寝室の、カーテンを開けてから彼を起こす。
揺らすのではなく優しく叩いて起こす。
その日の体調によっては、揺らして起されるとつらいと前に言っていたから。
「おはようございます。五条さん、今日の体調はどうですか。」
「ん…おはよう七海…昨日お前が無茶した分の腰以外は元気だよ。」
「すいません。つい、久しぶりだったもので…体調が大丈夫そうで安心しました。」
「別にいいよ。僕も久々で嬉しかったしね。だから、おあいこ。それに今日はずっとそばにいてくれるんでしょ?」
「ええ、今日とは言わず1週間ほどゆっくりできますよ。次の撮影が始まるまで、時間があるので。」
今生では、七海は俳優として生計を建てている。
ありがたいことに、食べるのに困るどころかいい暮らしができるくらいには仕事がある。
労働はクソ、呪術師もクソと言っていた前世だが、どうやら、自分には役者があっていたようで時々労働時間の長さや、業界の闇にクソだと思う事はあるが、前世ほどの嫌悪感は抱いていない。
それにこの世界では、死と隣り合わせではないことが1番の心の安定だったのかもしれない。
前世で出会った人たちは皆同じように転生していて、学生時代に死んだ灰原は七海と同じ様に俳優になっていて、ヒーロー俳優として有名になっていた。
皆それぞれ、その人らしい職業についていたり、意外な職業についていたが、皆幸せそうだった。
前世で恋人だった五条は小説家になっていた。彼と再会したのは、七海が初の主演ドラマの原作者が五条悟だった。
再開した五条は前世の代償なのかあまり体が丈夫ではなかった。
「じゃあさ、今日はゆっくりして明日はどっか出かけようよ。」
「いいですね。明日も五条さんの体調がよければそうしましょう。」
「大丈夫だよ。みんな過保護なんだから…」
「前と違って、体弱いんですから、過保護にもなりますよ。」
「それにしてもだよ。ちょっと咳するだけでもみんな大袈裟なんでもん。」
「あなたにはそれくらいがちょうどいいですよ。それくらいしないと、酷くなって辛くなるのはあなたなんですから。」
「そうだけどさ…もうちょっと自由にさせてくれたもいいのにさ。」
「そう思うなら、前みたいな無茶はやめてください。」
「善処はする」
「知ってますか。それは、日本だと断りに使う常套句なんですよ。」
「知ってるよ。クセだからしょうがないんだよ。」
「でしたら、過保護になるのはやめられませんね。今日は午後から、気圧が下がるそうなので、具合が悪くなったらすぐに言ってください。」
「はーい」
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午後昼ご飯を食べ終え2人で映画を観ながらくつろいでいる時だった。
「七海…」
「どうしました?」
「ちょっとだるいかも」
「顔見せてください。」
顔を上げた五条の顔色は、白を通り越して青白かった。
「かなり顔色悪いですが。本当にちょっとですか。」
「いつもの具合悪い時に比べたら、少しだよ。」
「それが問題なんですよ。いつから具合悪かったんですか。」
「うーん1時間前くらいから、なんとなくかな」
「はあ。無理しないでくださいといいましたよね。」
「ごめん。」
「ああ、謝ってほしいい訳じゃないんです。言い方が悪かったですね。すいません。何回も言ってますが、貴方の辛い時間を私も共有したいので、少しでも具合悪かったら言ってくれると嬉しいいんですよ。」