、付き合って欲しいと言葉にすれば良かったのかもしれない。
もしかしたら、あの時…
そんな、もう叶わない過去のことを思い出してしまう。
先生、ありがとう。
大好きだった。
でも、さようなら。
この気持ちは忘れる。
そう誓って、前へ進んだ。