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    shimotukeno

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    フーイル(JK)のふご君視点の短い話

    After a storm comes a calm.前世、というものは実際体験してみないとわからないものである。事実フーゴは信じていなかった。あまりに空想的すぎるし、生者の願望に過ぎないだろう。そう思っていた。前の人生で会得したスタンド能力自体空想の産物のようだが、あれはあれで一応の理屈はあるらしい
     ならば転生はどうか。スタンド能力によっては人間の魂に干渉するものもあるという。肉体と魂を完全に分けることが可能だとすれば、ある人物の魂が時間と空間を超えて別の肉体に宿る――というのもあながちありえぬことではないのかもしれない。別の肉体とはいえ、前の人生とまるっきり同じ顔をしているのだが。
     パンナコッタ・フーゴは故国イタリアを遠く離れた日本の地で二度目の生を受けた。顔は変わらず、新しい名前も以前と似た響きをしていて、彼としては違和感はない。奇妙な気分ではあるけれど。 
     物心ついた時より、フーゴは前世の轍は踏むまいと感情の安定に努めてきたが、どうやらその必要はなかった。家業の跡継ぎは歳の離れた兄がいるし、両親も期待はするもののプレッシャーをかけてくることはない。むしろ自主性を重んじるタイプのようで、フーゴは抜きん出て優秀な、ただの男の子でいられた。周囲の子供と同じように学校に通えて、同じように遊ぶことができた。多少むかっ腹が立つことはあるにしても、衝動に飲まれずにやり過ごすことができる。これも幼い時分より精神的に余裕があったからだ、とフーゴは推測している。フーゴ個人の変化というよりは、環境に恵まれているのだ。前の人生で特にこれといった善行をした覚えはないのだが、フーゴは素直に恵まれた日々を享受することにしている。後々精算することになってもそれはそれで構わなかった。今を楽しく、周囲に親切に生きることが、子供のフーゴが温かな周囲に対して出来る唯一の返礼であるからだ。 
     精神は十六歳の時と同じであるはずだが、どうも肉体に引っ張られるところがあるらしい。小さい頃は子供らしくカレーやハンバーグが好きだったし、現在中学二年生のフーゴは、大人の言うところの『子供の読み物』を夢中になって読んでいる。子供の読み物といってもなかなか馬鹿にできるものではなく、通学鞄にしまって、休み時間や放課後に読むのが日課となっている。 

     その日もフーゴは一人静かに本を読んでいた。 
     だが。
     「デカチチトーテムポール?」 
     同級生の口からまろび出た、あまりにも頭の悪すぎるワードについ反応してしまった。同級生は優等生のフーゴの気が引けたと思ってニンマリと笑っている。
    「高等部から入学してきた先輩がさー、巨乳で、すっげー背が高いらしいんだよ! 見に行かね?」
    「……バカじゃないの」
     フーゴはそっけなく頭を振り、本に視線を戻した。
     
     高等部の下校時間、校舎の影でフーゴはため息をついた。結局付き合わされた、というよりも、今のうちに付き添ってやった方が後々面倒が少ないと判断したからであった。
    「僕はただの付き添いだからな」
     ぶっきらぼうにフーゴは釘を刺した。
    「わかってるよ! ちょっとみたら満足するからさ!」
     同級生は首を伸ばす。すると、ホームルームが終わったようで、高校生たちがゾロゾロと昇降口から出てきた。
    「うおっ……いっせいに出てきた……、なー、一緒に探してくんね? 目が四つあるほうがすぐ見つかるからさ!」
    「はあ……」 
     気乗りしない様子で、フーゴも校舎の影から首を伸ばす。 
     同級生の目的は、長身で、胸の大きな一年生だ。とすれば、一年生の昇降口を注意深く見張っていれば良い。「それにしてもなぜこんなことを……」と自問しながらフーゴは目を凝らした。せっかくのうららかな春の午後、なにも覗きに付き合うことなどないだろうに。でもこうした馬鹿馬鹿しい遊びも、普通の子供の青春の一つなのだろうか。 
     五分もすると下校のピークも過ぎ、昇降口から出てくる生徒もまばらになった。それらしい人物はまだ出てこない。
    「今日休みなんじゃないの?」
    「来てるさ。姉キの同級生なんだ。部活には入ってないって。すぐ出てくるはずなんだけどなー」
    「お姉さんの同級生なのかよ……」
     フーゴは呆れてため息をついた。
    「しかも相当美人だって! 無口で人付き合い苦手らしいけど……あ! あの人だ! わあでか……あやかりてえ……」 
     突然手を合わせて拝み始めた同級生の視線の先には、確かに周囲から頭一つ二つ飛び出た長身の女子学生がいた。身長は一八〇センチ以上……いやほとんど一九〇センチに近い。豊かで艶やかな黒髪を二本の三つ編みにしている。ブレザーを着ていてもわかるほどグラマーであるし、遠目から見ても相当の美人だ。どこか影のある表情をして俯き加減だが、目は深い赤色をしているのが見て取れた。 
     血のように赤い瞳。
     見覚えがある。 
     瞬間、フーゴは雷に打たれたようにはっとして、衝動的に建物の影から飛び出して赤い瞳の『彼』の名を叫んだ。
    「イルーゾォさん!?」
     髪型どころか性別も違う。背丈はあの時と同じくらいだろうが、纏っている雰囲気もまるで異なる。しかし、なぜか彼だと確信できた。そして思った。因縁というものが確かにあるのならば、この人生で自分が最初に出会うべきは、あの旅の中で唯一相対した男、ポンペイで殺した彼なのであろうと。 
     同級生もその女子学生も驚いた顔でフーゴを見ていた。
    「どうしてその名を……」 
     小さくつぶやいた彼女は、フーゴの姿を認めると一瞬で血の気のひいた顔になり、弾け飛ぶように逃げ出した。
    「待って! 待ってください!」
    「お、お前が待てよ! なんなんだよ!」
     同級生の悲鳴じみた叫びを背に、フーゴも食らいつくように追いかける。背中のスクールバッグの中身がごとごとと音を立てて沸騰したように跳ね狂っている。あの反応は、間違いなく正解だ。 
     彼女はといえば、ウォーミングアップ中の陸上部員が見守る中全速力で校門から飛び出ていった。数段飛ばしで歩道橋を駆け上がり、大通りを疾走し、数百メートル走ったところで不意に脇道に逸れて住宅街に姿を消した。フーゴもその後を追う。追われる人間は、咄嗟に左に曲がるという。弾む息を整えつつ、住宅街に入ったフーゴはすぐに左に曲がる。あれだけ走ったのだ、彼女もどこかで呼吸を整えているに違いない。 
     果たしてその予想は当たっていた。 
     彼女は電柱の影で休んでいた。フーゴは注意深く声をかける。
    「あ、あの、イルーゾォさん……ですよね。すみません、驚かせるつもりは……、なかったんですが……、あなたをみてつい声が出てしまって」 
     振り向いた彼女――イルーゾォは肩を上下させたまま、黙って頷く。頭上から注がれる視線は値踏みするようで、フーゴは少し緊張する。やがてフーゴに害意はなく、正真正銘ただの中学生だと感じ取ったのか、イルーゾォの目はいくぶんやわらかくなった。
    「確かお前はフーゴっていったな。悪い……その、顔見たら反射的に逃げちまった……」
     イルーゾォは女子生徒にしては低い、少年のような声でたどたどしく言った。
    「無理もないです」フーゴは静かに首を振った。「今の僕はスタンド能力を持たないただの中学生ですけれど、あの時と顔は変わってませんから」
    「そうか。こっちは……ま、見ての通りだ」
     イルーゾォは自嘲的に肩をすくめる。セーラーブラウスに三つ編みのおさげ髪で、絵に描いたような女子学生である。顔にはどこか憂鬱そうな影がさしているが、あの時の面影はしっかりと残っていた。彼が女性であれば、確かにこのような面立ちであろうと思わせた。フーゴは瞳に奇妙な光を湛えてイルーゾォを見ていた。動悸が耳の奥から聞こえてくるのを感じる。
    「……それにしても」イルーゾォが口を開く。「よく一目で俺だとわかったよな……。頭いいとそういうのわかるのか?」
    「さあ、なぜでしょうね。自分でもよくわかりません。ただ、あなたを見た瞬間、この人生で前の僕が知る人と出会うとしたら、最初はあなただと不思議と納得したのですが」
     フーゴの答えにイルーゾォは釈然としない様子で首を傾げる。フーゴもふむ、と顎に手を添えて考え込む。先ほどのことを思い出してみても、確たる根拠はなかった。
    「思えばポンペイの時とは印象もずいぶん変わりましたしね……。あの瞬間、本当にビビッときたとしか言いようがないんです」
    「印象か……」イルーゾォはふんと皮肉っぽく鼻を鳴らす。「そりゃ変わるさ。マン・イン・ザ・ミラーが俺を作ってくれてたんだ。いなきゃ……俺なんか、こんなもんだ」
     イルーゾォの顔にいっそう深い影が差す。フーゴは押し黙った。パープル・ヘイズは矢の力で得たものだが、ジョルノのように自然に能力が発現する者もいる。イルーゾォもおそらく後者で、幼い時から共にあったのだろう。きっと彼にしてみれば、能力以上の重みがあったのだ。アイデンティティか、あるいは親友か。
     しばしの沈黙。それを破るように、フーゴは思い切って口を開いた。
    「――あの、こんなところで話すのもなんですし、どこか入りませんか? 驚かせてしまったお詫びにご馳走しますから」
    「え、……いや、けど――えっ?」 
     突然の申し出に、イルーゾォは豆鉄砲を食らった鳩のような表情で困惑している。フーゴも自分自身の口から出た言葉に少し驚いていた。頬や呼気が熱を帯びていく。実のところさっきイルーゾォに声をかけたことにも、すかさず追いかけたことにも、内心驚いている。自分はこんな大胆な行動ができたのかと感心さえした。これも因縁なのだろうか。因縁がそうさせたのだろうか。 
     ――それにしても因縁という言葉にはどこか重苦しい響きがある。あの時は敵対関係だったとはいえ、彼個人に何か恨みがあったわけではないし、見たところイルーゾォもフーゴに恨みつらみといった感情を持っているわけではないようだ。ギャングや裏社会とは無縁な今、『因縁』という言葉から想起されるような重苦しい関係にはなりたくなかった。出会いは因縁からくるものだとしても、これから築く関係はそうでなくてもいいはずだ。
     フーゴはごくりとつばを飲み込んだ。
    「ここで出会ったのも何かの縁です。それに、このままでは僕の気が済みません」
    「縁か……そうかもな……」イルーゾォはしばらくフーゴを見つめた後、諦めたようにため息をついた。「わかった。気のすむようにすればいい」
    「ありがとうございます。では行きましょうか」
     フーゴはほっとした顔でイルーゾォにほほえみかけると、くるりと向きを変えて大通りに向かって歩き出した。イルーゾォは「いや、でも、ジュースとかでいいから……」とか気後れした声で言いながらついてくる。 
     ふとスマートフォンを見ると例の同級生からメッセージがたくさん来ていた。フーゴは手早く適当なメッセージを返し、ポケットに仕舞った。
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