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    shimotukeno

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    フーイル小説 まあまあ切りのいいところまですすんだので

    フーイル小説 リーダーの話 暗殺チームのリーダー、リゾット・ネエロはブチャラティチームとは戦わず、組織の何者か――否、ボス・ディアボロ、あるいは別人格のドッピオ、もしくはその両方と戦ったとみてまず間違いない。リゾットの体にはエアロスミスによる機銃掃射の痕が無数に残っているが、これはナランチャのレーダーがディアボロに利用されたためである。
     イルーゾォは長いこと黙ったまま、資料を見つめている。メローネと同じように、彼とは直接相対していないので記述はかなり少なかった、というより、ほとんどなかった。情報収集チームの者などは役割上彼と面識はあったようだが、彼らからすれば「無口で何を考えているかわからない」「無愛想な男」「怒らせてはいけない」「頭のキレる冷徹な男」だったようだ。だが、これまでのイルーゾォの話からすると、仲間に対してはかなり情が厚い男に思える。むしろ、一癖も二癖もあるメンバーを一つにまとめ上げていたのだから、人望は相当のものだ。ブチャラティ達とは戦っていないので、彼の能力、実力は直接確認はできなかったが、実力者揃いのチームリーダーとして相応しいものを持っていたことは確かだ。
    「……なんで戦ったのがボスってわかったんだ」
     長いこと黙っていたイルーゾォはようやく口を開いた。
    「その戦いのすぐあと、アバッキオがボスに殺されました。付近には他にボスの親衛隊もいませんでした。むしろ下手に部下を派遣すれば自分の姿を見られる可能性があります。神経質で猜疑心の強いボスがそのリスクをおかすとは思えませんから」
    「なるほどね……」
    「相当激しい戦いだったようです。ボスの方もかなり負傷していたみたいですから」
    「じゃあ、きっとリーダーはボスの正体に迫ったよな?」
     イルーゾォはフーゴの方に振り向く。その目はすがるようであった。
    「……いや……」イルーゾォは目を伏せる。「そんなのわかんないよな……本当のところは。そうであってほしいって俺の願望だよな」
     真実はリゾットしか知らない。だが、はじめからディアボロが相手なら、時間を消し飛ばすという無敵の能力でかなり一方的な戦いであっただろう。それに、用心深いディアボロが、素の姿で生まれ故郷をうろつくとは考えにくい。リゾットに邂逅したのはドッピオの方だろう。ドッピオが深手を負い、見かねたディアボロが現れたと考えても不思議ではない。一瞬、ちらりとでも、正体を垣間見た可能性は十分にある。
    「……お互い、死力を尽くした戦いのようでしたから。断定は出来ませんが、でも、恐らく――きっと」
     イルーゾォはフーゴの顔を穴が開くほど見つめ、「頭のいいお前がそういうなら」と言って目を細める。フーゴは頬のあたりがかーっと熱くなるのを覚えた。
     フーゴは話題の転換を図って話を振る。
    「そうだ、差し支えなければ、リゾット・ネエロのスタンド能力について教えていただけませんか?」
    「んー……」イルーゾォは右頬を撫でながらしばし逡巡する。故人とはいえ、仲間の能力を開示するのはやはりはばかられるのだろうか。
    「俺がリーダーと戦ったときの話なんだけどな……」イルーゾォはもごもごと話し始めた。「入り込んだ家のオーディオルームから爆音で音楽が流れていたから、気配を感じなかったといったろ? 近くにいたのに姿も見えなかったんだよ」
     イルーゾォは、直接明かす代わりに、自分の話から能力を推測しろと言いたいらしい。映画でよくある「これは独り言だが……」といってから重要情報を話す場面のようなものだろう。
    「突然手から裁縫針が生えてきて、驚いて鏡の中に逃げ込んだんだ。何者かがいるが、鏡の中にいさえすれば安全に逃げられる。でも鏡の中には死体なら入り込めるだろ? 体内から無数に刺された肉塊に出くわして、腰を抜かして能力解除しちまったんだ。傷口から流れる血は黄色っぽく変色してたし、どう見ても普通じゃあなかった。他殺体なんて初めてではなかったが、さすがにあんなのは見たことなかったからな、ただのスラムのガキだったし」
     ここまでの話からすると、リゾット・ネエロは姿を消す能力、対象の体内から攻撃する能力を持っているらしい。血が黄色っぽく変色していたということは、赤血球の回復が間に合わなかったのだ。頻繁に売血を繰り返した人間のように。
    「……その死体の血は、すべて黄色かったのですか?」
    「いや。壁や天井に飛び散ってたのは赤かったな」
    「そうですか……」
     となると、もともとは健康的な血液であったが、急速に赤血球だけを失ったことになる。イルーゾォが「手から裁縫針が生えてきた」と言ったことから、体内で赤血球を使って武器を生成したのだろうか?
    「……『スタンド使いか?』って後ろから声がして、また鏡の中に逃げて撒こうとしたんだが、どこに逃げてもぴったりとついてくる。メスはピュンピュン飛んでくるし、ランドリールームのキャビネットに身を隠したんだが……」
    「……ん? キャビネットに?」
     引っかかりを覚えて、フーゴはちらっとイルーゾォを見る。今は痩せてはいるが、長身の彼がキャビネットに収まるイメージが浮かばない。
    「小柄だったんだよ、その頃は! よく女に間違えられたし! でもそれも見つかって。扉を開けられた瞬間に能力を解除して、思いっきり体当たりしたんだ。リーダーが立ち上がったとき、上半身が鏡に映ったんで、とっさに上半身だけ許可して猛ダッシュで逃げようとしたんだが」
    「駄目だったんですね」
    「うん。それまで他人を入れたことなかったしほんの数秒しか持たなかった。あとは足から釘が生えてきたり、壁に掛けてある額縁が飛んできたりで、オーディオルームでとうとう捕まったけど、チームに誘われて、たくさん食わせてもらって俺も大きくなったってワケだ」
     食費を圧迫しちまったが、とイルーゾォは苦笑した。
    「……いくつか、その時の状況を聞いても?」
     イルーゾォは頷く。リゾットの能力について大まかなところは見えてきたが、いくらか疑問点があった。
    「彼は何故、鏡の中のあなたを追うことができたのでしょう?」
    「血だ。俺の手から落ちた血や、死体の血を踏んだ時のゲソ痕とか。そういう痕跡は鏡の外に出ちまってたんだ」
    「なるほど」ナランチャのような索敵能力で居場所を探り当てたわけではないらしい。「飛んできた額縁は金属製でしたか?」
    「そうだ」
    「針や釘で負傷した手や足は、別の手足より、リゾットに近い位置にありましたか?」
     イルーゾォは顎に手を当てて、しばし考え込んだ。
    「そうだなあ。少なくとも足は、後ろに伸びていた方だったかな」
    「……体内の鉄分や鉄を、操作する能力――磁力か何かで……」
     イルーゾォはニーッと笑って「なんだ、ばれちまったか」とわざとらしく呟いた。どうやら合っていたらしい。姿を消す能力も、鉄分を操作して周囲の風景と同化させていたのだろう。
    「では、暗殺術はリーダーに教わったんですか」
    「基礎的なところは。他にもリストランテの入り方とか、潜入や張り込みに必要なことも色々な。料理も、体作りも。……家族に縁のないスラムのガキからしたら、リーダーは心地よい木陰だった。暗殺なんて日陰者の仕事でもな――いや、なおさらか」
     イルーゾォは目を閉じ、懐かしむように語る。彼の心はまだ死んだ仲間と共にあるとフーゴは思った。死人にはどうあがいても勝つことはできない。死者はその人の心の中で年を経るほど美しくなるものだ。生者とは反対に。
     何も彼らに勝とうとは思っていないけれど、魂まで引っ張られてほしくない。固い冬芽が少しずつほころんで、やわらかな花弁を開き始めているというのに、また冬に戻ってしまうのか? それだけは嫌だ。フーゴは物憂げな目で窓の外を眺めた。秋風が庭の鈴懸の木を揺らすと、木は笑いさざめきながら黄色い葉をはらはらと舞わせる。紫色の小さな鐘を無数に連ねたエリカは、喜びつつ木の葉を戴いた。
    「なあ、資料まとめるとき、俺も隣で見ていていいか? 邪魔ならいいんだが」
     ふいにイルーゾォは遠慮がちに口を開いた。
    「いえ……むしろ助かります」フーゴはイルーゾォに笑いかける。
     イルーゾォの心は仲間のところにあるが、日ごとに明るくなっているのも確かだ。故人を思い出すときは、故人と逢瀬をしているのと同じだと何かで読んだ気がする。イルーゾォは、仲間と会うことで元気になっている――と考えることも出来る。仲間について話すイルーゾォはいつも誇らしげだった。「くだらない能力」だの「変態」だの「口うるさい」「めんどくさい」「困った奴」といいながらも、彼は心を許していたし、彼なりに愛していたのだろう。そしてイルーゾォ自身もきっと、「面倒」だの「うるさい」だの思われながら可愛がられていたのだ。最初に「善い人ではなかったが、好い奴らだった」と言っていたのがすべてだった。
    「……僕にこんなことを言う資格はないですが」フーゴは言った。「イルーゾォさんの話を聞いていて、とてもいいチームだと思いました」
     トリッシュを狙う非情な敵でしかなかった彼らに血が通っていった。彼らは善人ではない。だが、同じギャングである自分にそれをどうこう言う権利はない。彼らは好い奴らだった。ナターレを共に過ごし、チョコラータカルダをせがむような普通の青年だった。それを思うと、殺し合いしかできなかったのが残念でならない。そうなる運命だとしても。
     イルーゾォはしばらくぼんやりとした顔をしていたが、フーゴの言葉を咀嚼するようにゆっくり瞬きを繰り返し、唇を細かに震わせて言った。
    「ありがとう」
     低く優しい響きの声に、平生の調子のいい響きはなかった。安堵したような、落ち着いた声色だった。
    「気が向いたらで構わないんだが……お前らのことも教えてくれ。くだらねえことでいいんだ」
     フーゴは目を見開いてイルーゾォを見て、彼はこんな優しい顔も出来たのだと知った。
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