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    nanndemo_monyo

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    リンレト+なぜか匂わせ程度のディミアネ(NL)。リンハルト視点、アネットと話をするだけ。青獅子√クリア後想定。

    #リンレト
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    天秤あちこち劇場ディミアネとリンレト(俺しか得をしない)

    見慣れた橙色の髪が見えたので、まあ挨拶くらいはしておこうかなと思った。性格はだいぶ、真反対と言っていいほど違うけど、なにかと話す機会があった子だったし。きっかけとしてはただそれだけのことである。中庭で俯いていた彼女は視線に気づくとすぐさま立ち上がった。なんだろう、不穏だ。けれどどうするか決めるより早く、大股で歩いてきた彼女が声を出した。
    「リンハルト!今時間あるよね!?」
    「いや、もうそろそろ昼寝の予定が」
    「それは予定じゃないから!ごめん、ちょっと来て!」
    完全に面倒ごとだ。ため息をつきながら引き摺られていくと、食堂を抜け、ため池のほとりにまで出る。ちょうど温室の手前あたり、人気のないところまで来ると、アネットは意を決したように振り返った。昼下がりの穏やかな木陰が目に入って、本当は今あそこで寝てたはずなんだけどな、と思った。
    「先生と結婚するって聞いたんだけど、本当?」
    「ああ。まあそりゃ、君の耳にも入るよねえ」
    何せ先生は次期大司教だ。レア様の強い推薦で決まった職務を、彼はあっさりと引き受けた。そして人目も何も憚らない、剛胆なところのある人なので、もっとあっさり僕との婚約を公表した。もちろんまだ何も正式な形ではないけど、内々に、となれば自然とかつてのクラスメイトが中心になる。わりと驚かれた上で特に何も訊かれてこなかったので、のらくらと過ごしていたけれど。とうとうこの時が来た。
    「……どうして、結婚しようと思ったの?」
    「そりゃまあ、好きだからだね」
    「先生のことが?それとも先生の紋章が?」
    「前から思ってたんだけど、君って結構僕に対して遠慮がないよね」
    「あっ、ごめんね!?ついいつもの感じで言っちゃった……」
    素直さは彼女の美徳だ。良い意味でも悪い意味でも。真っ直ぐな視線に妙な勘繰りや邪推はなさそうで、まあいいか、と妥協する。
    「紋章ももちろん好きだけどね。何せ先生の紋章はもう彼以外誰も持ってない。後世に残る価値が間違いなくある。研究するなら近いところにいた方がいいし、そういう意味でも色々都合は良かったかな」
    「……それって、紋章のために結婚したって言ってる?」
    「言ってないけど」
    小首を傾げる様が続きを促している。これだから人と話すのは面倒なのだ。別に彼女が悪いわけじゃない。ただ、どうも人と話しているとこういうことになりやすい性質らしいのだ。逆にならないのはカスパルか、先生くらいなものでごく少ない。妥協はしたけど話をどこまで続けたものか。と思っていると、どうやら彼女は強引に呑み込むことにしたらしい。
    「じゃあ違う、ってことだよね。好きだから?」
    「嫌いだったら、結婚て形にはならないよ」
    「もう、リンハルトってどうしてそんなにひねくれて……」
    そこでアネットはハッとして言葉を切った。何か思い当たる節でもあったような気づき方だ。
    「違う、そういう話をしに来たんじゃないの」
    「じゃあ何?」
    「……大司教の伴侶になる、って、面倒だって思わなかったの?」
    「思ったよ。ものすごく思った」
    目をきょとんと丸くして彼女はこちらを見つめる。本当にわかりやすい人だ。
    「だって明らかに忙しいだろう。配偶者ともなると、式典なりなんなり、政務だってかなり手伝わされるだろうし。一応学者職を兼任してなんとかしようって話はしてるけど、そもそも先生自身、まだ内部の根強い反発がある。そううまくは転ばないだろうね」
    「そこまで考えてるのに、結婚したんだ……」
    「先生と一緒にいられる時間の大義名分と、逃れられなさそうな雑事を天秤にかけた結果だね」
    結局は先生への興味だとか、好意だとかが思った以上に大きかったらしいのだ。先生は平然と指輪と共に受け止めていたけれど、これでもまあまあ考えた末の結論だった。拒絶されていたらあまりの徒労で色々と嫌になっていたと思うし、本当によかった。
    「……リンハルトなら、確かに先生の伴侶に向いてるのかも」
    初めて言われた。少なくともここ数節で一切なかった類の感想だ。驚きをそのまま言葉に出すと、アネットは「そういうところだよ!」と矢継ぎ早に喋り出す。
    「男の人同士だとか、家のこととか、教会のこととか……。あたしだったらすごく考えちゃうと思う」
    「いや、だから結構考えたんだって」
    考えざるをえなさそうなくらい周囲からも言われた。多分話が通じなさそうと思われている僕より、先生への意見の方が多かった。あの人もあの人で空気を読まないので、特に問題だとは思ってないらしいけど。
    「でも、結論を出して向き合ったんでしょ?すごいよ。リンハルトらしくないって思うくらい」
    「褒めてないよね、それ」
    「うっ、ごめん……。でもすごいって思うのは本当だよ」
    「だろうね。君の言葉だし、疑う余地はないよ」
    不思議そうな顔で返された。色々と言われはするけど、これでも他人のことを全く見ていないわけじゃないのだ。
    「君は誠実だからねえ。責任とか影響とか家とか、色々考えるだろうね。僕とは違うから」
    「……でも、あたし今は、リンハルトのことが羨ましい」
    「そう?別に無責任になんていつでも、いくらでもなれるけどね」
    王国出身者が多いせいか、入学時から青獅子に配属されていた人たちはどうも生真面目だ。土地柄だというのはわかる。厳しい寒冷地域では、規律を破るものは共同体全体の害になる。身勝手な行動は何人もの生命を巻き添えにする。地域差で共同体、あるいは人間の性格差が出やすいのは既に研究も立証もされていることだ。すなわち、フォドラ中央やや南出身の僕が彼らのことが理解し難いのも、論理的にごく当たり前のこと。勿論逆も然りだ。
    「少しくらいどころか、もっと自分のために生きたって良いと思うけどね、僕は」
    僕自身、そういう道を選べたのは、それを叶えてくれる人を見つけたからだけれど。言うに及ばないことだから口にはしなかった。しばらくぽかんと話を聞いていたアネットは、徐に拳を握りしめた。
    「あたし、……陛下と話してくる!」
    「え?なんで今、陛下が?」
    「リンハルト、ありがとう!今度お菓子持ってくるから!!」
    そのままパタパタと駆け出すと、彼女はあっという間に見えなくなっていった。いまいち話が読めない。
    「……いや、まあ察しはつくんだけどさ」
    ついたところで、まあ他人事だ。あの様子なら別に悪い方にはいかないんだろうし。急にあたりが静かになった気がして、ふわ、と込み上げたあくびを溢す。随分喋ったので疲れた。せっかくまだ昼過ぎなのだし、今のうちに寝ておこう。木陰に身を寄せて座り込むと、窓枠越しに薄緑の髪が靡くのが見えた。じっと視界に入れていると、不意に人影が窓辺に立つ。ひらひらと、まだ黒い手袋越しの手が揺れるので、僕もゆったりとそれに返す。こういう穏やかさを続けていけるのなら、と最近は思う。天秤をわざわざ取り出して、傾きを考えた甲斐があるものだ、と瞼を下ろしながら思った。
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