水中波の音が聞こえる。水の中を、泡が登っていく。
波によって巻き上げられた砂は互いに擦れ合いながら水を濁し、引き波の時にサラサラと囁きのような音を立てる。
あづまは目を閉じたまま、その音を聞いていた。
水の中は心地いい。自分は赤ん坊だった時はないが、羊水の中に浮かぶ胎児はこんな心地よさを感じているのだろう。
目を開けると、見知った池の中だと現実に引き戻された。濁った水。掃除されてはいるが、それでも心ないならずが捨てていくゴミが所々に浮かんでいる。
汚い水。綺麗ではない水。緑色に濁った水。
不自由ではないが、望みを高くしたところでどうにもならない。
広い海で自由に泳ぎたい、とか綺麗な水の中でのんびり過ごしたい、とか。思っていることは沢山ある。
しかしこの世の中は自分が思っている以上にどうにもならないらしい。
案外煩わしいものだ。
彼はまた目を閉じる。
夢の中ならば自由にできる。何を考えようと夢想しようと自由だ。
たまには1人も気楽だな。
あづまはそんな事を思いながら微睡みの中に落ちていった。