とある国のとある種族の話昔々、この国にはハーリガという生き物がいた。
熊のような大きい身体にヤギや羊のような角と垂れた耳を持った繊細で力持ちな生き物が確かにいた。
この国ではハーリガは、なぜかひどい扱いを受けていた。
特にニンゲンやエルフは、ハーリガをバカだと言っていじめたり、それをよしとしていた。
理由を聞いてもみんな首を傾げたり、理由になっていない理由を言ったりした。
だれもハーリガをなぜ嫌うのか、わかっていなかった。
それでもハーリガはこの国にいるしかなかった。他に行くあてもなかったからだ。
中にはハーリガをいじめない人々もいて、そういう人々は寄せ集まってなんとか楽しくやっていたようだった。
ある日、この国の偉い人とハーリガの偉い人がケンカをした。
もっとまともな扱いをしてくれ、と頼んだのがきっかけだった。でもこの国の偉い人は、どうしてもそれが嫌だったらしい。
ハーリガの偉い人に自分の部下をけしかけた。部下は魔法を使って、ハーリガの偉い人をバラバラに砕いてしまった。
そうしてハーリガの偉い人はあっけなく死んでしまったのだった。
そこからハーリガはさらにいじめられるようになってしまった。
生き物ではなく、何をしてもいい存在になってしまった彼らはいじめられて、殺されて、角を取られ、毛皮を剥がされて、どんどんいなくなっていった。
ハーリガは牙を剥く事すら許されなかった。
ある時、ニンゲンの偉い人が突然「やめよう」と言った。
もう手遅れだったのだけど。
こうしてこの国にはハーリガはいなくなった。
彼らはいなくなった。
彼らの言葉も
彼らの歌も
彼らの宗教も
彼らの絵も
写真も、芸術も、何もかも。
生きた証はほとんど残らなかった。
残ったのは「彼ら」が「彼ら」であった事だけ。
文字の中で「被差別種族」という言葉として残されるだけ。
失った彼らを呼び戻す術はもうない。