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    shimotukeno

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    shimotukeno

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    フーイル(jk)の続き ふご君のあれこれとか 例によって校正してない

    step by step「仲間、ですか」
    「ああ。お前、前世の顔見知りに会うのはおれが初めてだっていっていたな」
     喫茶店を出たフーゴとイルーゾォは帰路を並んで歩いていた。身長一九〇センチ近いイルーゾォの声は成長途上のフーゴからするとかなり上から降ってくるので時折聞き取りづらいこともあったが、イルーゾォも気を遣ってくれたので会話に支障はなかった。
    「ええ。というか、暗殺チームの方で僕がちゃんと顔を知っているのはあなただけですので」
    「ってことはだ。誰かと会っていたとしても、お前にはわからないってことだ……。他のみんなはお前の顔を知っているが、おれやお前みたいに記憶があるとは限らないしな」
     フーゴは不思議な気持ちでイルーゾォを見上げていた。イルーゾォの顔や声からは陰鬱な影がほとんど払われていた。ポンペイの時の彼にずっと近い雰囲気がある。
    「なあ、噂でも聞いたことはないか? スケート選手とか、釣りが得意な男の子とか」
    「うーん」フーゴはしばらくうなる。「いえ、心当たりはありませんね……」フーゴは何かに気付いてぱっとイルーゾォを見た。「――待ってください。スケート選手に釣りの男って、イルーゾォさんの後に来た方達じゃあないですか」
     フーゴはイルーゾォにポンペイ以後の出来事についてまだ話していなかった。彼らが敗れて死んでいったことは当然知らないはずである。
     イルーゾォはどこか悲しげなほほ笑みをうかべてフーゴを見下ろしていた。
    「『勘』だよ。おれたちはみんな強かった。実力があった。覚悟もあった。だが、アジトには誰も帰ってこられなかった。……と半ば確信していたんだが、当たっていたようだな。ギアッチョも、ペッシもプロシュートも、メローネもリーダーも、みんな死んじまったんだな」
    「そうか、やはりあれで全員ではなかったんですね」
     フーゴの言葉にイルーゾォはひっかかりを覚えたように眉を上げた。
    「釣り竿の男、老化の男、分解と再構築のスタンド、氷のスタンド使いは僕の仲間と戦いました。もう一人については、僕は知りませんでしたから……」
    「僕は?」イルーゾォは一音一音はっきりと復唱した。
    「僕は途中でチームを離脱したんです。ボスは自分に繋がる娘を自らの手で確実に抹殺するために僕らに護衛させ、連れてこさせた。それを知ったブチャラティがボスを裏切ったんです。僕だけは彼についていくことが出来なかった。だからそれ以後は戦っていないし、何も知らないんです」
    「お前以外のヤツらがボスを裏切っただと? そんじゃあ、お前は、どうして……」
     イルーゾォは言葉を詰まらせる。柘榴石の目が張り詰めている。チームの誰かと戦って死んだわけではなさそうだし、仲間割れで死んだわけでもなさそうだ。裏切りに乗らなかったのなら組織に消されたわけでもないだろう。それならどうしてお前は死んだのだ? ――とイルーゾォはそう問いたいのだ。
    「彼らを見送ってからは何も、水さえも喉を通らなかった。みんなの選択が正しいと分かっていたのに、僕はついていかなかったんです。組織なくしては生きていけないとか言ったのに、僕の体が僕の選択を受け入れなかった。たったそれだけです」
     イルーゾォは青い顔をして押し黙ってしまった。フーゴは急に面はゆくなって、困ったような笑顔をつくる。
    「やだなあ。そんな顔をしないでください。とっくに終わったことで、僕はなんともありませんし、今の人生を楽しめていますから」
    「けどよ……」イルーゾォはそわそわと落ち着かない様子で言った。「何日も腹が減って、飲むこともできないってのは、精神的にもキツいもんだ。おれは、結果的に長く苦しむことはなかった。徹底的にとどめをさしてくれたからな。今にして思えば、感染だけして放置されるよりはマシだったってもんだ」
    「時間の問題ではないと思いますが……」
     フーゴは結局自身では味わわなかった苦痛を想像しながら呟く。結果的にはイルーゾォの苦しみは短く済んだかもしれないが、当時は必死すぎただけで、介錯するつもりはなかった。自分が殺した当の本人にフォローされるようなのは居心地が悪い。それに、イルーゾォが空腹や渇きにどれほどトラウマがあるのかは知らないが、彼が想像するような悲惨さはなかったのだ。
    「僕は安らかでしたから。仲間が看取ってくれたので。助けようとしてくれた彼には悪かったけども――。彼らが信じた正しさを貫き通せたことを知れて、ほっとしたんです。袂は別ったけども、彼らのことは好きでしたから」
     多少喉が渇いても恐怖を覚えることはない。イルーゾォのように、首がしまる服が着られない、といったことはないのだ。薄情者には不釣り合いなほど、安らかだった。寂しい遺跡の廃墟で、仲間に看取られることもなく死んでいった彼に引け目を感じる程度には。
     イルーゾォはじろじろとフーゴを見て、「ふうん」と言ってから二秒後、「ん?」と声を上げて足を止めた。
    「ちょっと待て。んじゃあ、ブチャラティ達はボスを倒したのか?」
    「ええ、倒しました。僕が知るのはそれだけですが」
    「はあ……」
     イルーゾォはため息をついて、徐々に暗く染まりゆく空を見上げる。その目には呆れや諦念にも似た色があった。無理もあるまい。イルーゾォにとっては急展開に次ぐ急展開だ。それに、ボスに反旗を翻した自分達を倒しておきながら結局ボスに反旗を翻し、しかも倒してしまうだなんて複雑な気分だろう。
    「――って、僕の話はいいんですよ!」話題が逸れてきているのに気付いたフーゴは小さく叫んだ。「イルーゾォさんはかつての仲間を探しているんでしょう? 僕も手伝いますよ」
    「ええ、手伝うって……」
    「目が四つ、脳が二つある方が見つかる確率が上がるでしょう」
     フーゴは自分とイルーゾォを図らずも引き合わせた同級生の言葉を借りながら、彼には後ほどお礼をしなくてはなるまい、と思った。
    「お前を巻き込みたくて話したんじゃあねえよ。そこまでして貰おうとは思ってねえし……」
    「でも、『気が済むようにやれ』と言ったのはあなたですよ」
    「それは、お前がおごるおごらないの話で……」イルーゾォは横目でちらとフーゴを見て、「いや……」と言って、身をかがめて視線をフーゴに合わせる。「お前がそうしたいなら、そうすればいい。話し相手がいるのも悪くねえしな」
     それだけ言うとイルーゾォは顔を背けた。自分らしからぬ大胆な言葉に、少し照れているようだった。
    「では決まりですね」
    「お前、やっぱりいいやつだよな」
    「いいやつってわけじゃあないです。ただ、あなたの仲間捜しに付き合いたかったから、それだけです。それじゃあいけませんか?」
    「いい。もっともらしい御託を並べられるよりな」イルーゾォは満足げに目を細めた。
     二人は歩く。西の空の果てはわずかに残照があるばかりで、遠くの建物や電柱はすっかり色を失い影となっている。大きな交差点にさしかかったところで、ふいにイルーゾォが口を開いた。
    「おれの家、ここ曲がっていった先にあるから、ここでお別れだな」
    「そうですか」フーゴはイルーゾォの視線の先を見る。住宅街の中に十五階建てくらいのマンションがあった。家族は海外にいて、今は一人暮らしをしているのだという。
    「意外と近くに住んでいたんですね。僕もここから五分程度ですから」
    「へえ、結構近所じゃん。案外、会わないもんだな」
    「ええ。だから、他の皆さんも近くにいるかもしれません。タイミングが合えば、きっと会えます。そんな気がしてきませんか?」
     イルーゾォは黙って頷く。家の方に足を進めようとして、ためらってからフーゴに向き直った。
    「なあ、もし、おれたちがお前らと目的を一緒にできてたらさ――」言いかけたイルーゾォは、自嘲的な顔になった。「いや、んなこと、考えたって意味ねえよな」
     もし、暗殺チームとの邂逅がブチャラティの裏切りの後だったなら。もし、ボスの真意をもっと早く知ることが出来たのなら。互いに戦わず、共闘する道もあったのかもしれない。釣りの男はブチャラティと話が合ったかもしれない。氷のスタンド使いも、案外ミスタと馬が合ったかもしれないし、頭のキレるホルマジオはナランチャのいい先生になったかもしれない。ジョルノと戦った相手もタッグを組んだら強力だろうし、イルーゾォとアバッキオもあれで気の置けない友人同士になれたかもしれない――。しかしそんな「もし」は十数年以上も経過した今ははかない空想でしかない。だけれども。
    「無意味とは思いません。確かに時間は巻き戻せませんけどね。『そうだったらよかった』のなら、これからそうなれる可能性がある。少なくとも、それが望ましいって思ってる証拠ですから」
    「なんつーか、ポジティブなやつだなあ」呆れたようにイルーゾォは言う。
    「僕が思ってたことでもありますから。なので、仲良くしてくれると嬉しいです」
     フーゴは右手を差し出す。突然差し出された手に驚きながらも、イルーゾォはその手を取り、おずおずと握り返す。高身長に見合った大きさの手だが、若い女性らしい繊細さがあった。
    「毎朝、七時五〇分ごろこの交差点を通る。もし会ったら、そん時はよろしくな」
    「ええ。また明日」
     フーゴはイルーゾォが遠ざかっていったのを見送ると。軽い足取りで家へと向かった。街の灯りが、普段よりずっと輝いて見えた。
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