Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    nayutanl

    @nayutanl

    無断転載及び無断利用禁止

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💪 🌟 ❣ 💮
    POIPOI 50

    nayutanl

    ☆quiet follow

    クロエの二年目お誕生日記念に書いたものです。
    176cm組です。プレゼントを用意するヒースとルチル、いろんなことをぎゅっと噛み締めるクロエ

    一年目のはこちら→https://poipiku.com/3138344/4783621.html

    #まほやく
    mahayanaMahaparinirvanaSutra
    ##neco茶

    ルーチェ #2 季節は晩秋を過ぎた、初冬のある夜。ヒースクリフとルチルは、日付が変わって今日迎えるクロエの誕生日のための作業に追い込みをかけていた。
     夜も更けて、起きていることなど滅多にないような時間になってきたが、朝が来ればもう作業を進める時間はない。本来ならいまごろは確認まで終えていなければならないのだが、ままならないのが人生(とムルには言われた)。余裕をもって考え始めたつもりでも、考えていることと実際にできることは違っていて、再考を繰り返しているうちに作業ができる時間を削ってしまったのだった。
     ふたりがクロエに贈ろうと決めたのは、道具箱である。クロエの自室には度々入らせてもらうことがある二人だが、入る度に布や服飾資材が増えているのを見て、なにか彼の助けになるものがいいだろうと話し合って決めた。
     蓋つきの道具箱は、開けると中が三段構造になっていて階段状になるのだが、ルチルが考えたそれを設計図に起こす段階でやや躓いて、試作段階で発見したミスを修正するのにまた少し時間を割くことになり、材料の調達のための時間も依頼等でなかなか確保できず―こうして当日まで作業することになってしまった。しかし、それも完成をもって終わろうとしている。
     
    「できた?」
    「うん、これでいいと思う」
    「やった……!」
     
     工作用の道具の散らばる机の上に、完成した道具箱がきらきらと輝いているようだ。安堵でいっぱいのふたりは、思わず抱き合いながらひっそりと小さく笑みをこぼした。もう少しすれば早朝だ。騒ぐわけにはいかない。
     
    「ありがとう、ヒース。ちゃんと形になったのはヒースのおかげだよ。無理を言ってごめんね」
    「無理だなんて! 俺の方こそ、ミスで遅らせちゃってごめん。最後の方はルチルに任せきりだったし」
    「ううん。設計をみんなやってもらったし、それにヒースは別に作るものがあったでしょう?」
     
     ヒースクリフは気分が乗ると時間も忘れて没頭してしまうクロエのために置時計を作っていた。道具箱の設計と試作のあとはそちらの製作にもかかっていたが、それもつい先程出来上がって動作確認まで終えたところだった。ルチルは梱包を残すばかりとなったふたつの贈り物を一度見やった後、ヒースクリフの手を労うように握りしめた。
     
    「本当にお疲れさま」
    「ありがとう。ルチルも、お疲れさま」
     
     疲労と眠気にやられてしまいそうだったが、ふたりはなんとか贈り物をラッピングした。クロエに気づかれないように事を進めるのは少し大変だったが、彼はきっと驚いてそれから喜んでくれるだろう。自信と期待をもって結んだリボンがほどかれるまで、あと少し―。
     
     
     ◇◆◇
     
     
    「おめでとう」と言ってふたりがくれたふたつのプレゼントを、クロエは溢れる幸福感と共に抱き締めた。
     
    「ありがとう……!」
     
     この世界中のとれたボタンというボタンをすべてつけ直してあげたくなるような気分になるほどの幸せで、目にうつるものすべてが眩しく揺らめく。泣くほど嬉しいのだ。そして、そんな気持ちにさせてくれるひと達―友達が自分にはいるということがもっと嬉しくて、しばらくなにも言えなくなってしまった。
     
    「びっくりした? 気に入ってくれた?」
    「ルチルってば、ムルみたいなこと言って……」
    「……うん、びっくりしてるし、嬉しいし……めちゃくちゃで最高な気分!」
     
     そう答えると、ルチルとヒースクリフは顔を見合わせて笑った。屈託なく、そしてとろけるようなふたりの笑みは、クロエの幸福感をより深くさせる。
     こんな日が来るなんて。こんなことがあるなんて。あの日までの自分には考える余地もなかったけれども、連れ出してくれた世界は広くて、つらいことも悲しいこともたくさんあるけれど、それと同じくらい楽しいことも嬉しいこともあって、それを分かち合ってくれるひと達が自分にはいる。
     ―生まれてきてよかった。
     クロエはほどいたふたつのリボンを握りしめて、切なくも眩しい笑みを顔中いっぱいに湛えた。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💘❤🙏
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    nayutanl

    DONE月花Webオンリー展示
    年長者と強絆のゆるめの話です。
    アーサーの疑問から始まる四人のあれやこれやです。アーサーが外見年齢12~13歳くらいのイメージ。自分が絵で見たい話を書いた形かも。
    公式にない設定が一部ありますが、雰囲気でふんわり読んでください。書いた本人も雰囲気で押し切りました。
    9/9追記:追録書きました(https://poipiku.com/3138344/7470500.html)
    和やかな城 ある日の桜雲街、竜の住まう城の一室で青い目をした天狗の子どもが尋ねた。
     
    「スノウ様、ホワイト様。おふたりは大人なのにどうしてこのようなお姿なのですか?」
     
     この城でそのようなことを尋ねるのはこの子―アーサーだけであろう。スノウとホワイトは一度顔を見合わせてからふたりしてにっこり笑った。
     もう随分長く生きている彼らはこの城の主である。今でこそオズに譲るが強い力をもち、気が遠くなるほど昔からずっと竜族の頂点に君臨している。ここ近年は「早く隠居したい」が口癖で、どうにかオズかフィガロを後継者にしようとしているものの、ふたりにその意志はなく聞き流されてばかりだった。そんなものだから、このところはオズが助けて以来この城にホームステイしているアーサーが後継者になってくれたら……とオズに牽制をかけているが、本気ではないと思われているようである。とはいえ、アーサーが後継者に向いているという直感と竜の住まう城の主が天狗でよいかどうか、そしてアーサーの実家である天狗の一族の事情はそれぞれ別の問題なので、スノウもホワイトも食い下がったり押し付けようとしたりといったことはしない。ただ、隙さえあれば隠居したいと思っているだけで。
    6203

    nayutanl

    DONE紫陽花見ながら話してるホワイトとフィガロの話
    ホワイトから見たスノウとフィガロのこととか、フィガロから見たホワイトのこととか
    ほんの少し生きた心地がしないけど、気のせいかと思うくらいのあったかさはある つもり
    あと、文末に話に関するちょっとしたことが書いてあります。
    ハイドランジアの幽霊師匠と植物園を散策―などといえば聞こえはいいが、実のところは連れ回しの刑である。フィガロは曇り空のもと美しく物憂げな色彩の花を咲かせるハイドランジアに目をやりながらこっそりとため息をついた。
    ホワイトがやってきて「ハイドランジアの花が見頃だから出掛けよう」と誘われたのだが、あまり良い予感がしなかったので一度は断ったのだ。断ったのだが、今回の誘いはこちらに選択権がないものだったらしい。有無を言わさず連れてこられてこのとおりである。

    「そなたら、また喧嘩したじゃろう」
    「喧嘩とはいえませんよ、あんなの」

    少し先をいっていたホワイトが戻ってきて、ごく自然に手を繋いできた。こんなことをしなくても今さら逃走なんてしないのにと思ったが、これは心配性なのではなくて物理的な束縛だ。都合の悪い話をするつもりなのであろうことは断った後の出方で何となく察していたが、切り出されるとやはり身構えてしまう。いいことでも悪いことでも、心に叩き込むようなやり方はホワイトの得意とするところなので、分かっていてもわずかに寒気がした。
    2892

    related works

    recommended works