狐の嫁入り(仮)ブライダル業界で忙しいのは、何もジューンブライドの絡む6月だけじゃない。定期的に開催されるブライダルフェアには、未来の花嫁と花婿が、幸せオーラ満開で沢山やって来る。此処、Luxiem Hotelだって、その中のひとつだ。Luxiem Hotelはブライダルに関しては一流とも言われる程、衣装、演出、料理、その他諸々、精鋭のブライダルコーディネーターが提案をしてくれる。そのブライダルコーディネーターというのが、
「一生に一度の事なんだから、演出や音楽も好きな風に出来るよ!ヘビメタだって平気平気!」
このMysta Riasと、
「もし御両親の目が気になるようでしたら、披露宴はスタンダードな曲目にして、友人のみの二次会で好きな曲を流す手もありますよ」
闇ノシュウである。
相談カウンターに席を並べている此の二人は、異母姉妹という奴で、今はブライダル業を引退した父の影響を受けて、揃って此処でブライダルコーディネーターとして働いている。新郎新婦には好きなように披露宴をして欲しいMystaと、料金や双方の招待規模、両親の目などを考慮してプラン提案するシュウが、歯車が噛み合うかのように新郎新婦の願いを聞き入れてくれる。
「Mysta、ちょっとの間一人だけど大丈夫?」
「ヘーキヘーキ!それよりシュウはお客様をご案内して。そろそろ模擬披露宴も始まるし。」
「ん、行ってくるね。」
会場の規模が知りたいと言う新郎新婦に、大宴・中宴・小宴の会場を案内しにいったシュウ。相談カウンターも、模擬披露宴の時間が近付くと暇になってきた。Mystaは欠伸をしようと口を開けるも、そこに現れたのが、このホテルの幹部とも言える存在、
「こら、お客様の前で欠伸なんぞ見せるものじゃないよ」
Vox Akumaだ。
「Daddy、」
「此処ではその呼び方はやめなさい」
MystaはVoxの事を、何故だがDaddyと呼ぶ。その包容力故か否か、真相は姉妹のシュウにも解らない。
「今日の模擬披露宴の新郎役Voxでしょ?衣装室で新婦役のIkeが待ってるよ。ウェディングドレスの試着体験時間はもう一旦切ってるだろうし。」
IkeはVoxの古い友人で、衣装室に勤めるホテルきっての美人コーディネーターだ。今日の模擬披露宴では、新郎Vox、新婦Ikeで一風変わった披露宴、ゴシックをテーマにした、黒基調の模擬披露宴をやる予定。………だった。
「それが、」
「???」
「Ikeが体調を崩してしまってね。試着体験会の後、トイレに籠もってるみたいなんだ。」
「マジ!?どうすんの、代わりに…Lucaは?アイツなら、」
「Lucaは今日の演出担当だろう。もう音響照明ブースにスタンバってる。」
「じゃあシュウを呼んで、」
「お客様対応中だろうシュウは。…ところでMysta、今手は空いてるかな?…空いてるよな。行くぞ!」
「え、ちょ、待っ!わー!」
悲鳴。そして、衣装室。
あれよあれよと衣装室のスタッフに着替えをさせられて、ウェディングドレスに身を包んだMysta。そして、準備万端のVox。態とらしく腹を擦りながら戻ってきたIkeの絶賛に、これが仕組まれていた事だと今更知る。そろそろ模擬披露宴が始まる時間だ。
「さあ、行こうかHoney」
「……ばかDarling」
会場の扉が開いて降り注ぐスポットライト。
Mystaを支え先導するように、Voxが高砂に進む。
それを音響照明をノリノリで操りながら眺めるLucaは、隣でほくそ笑むシュウにこう言った。
「シュウ!本当の披露宴みたいだ!お似合いだねあの2人!」
「なかなかくっつかないんだから…こうでもしないと距離縮まらないじゃない?ふふ」
そして、ホテル幹部とブライダルコーディネーターの模擬披露宴は大成功に及ぶ。演出、料理、御色直し全てが斬新で、どうやらウケが良かったようだ。歓談中もMystaが新婦達にドレスの着心地や所作の注意等を教えたりしていて、その様子を隣で見ながらVoxはひとときの幸せを噛み締めていた。
そしてブライダルフェア終了後。
全てはMystaの為に仕組まれていたのだとバラされ、一度は怒ったものの、出来上がったVoxとのウェディングフォト(仮)を見て頬を染めるMystaであった。