現代AU忘羨「おつかれ!藍湛」
「うん」
仕事を終えてスタジオを出れば、そこにはすらりと背の高い美人が立っていた。
時刻はもう深夜だ。
いつから待っていたのか、自分だって仕事があるだろうに魏無羨が出てくるまでずっと待っていたらしい男が、先ほどまで静かな瞳で周囲を見つめていたのに、魏無羨を目にした途端うっすらと口元に笑みを浮かべ、瞳を和らげた。
実は少し前に遠目で藍忘機を見つけて顔を覗き見ていた魏無羨は、その表情の変化に屈託ない笑みを浮かべて走り寄る。
「藍湛っ!」
キャップを被ってマスクをしているのと、深夜ということもあって声を抑えたが、その声に喜色がのるのは仕方のないことだった。
「魏嬰」
ぎゅっと抱き返されて、魏無羨は目をじっと見つめてくる男を真正面から受け止めて笑った。首に腕を回して、マスク越しにそっとつぶやく。微かな声でも、彼の耳はとても良いので聞こえているだろう。
暗闇の中でも綺麗な顔にそっと近づく。まるでキスができそうな距離まで近づいて、視線を絡めて、魏無羨は腰を抱く力が強くなったのを感じながら目を細めた。
「藍湛……」
掠れた声が漏れる。期待に勝手に体が熱くなる。
藍忘機からは酒の香りはしなかった。きっと車で来ているのだろう。それなら、この後行く場所は一つしかない。
「……」
「藍湛?」
何も言わない男を見つめていれば、藍忘機は瞳の奥に炎を揺らして、堪えるように眉間に皺を寄せた。
「……帰ろう」
思い切り最後に抱きしめられて、そっと離される。有無を言わさずに手を引かれて、魏無羨は思わず笑った。
なんせ、その手があまりに顔に似合わず熱かったから。