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    2017年1月にあったペダル女子プチの記念アンソロさんに寄稿した
    やつです。
    まなんちょ坂綾今幹(女子からの片想い程度や香る程度の)要素があります。

    女の子のプチオンリーが嬉しくて嬉しくて大喜びで女子たくさん書くぞと意気込んだ記憶があります。
    ペダル十年くらい早めにアニメ化してたらアニメオリジナルで女子回とかやってくれそうだなってふと思いました。

    #まなんちょ
    southSideBook
    #坂綾
    figuredSatin
    #今幹
    today

     年が明けて間もない冬休みのある日、両親とともに親戚の家へ挨拶にやってきたもののすぐに大人たちはお酒を飲み交わし騒ぐことに夢中になってしまい、手持ち無沙汰にな宮原はなんとはなしに出かけた散歩の途中ぴたりとその足を止めた。
    「サイクルショップ……」
     木製の看板が可愛らしいそのお店は住宅地の中にあってあまり大きくはないけれど、展示されている自転車は彼女の幼なじみが乗っているものとよく似たデザインだったので。
     思わず覗き込めば自転車乗りと思しき人と、店員さんらしき人が談笑しているようで雰囲気も悪くなかった。
    「……」
     ちょっとだけ、入ってみようかしら。
     心の内で呟いてみる。
     べっ、別に他意はないけど? お年玉もらったばっかりで懐暖かいし? 二学期の終業式に先生からこの調子で行けば進学出来るって言われたからお祝いっていうかご褒美っていうか。
     そう! お祝いなのよ!
     すっかりお決まりとなってしまった自分への言い訳は、彼への恋心といまだきちんと向き合えていないから。認めてはいても納得出来るかというとそれはまた別なのだ。
     だって彼は自転車ばかりで見向きもされない恋だから。
     胸に宿る諦念をため息で押し流して、おそるおそるといった足取りで宮原は店内に入っていく。自転車用品の相場がわからないので、もし手出し出来ない価格だったらどうしよう。なんて思いながら。
     それほど広くない店内には自転車乗りなんだろうジャージ姿の男の人と彼に対応しているらしい若い男性店員が一人、そして宮原と同じくらいの少女が二人なにやら話しこんでいる。
     こういったお店の作法はわからないけれど店員の男性はしばらく手が空かないだろうと判断して、当然だが自転車ばかりが目につく店内の一角に設けられた自転車用品コーナーへ足を向けた。
     あまり高価ではなくプレゼントとしてさらりと受け取ってもらえそうなもの。
     出来れば実用的で役に立てたらいい。
     そうは思うものの、陳列棚をみてみても具体的な案は浮かばなかった。
     おそらく自転車に取り付けるのだろう用途不明な金具とかはさすがに買えないし、グローブなんかの身につけるもの系は好みであったりこだわりがありそう。
     やはりもう少し知識をつけてからの方がよかったかもしれない。
     優等生らしい発想で今日のところはあきらめようなんて踵を返した宮原の背後に、やってきていたひとつの影。
    「こんにちは、なにかお探しですか?」
    「はにわにゃ」
     思わず変な声をあげて飛び跳ねてしまった宮原は、どきどきいう胸を押さえながら振り返ってまた驚いた。
     宮原に声をかけてきたのは先客だったはずの少女の一人だったから。
    「……あの?」
     まん丸な大きな瞳をキラキラと輝かせながらと笑いかけてくる少女に、戸惑って気づく。
     さきほどはそれほど注意してみていなかったけれど、彼女が身にまとっているのは男性店員とそろいのエプロンだということに。
    「ねえあなた、自転車に乗るの? いくつ? この辺じゃみかけないけどどこの学校?」
    「え? え? えええっ?」
     怒涛の質問ラッシュにちょっと待ってと手を出しても、彼女はぐいぐい迫ってくる。ので、なんというかエプロン越しでもわかる豊満な胸に手が当たりそうになってしまい、宮原はあわてて腕を引いてのけぞった。
     けれど悲しいかな背後が商品棚のため、ほとんど意味はなかったのだけれど。目をキラキラと輝かせて迫ってくる彼女はよほど興奮状態にあるのか、こちらの心情に気づいた様子もない。
    「こーら、ちょっと落ち着きなさい。アンタ自転車のこととなると本当見境なくなるんだから」
     宮原の救世主は、思いがけないところからやってきた。
     店員の女の子とさっきまでなにかを話していた別の少女だ。
     跳ね気味なショートボブがとてもよく似合っている彼女は、呆れた表情を隠さず宮原とほぼゼロ距離に近かった店員の少女を引き離してくれたばかりか、しっかりといさめてくれた。
     親しげな雰囲気からもわかる、彼女たちは仲のいい友人同士なのだろう。
    「ごめんねー、この子自転車オタクだからすーぐ暴走しちゃうところがあるんだよね」
    「ごめんなさい、同じ年くらいの女の子で自転車乗る子って私の周りにあまりいないから」
    「あ、いえ。びっくりはしたけど大丈夫です。さん……私の幼なじみも自転車好きでそういうところあるから」
     自転車にかかわる人の熱意はすごい。
     不快になったわけではないからと重ねて伝えれば、店員の少女はほっとしたように息を吐いて自己紹介をしてくれた。寒咲幹さんというらしい彼女は宮原と同じ高校一年生で、友人の子も橘綾さんというらしい。
     宮原も自己紹介と年齢を告げれば、全員が同い年とわかって妙な盛り上がりが出来てしまう。
    「あ、じゃあ。自転車には宮原さんじゃなくて幼なじみが乗るんだ。私と一緒だね。もしかして今日はその幼なじみになにかプレゼントとか? だったらちょうどいいからアヤちゃんと一緒に探してみたら」
    「へ?」
     突然話を振られた綾が目を丸くし、それからちょっと! っとあわくったように声を荒げる。
    「いいじゃない、アヤちゃんも小野田くんにプレゼントしたいって言ってたし。最初の頃態度悪かったの、小野田君が気にしてなくても嫌なんでしょう?」
    「そっ、……れは、そうだけど」
     うううと唸ってからほっぺたをわずかに赤に染め、そっぽを向いた綾はなんというか乙女で可愛らしくて、今日はじめてあっただけの宮原でもきゅーんとときめいてしまった。
    「あのね、アヤちゃんも自転車に乗っている男の子にプレゼントがしたいって悩んでたの。よかったら一緒に選ばない?」
    「え、と」
     それは、願ったりかなったりかもしれない。
     渡せるかはわからなくても探したいと思ったのは本当だし、宮原には自転車の知識がないから。
    「じゃあ、お言葉に甘えてもいいかしら」
    「うん、喜んで。ほらほらアヤちゃんも!」
    「……まったくもう、こうなったら人の話なんて聞かないんだから。だったらいっそ幹も今泉くんあたりにプレゼントしたら?」
    「えー、いいよ。わざわざ私から贈らなたって今泉くんそういうの山ほど持ってるだろうし」
    「……やっぱりたくさん持ってるなら迷惑よね」
     真波が自転車にハマったのは小学生のとき、それから今日まで色々と揃えてしまっているだろうし今更自分がなにかを渡しても、邪魔になってしまうんじゃないだろうか。
    「えっ、あ、大丈夫大丈夫プレゼントは気持ちだから! それに二人と違って今泉くんとはそういうんじゃないし」
    「「私だって違うわよ」」
     思わず出た声は綾と同時だった。
     しかしそこはすんなりと認めるわけにはいかない事情がある。
    「だって私、初対面でメガネのことキモいとか言ったり殴ったりもしてるし、それなのにスキ……とかどの面下げってって違う!」
    「わっ、私だって、……って、あなた結構すごいのね……」
    「それは今はいいのよ! 自分でもばかなことしたってわかってるし、思ってるし、後悔も……」
     してるし。
     そう続いたはずの言葉は尻すぼみで弱々しい。
    「って、私のことはいいの! 今泉くんて他人にまるで興味ないしファンのことも歯牙にかけないけど、幹にだけは自分から声かけたりしてるじゃない。私結構な頻度で二人は付き合ってるの? って聞かれるわよ。……付き合ってないっていうのはしってるし、ミキが嘘ついてるとか言いたいんじゃないけど」
     ああ、この子やっぱり可愛い。
     照れたようにそっぽを向いて腕を組んでの言葉に、幹だって感激しているようだった。それでも彼女は首を横に振ったのだけれど。
    「私は自転車部のマネージャーだし、幼なじみだから多少距離は近く見えるかもしれないけど、それ以上っていうのはないよ。恋とか愛とか自転車に向けるもの以外のそれを私もよくわからないし、今泉くんに至っては興味ないって切り捨てそう」
     それには私も同感なの。
     花の女子高生ともなれば色恋にときめいたり浮ついたり、あったっておかしいことじゃない。けれど幹は決然と強い瞳で宮原と綾を映して言い切った。
    「いまは次のレースでどう勝つかのほうが重要だわ」
     にこにこと温厚に笑い彼女の瞳に宿った熱。
     それは一瞬だけ垣間見たレース中の真波にも灯っていたように思う。
     ただがむしゃらに真っ直ぐに、望むものをつかむため前だけを見据えている姿。
    「でも、ね。迷ってたり悩んでたり足踏みしてるとき、どーんと背中を押したいとは思うの」
     だから、プレゼントとかそういうのはしない。それは自分の『役割』とは違うから。
     そう告げた幹の表情には迷いなんてなくて、宮原はいつだって言い訳を先に出しては逃げ道を確保してばかりの自分を省みて、少しだけ恥ずかしくなった。
     自分には、自分と真波には確固たるものなんてない。
     あるのは唯一「幼なじみ」という偶然の関係性だけで、自転車に乗る彼をサポートするだけの知識も力だってなにも。
    「……すごいわ、私はいっつも授業サボるなーって、課題を提出しなさいーって怒って追いかけてばっかりで、寒咲さんみたいに支えたりなんて出来ないから。今回のプレゼントだってどうにか進級出来そうだから勝手に送るだけだし」
     なんだか少し恥ずかしくなって、お下げの先をいじくりながらそんな告白をすれば二人からは沈黙ばかりが返ってくる。
    「ええ、と、その幼なじみって」
    「……不良、とか?」
    「はにゃっ」
     あらぬ誤解が生まれてしまった。
     自身の発言を思い返せば当然の疑問だったと気づいた宮原は、あわてて両手を振りつつ否定する。
    「あ、ち、違うの! 授業はロクに出ないけどそういうんじゃなくて、山が呼んでる~とか、坂に夢中で~とか言って、いつもいつもいつも自転車ばっかりで! それで授業に来ないの!」
    「……うわー」
    「なんか、すごいわねぇ」
    「でも、悪いやつじゃないのよ。ちょっと好きなものに一直線っていうか周りが見えなくなるけど、真面目とは言いがたいけど、悪意があるわけでもないし。ただちょっと自分の興味のあることにしかやる気出さないだけで」
     どうしてだろう。
     言葉を尽くせば尽くすほど幼なじみがものすごい駄目人間のようになってしまうのは。
     でもどうしても誤解されたままなのが嫌で、いい所だってたくさんあるんだって伝えたくて、言葉を尽くしていくうちに幹と綾の表情がニマニマニヤニヤしてものに変わっていく。
    「愛ねえ」
    「一月だけど暑いわー」
    「だっ、だから違うんだってば! ……私が、その勝手に。メイワクがってるんじゃないかって、思うけど、やめられなくて」
     拒絶されないからと観にいってしまうレースだとか、持っていっては渡せず持ち帰るおにぎりやドリンクを思い出して目を伏せる。
     拒絶されていないわけじゃなく、気づかれていないだけという現実に目をそらしている自覚はあるけど。もう少しだけと願ってしまうのだ。
     これ以上は欲張らないようにするから、せめて見つめていたいと。
    「青春ね」
    「青春だわ」
     思いがけない言葉に顔を上げれば、幹と綾は互いに手と手を取り合って頬を紅潮させてキラキラした目で宮原をみていた。そうして二人が一様に言い放ったのは「少女漫画みたい」なんて言葉だった。
     けれどそれは心外である。
     大まかな要素を挙げていけばたしかにそれっぽくみえるとは思うけど、実際にはそんな可愛らしさは欠片もないのだから。
    「私より、二人の方がそれっぽいわ。好きなものに理解があってサポートできたり、初対面はあまりいい印象じゃなかったけど気になってみたり。私にはないから」
    「……こういうの、隣の芝生は青いっていうのかなあ。でもさ、宮原さん幼なじみに顔を名前覚えられてるでしょ? 私なんて声かけるたびにこの人誰だっけ? って顔されるよ」
    「……顔は覚えられてる、けど、名前なんてもうずいぶん呼ばれてないわ。いつも委員長って」
     ぽんと綾の手が宮原の肩を叩いて、それから彼女は幹をびしりと指差した。
    「やっぱなんだかんだでミキが一番報われそうだわ。恋人っていうと違うけどパートナーとか夫婦とかそういう感じで」
     綾の言葉に、幹はぽんと手を叩いた。笑顔で。
    「あ、いいわねパートナー。今泉くんの近くにいたら白熱したレースをいつだってみられそう」
     さっきから薄々感じていたことだけど、彼女は強い。
     そなんだかおかしくなってきてぷっと噴き出せば、それは綾と同じタイミングで。それがさらに笑いを誘って二人でくすくすと笑う。それに幹もつられたように笑って、余り広くない店内で女子三人幹の兄だという店員さんに注意されるまで笑い続けてしまった。



    「結局、なにも買えなかったわね」
     なんだかんだ話し込んでいたら親から電話がかかってきて、親戚の家へ戻ることになった帰路で宮原は一人呟く。
     でも、楽しかった。
     学校でもどこでも自分と真波を知っている人には、あんな風に素直な気持ちを語ったり愚痴ったり出来なかったから。
     また会って話そう。
     約束とともに交換した携帯番号とメールアドレスが詰まった端末をそっと胸に押し当てて、地元ではない土地の空気を胸いっぱいに吸い込んだ。



    END
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    「……」
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     心の内で呟いてみる。
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     思わず覗き込めば自転車乗りと思しき人と、店員さんらしき人が談笑しているようで雰囲気も悪くなかった。
    「……」
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