猫昇降口をでて、まっすぐ駐輪場に向かう。
外は夕焼けに染まっていてすぐに日も暮れそうだった。
別に急ぎの用もないし、ただ帰るだけ、それだけだが、駐輪場について少し嫌な予感がした。
「あっ、ヒキタニくん」
ガシャン、と自転車のストッパーを外した時だった。後ろからそう聞こえ、足が止まる。
タイミング悪すぎないかな?もう帰ろうとしてるんだけど??
「今帰り?なら一緒に帰ろうよ」
さっき俺のことをわざと変な名前で呼んだのはクラスで…いや、多分この学校の王子、そして後々世界で羽ばたいていくだろう、ムカつく面の色男である葉山隼人だった。
葉山はそうやっていいながらニコニコと俺の自転車の横でニコッと笑った。
は?笑えば許されると思うな、俺は許さん。
「嫌なんですけど…」
「そんな露骨に…いいじゃないか、君も帰るんだろ?俺も一緒だし、少し話そう。」
え?なに?こわっ、新手の詐欺ですか?怖いんですけど。
リア充ってこんなにグイグイ来るもんなんですか?怖い。ぼっちには理解の難易度が高いよ…。
葉山はいつの間にか俺の手から自転車を奪い取って何故か葉山が俺の自転車をひいて歩いていた。こわっ。怖いしやる相手が違うと思うんですが。
葉山は俺の否定を全く聞かずに自分勝手に自転車を持っていくから、拒否権もなくなり、黙ってついて行くことになってしまった。やっぱりこいつ性格悪いよ。
「君はこんな時間まで何してたんだ?奉仕部?結衣は雪ノ下さんを連れてすぐ帰ったみたいだけど」
「あー…いや、半ば無理やり先生に対しての奉仕活動はしてたな…」
それをきいてどうなるんだと思ったが、返事をしないのもなと一応そう答えた。
平塚先生は俺をパシリだと勘違いしているのか、授業が終わり掃除後帰ろうとしたところをガッチリ捕まえられ、少し手伝ってくれと、少しでは無い時間拘束されていました。許さん。居残りで残業をさせるなんて、俺はこのまま社会の犬にまっしぐら…。
「そ、そうか…平塚先生もなかなか酷いな…」
アハハ、と乾いた笑いをされて、言い返そうかと思ったが、特に思いつかなかった。そんな分かりやすく同情の笑みを浮かべるんじゃない。
俺はキツく葉山の方を睨みつけるが、ふ、と今度は柔く笑う。
「…君ってつくづく思うけど、猫みたいだ」
「はぁ?猫?」
俺はネコ科に嫌われてる人間なんだが?なんだ?喧嘩でも売ってんのか?実家の猫には文字通り尻に敷かれてるんだぞ羨ましいだろ。
突拍子もないことに結構な声がでてしまって、葉山は吹き出すように笑い始めた。
なんかイケメンってどの微笑み方をしても許されるとか思ってる節ありそう。
「笑うなよ…」
「…いや、ふふ、……本当に猫みたいだなと思って…」
葉山が言ってる意味が全くもって理解出来なくて、ため息をついた。
「そういうところ、俺は嫌いじゃないよ」
「……そもそも好かれようとも思ってないんですが」