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    shimotukeno

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    shimotukeno

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    フーイル♀ 小説一応かけた あとで校正する

    prince shying『清潔』『衛生』それらの言葉を具現化したような白い廊下にコツコツと足音が響く。
     可愛らしい花々でこぼれそうなバスケットを持ったいつもの少年の足音が響く。
     足繁く通う蜂蜜色の髪の少年は、甘やかな顔立ちをして、おまけに名前まで甘く、看護師達からは『素敵な王子様(prince charming)』と密かに呼ばれていた。――というのも最初だけで、今では『内気な王子様(prince shying)』とあだ名されている。この不名誉なあだ名は彼の耳にも入っているのだが、愛の口づけで目覚めてくれれば医者は要らないだろうが、というのが彼の所感である。
     病室の前で足を止め、扉を叩いてから中に入る。暗殺チームのリーダー、リゾット・ネエロが出迎えてくれた。「ボンジョルノ、フーゴ。また来てくれたのか」
    「ボンジョルノ、リゾット。僕はただ花を届けに来ただけです」
    「いつも悪いな。ありがとう」
     フーゴの持つ花籠を見たリゾットの怜悧な目は柔和になった。一見冷徹な男だが、その実誰よりも身内への情が深い。だからこうして、彼もよく見舞いに来ている。
    「こいつも早く目覚めて、見てやれたらいいのだが。朝に弱いヤツだったが、まさかここまでとはな」
    「仕方ありませんよ。本当は、生きているだけでも凄いことなんですから」
     フーゴはベッドに眠る女――鏡のイルーゾォを見た。白い枕には艶やかな黒髪が広がっている。傍らの計測機器と点滴とで物々しい雰囲気にも思えるが、頬は少し痩せてはいるもののほんのりばら色を帯びていて健康そうだ。
     半年ほど前、あのポンペイ遺跡での戦いでイルーゾォはほとんど死んだも同然だった。ジョルノの力ですんでのところで命を繋がれ――曰く、髪の毛一本ほどのギリギリのところだったそうだが――ウイルスに溶かされた体を作り直して今に至る。幸い後遺症などもなく、何事もなかったかのように綺麗な顔で眠り続けている。それは気持ちよさそうに。
     だからリゾットなどは中々目覚めないことに余計にやきもきしてしまうのだろうが、フーゴからしてみればあのウイルスに冒されてなお生き続けている、その驚くべき事実だけで十分だった。ただ、彼女が起きているときの顔よりも寝顔の方をよく知っている、というのはなんだか奇妙な気分だった。
    「では、リゾット。これ、どこか端っこにでも……」
     フーゴがリゾットに花籠を渡そうとすると、リゾットの胸ポケットの携帯電話がブーブーうなりながら震えた。
    「おっと、すまない。少し電話に出てくる。花は、そうだな。こいつの目に入りそうなところに置いておいてくれ。その辺のどかしてしまっていいから」
     そう言うと、リゾットは早足で病室から出て行ってしまった。フーゴは改めて病室を見回す。ベッドサイドのテーブルもチェストも暗殺チームのメンバーが見舞いに持ってきた鏡で既に怪しげな祭壇のようになっている。フーゴは鏡を慎重に寄せてバスケットを置けるだけのスペースを確保すると素早く置いた。あまり長居するのは気が引ける。彼女が目覚めたとき、最初に目に入る人間がよりによって自分になるのはまずいだろう。
     ――その一心で、気がはやっていたらしい。
     バスケットから手を離すとき、袖口に花を引っかけてしまって、薄紅色の花びらが一枚ひらりと舞い、イルーゾォの唇の上にふわりと乗った。
     一瞬気付かないふりをしようとも思ったが、自分で招いたことでもあるので、フーゴは繊細なガラス細工にふれるように、そっと手を伸ばして花びらをつまみ上げた。フーゴはほう、と安心のため息をつく。今度こそ病室を後にしようと一歩踏み出したとき、ふと視界の端に違和感を覚えた。何かが光った気がする。何気なくその光の方に目を遣った。目が、合った。
    「え、あ、あの」
     赤い双眸がぼんやり開かれている。まだ寝ぼけた様子でゆっくりとした瞬きを繰り返しているが、視線はフーゴを射止めている。どうしよう。普段は明晰なフーゴの頭も、その言葉一色になってしまった。イルーゾォはまだ状況がわかっていないらしく、ご機嫌な寝起きの赤ん坊のようにふにゃりとほほ笑んだ。
    「せ、先生呼んできますからっ!」
     フーゴは脚をもつれさせながら病室から飛び出した。その手にしっかりと花びらを握ったまま。


     ◆  ◆  ◆

     浮き草になってふわふわ水面を漂う感覚。浮雲になってのんびり秋空を流れる感覚。死の苦しみさえ越えてしまえば、天国も地獄もなく、身軽なものらしい。――とイルーゾォは思っていたのだが、どうやらあれだけの苦しみを味わったのに、越えられていなかったらしい。
     どこかで見たような金髪の少年が去って行ってすぐ、リーダー・リゾットが駆け寄ってきて、きつく抱きしめてくれた。その力強さと温かさに、イルーゾォはどうやら現世らしいと気がついた。リゾットが負けて死ぬだなんて想像できないし、第一、死人だったら彼の胸が温かいはずがない。温かい胸に寄りかかりながら、イルーゾォはあのポンペイ遺跡で『最期』に思ったことをリゾットに伝えようとした。
    「リーダー、ごめん、おれ、『鍵』、とれなかっ……」
     イルーゾォはそこではたと気付いた。さっきの金髪の少年が、『どこかで見た』とかそんなレベルの存在ではないことに。イルーゾォは血相を変えてリゾットから離れると、ドアの方を指さして叫んだ。
    「リーダー、さっき出てったやつ! あいつのスタンド、殺人ウイルスで……!」
     急に大声を出したせいか、イルーゾォは咳き込んだ。あの少年――ブチャラティチームのパンナコッタ・フーゴがさっきまでそこにいたのだ。何のために? 何かを仕掛けたのか? でも、それにしては様子がおかしかった。目的を果たして去って行くというよりは、驚いて逃げていくような反応だった。
    「ああ、それなんだが、フーゴはもう俺たちの仲間だ。俺たちがブチャラティ達の仲間に加わったと言うべきかもしれないがな。順を追って話すと長くなるが……それは後にしよう。とにかく、俺たちとブチャラティ達との間に戦いはない。ボスの刺客もいないし、そのボスも倒された。心配は要らない。今はゆっくり体力を回復させる時だ」
     イルーゾォの正直な感想としては、『よく分からないことがわかった』である。だが、リゾットはそういう冗談を言う人間ではないことは確かだ。窓の外の木々は色づき始めているし、病室も『いい』部屋なことがわかる。つまり、ポンペイで戦っていたときから時間がかなり経過していて、いい病室で寝かせてもらえる待遇になったらしい。ともかく自分の知らないうちに、恐らく皆頑張ったのだろう。自分が寝ている間に。
    「……とにかく、おれがしくじって死んでる間に、全部よくなったってことか」
     イルーゾォは不満げに呟く。暗殺チームの紅一点であるイルーゾォは蚊帳の外にされるのをひどく嫌がる。そしてそうなったときの不満は大抵、自嘲という形で噴出するのだ。イルーゾォの御し方を完全に習得しているリゾットは呆れたように、しかし優しく肩をぽんと叩いた。
    「そう拗ねるな。確かに寝ぼすけだがな、本当にお前が死んでいたら、彼らと手を組むこともなかった。お前を救ったジョルノもお前の生命力がなければ無理だったと言っていたし、フーゴも生きているだけで凄いことだと言っていた。お前なくしては今の状況は成り立なかったんだ。お前も役立っている。それは覚えておけ」
    「うん。――うん? う~ん? ……うん」
     自分をはめてきたジョルノが救ったとか、『さらによく分からないことが分かってきた』イルーゾォだったが、詳しいことは後で考えることにした。
    「では、俺は皆にいいニュースをもたらすとしよう。お前はゆっくり――」立ち上がったリゾットは、唇を撫でながら何やら思案顔のイルーゾォに気がついた。「どうした?」
    「んー……そういやさっき起きるときにさ」イルーゾォは自分の唇を撫で繰り回しながら、何の気なしに呟く。「何かすべすべして柔らかいのが唇に触れてた気がするんだけど……」
    「……………………なんだと?」
     リゾットはパイプオルガンの最低音(ブルドン)のような声で呟くと、文字通り『姿を消して』部屋から出て行った。イルーゾォはごろんと横になり、サイドテーブルのフラワーバスケットに目を細めた。
     この後、看護師達の間で『素敵な王子様(prince charming)』が復権を果たしたのだが、それはまた別の話であり、イルーゾォはあずかり知らぬ事であった。
     
     ◆  ◆  ◆

     検査三昧の後は、リハビリリハビリまたリハビリ。イルーゾォは忙しくしているらしい。もっとも、今は通常のリハビリではなく、仕事復帰に向けたもので、スポーツ選手が行うようなトレーニングだそうだ。
     いつものように、特別個室を目指して歩く。ブーケを持って歩く。イルーゾォがリハビリで忙しくしている間を狙って。――そんなわけだから、看護師達の間では、素敵な王子様が内気な王子様に位を奪われてしまったそうである。
     フーゴは誰もいない病室の扉を律儀に叩く。返事がないのを確認すると、「失礼します」とこれまた律儀に挨拶して中に入った。誰もいないものと思って入ったフーゴは驚いて身をこわばらせた。
    「どうして、あなたがここに」
     ベッドの上で、ラフな服装に身を包んだイルーゾォが退屈そうに脚を伸ばしていた。
    「そりゃ、おれの個室だし。いても何もおかしくないだろ」
    「そうですが、そうじゃないでしょう。リハビリの時間じゃあないんですか」
    「今日はおやすみ。そんな日もある。……おっ、今回はナチュラル系か。いつもありがとな。結構楽しみにしてるんだ」
     緑を基調としたブーケを見て、イルーゾォはにこりと笑った。フーゴは気まずさを隠せずに、うつむき加減に答える。
    「別に、感謝されることではないです」
    「お前はそうかもしれないけど、おれはうれしいんだよ。花なんて貰うの、生まれて初めてだったからさ」
     フーゴは意外そうに眉を上げた。異国の血を感じさせる顔立ちは、贔屓目を抜きにしてもかなり整っている。癖のあるあでやかな黒髪も、柘榴のような赤い目も魅力的だ。鮮烈な赤いダリアのような存在感がある。花くらい貰い慣れていると思っていた。だから花を選んだのだ。
    「な……なんだよ。哀れんでんのかよ?」
    「いえ。だとしたら、周囲の人は目が節穴だな……と」
     正直に思ったことを口にしたら、イルーゾォは一瞬真顔で瞬きをして、それから眉尻を下げて苦笑いした。
    「そりゃ、任務でいわゆる『ハニトラ』仕掛ける時なんかは貰ったりするよォ? でも、そういうのはノーカン。嬉しくねえもん。『貰って嬉しい花』って言うべきだったかな。――結構、いいもんだな。綺麗なものは、そこにあるだけでも。花にしても星にしてもさ。ろくでなしの暗殺者でも、そう思うよ」
     イルーゾォはふにゃりとした笑顔になった。恋の駆け引きといった類いに今のところ縁のないフーゴでも、その笑顔が演技ではないことはわかる。
    「よかった。少しでも無聊の慰めになっていたら」フーゴはほっとした様子で言った。と同時に何故か胸が高鳴って、そわそわと落ち着かなくなってきた。妙に気恥ずかしくて、去ってしまいたい気分になる。
    「で、では、これ……」
     ブーケを押しつけるようにすると、しかし、イルーゾォは腕をだらりと脱力させた。そして――
    「あー、いたたたた。手に、手に力が入らないー」
     突然、イルーゾォは大根女優になった。
    「はい?」
    「ちぎった左腕が痛すぎて何も持てなーい。鏡しか持てそうにないィー」
    「イルーゾォさん」
    「代わりにおいてくれないかなー」
    「……それで本当に『ハニトラ』を?」
     フーゴは眉をひそめながらブーケを置いた。大根女優賞というのがもしあれば総なめしそうな演技力である。これでハニートラップを成功させていたら、相手は多分、脳みそがピンポン球くらいの大きさだったのだろう。頭を振ったら、多分頭蓋骨の中で跳ねてぴたぴた音がするに違いない。
    「なんだよ~。ほんのお茶目だろうが」イルーゾォはばつの悪そうな顔で口を尖らせる。「いつもはちゃんとやってんの。ていうか、せっかく見舞いに来たのに、もう帰っちゃうのかよ」
    「もともと、あなたがいない間にこっそり置いてくる予定だったんですよ」フーゴはため息交じりに答えた。しかし、わからない。どうして、どうしてイルーゾォは――。
     フーゴは思い切って口を開いた。
    「でも平気なんですか? 僕は、あなたを殺すところだった。いや、殺していました。ジョルノがいなかったら、確実に。生き残ったとしても、あなたの姿を二目と見られないものにしていたかもしれません。忌まわしいでしょう。僕の顔も見たくないんじゃないですか?」
     声をわずかに震わせながら、フーゴは早口でまくし立てる。無意識に本心を隠すかのように。むしろ、己が直視するのを恐れているのかもしれなかった。イルーゾォは優しく諭すかのようにほほ笑んだ。
    「おれだってお前を殺してたろ。アバッキオやジョルノがいなかったら確実に。ジョルノがいなければアバッキオも死んでただろうな。だがそうはならなかった。今はお互い生きてるわけだし。今でもパープル・ヘイズは怖えェけど、お前がそんな忌まわしかったら、花なんて突き返してるって。そんで、二度と送って来んなって言う。だろ? だからさ、ゆっくりしてこうぜ。ていうか、暇なんだよ」
     フーゴは不思議そうな目つきでイルーゾォを見つめた。さっきからイルーゾォにはペースを乱されっぱなしだ。いや、初めからかもしれない。笑ったり、むくれたり。子供っぽいかと思えば、年上らしい態度だったり。なんか突然、大根演技を始めたり。思えば最初も、鏡の中に現れるという特大の不意打ちだった。二度目も、突然目覚めて笑いかけてきた。三度目は、いないはずの時間にいた。ずっと振り回されている。けれど決して悪くない気分だった。
    「そ、そんなに見んなよぉ……恥ずかしいじゃあねえか」
    「ごめんなさい。でも、後遺症もなくて本当によかった。あの状態で生き延びた人は初めてだったから、どうなるかわからなくて、心配してたんです」
    「へへ、主要な内臓も新調してもらったから、むしろ前より健康かも。肌も綺麗になった気がするし」
     イルーゾォは基礎化粧品のコマーシャルのように自分の両頬をなで回しはじめたので、フーゴは思わず笑ってしまった。
    「あ。笑ったな」
    「……失礼」
    「葬式みてーな面よりいい。そっちも決して悪くないけど」
    「――そ、そうですか……」
     フーゴはうつむいて赤くなる。じり、と耳の方まで熱くなっていくのがわかった。
    「ま、それはそれとして、だ。なんでお前、律儀に花を届けに来てくれるんだ? 見舞いの花ってのはこんなに頻繁に持ってくるものなのか?」
    「僕があなたを痛めつけた張本人だから……というのはもちろんありますけど、それより、感謝してるんです。あなたが戻ってきてくれて。僕のウイルスは、人を殺すだけのものだと思っていた。確かにそうです。それは変わっていません。でも、対処と処置が出来れば、死なずに済む。それが示されたから。嬉しかったんです」
    「それにしたってさ……真面目だねえ」
     イルーゾォは腕を組み、うんうんと頷きながら感心の素振りを見せた。
    「あなたにとっては退屈な人間かも」
    「んなこたねえ。褒めたんだけどな。リーダーみたいな真面目な人間は好ましい。ていうか、うちの人間は皆根は真面目なんだよ。真面目に生きてる人間の対極みたいな仕事だけどさ、真面目にやんなきゃ死んじゃうだろ? リーダーはその辺厳しいんだ」
    「ああ」
     フーゴはポンペイ遺跡に律儀に設置されていた鏡を思い出しながら頷く。大多数の人間はスタンド能力を持っていなかったとしても、パッショーネに目を付けられるような人間は持っているかもしれない。それに、話によるとリゾットなどはスタンド同士の戦いに慣れているというのだから、当然、他のメンバーも経験済みだろうし、リゾットの性格を考えると、スタンド能力があるからと慢心するなと厳格に言い含めているだろう。
    「……リゾットさんは、チームの父親みたいですね」
    「そう思う? 年の差は兄弟だけどさ。おれは父親の顔も名前も知らないが、もし父親ってのがいれば、あんな感じかもなって思うんだよ」
    「ええ、そうでしょうね……」
     フーゴは妙に実感のこもった声色で同意した。
     ――イルーゾォが目覚めた後のことである。主治医を呼んだフーゴは、所在なさげに階段の踊り場に佇んでいた。そこへ、姿を消したままリゾットが話しかけてきたのである。まさか『素敵な王子様』をやったのではあるまいな? あ、なんか今心当たりのありそうな顔をしたぞ? と詰問するリゾットの放つプレッシャーは、娘を心配し婿を見定める父親のそれであった。――正確にはフーゴも体験したことがないので、恐らくこのようであろうと感じさせる迫力があった。証拠の花びらを握ってなければメタリカコースだったかもしれない。
    「あは、お前もそう思うんだ」
     そんなこととはつゆ知らず、イルーゾォはけらけらと笑った。
    「ま、まあなんとなくですが。となると、他の方はきょうだいのようなものですか?」
    「そうだなあ。ペッシはいいけど、ギアッチョとかメローネとか、おれの方が年上のはずなのに、そんな扱いされてる気がしねえんだよな。見舞いだってのに花だってくれねえし」
     イルーゾォは両手を頭の後ろで組むと、口をとがらせて背を反らせた。
    「でも、大切に思われてますよ」
     フーゴが鏡の祭壇と化した机に視線を送ると、イルーゾォもつられて鏡に視線を送った。鏡は十個近くある。アンティークもののスタンドミラーやブランドのコンパクトミラー、猫耳のついた鏡、東洋の漆器の鏡、なんの変哲もない、シンプルな鏡、シーグラスで縁取られたスタンドミラー等々――。種類は様々だが、どれもイルーゾォのことを考えて贈られたものに違いなかった。
    「ま、好い奴らだよ。善人じゃあないけどな」
     イルーゾォはにっと白い歯を見せて悪戯っぽく笑った。
     フーゴは腕時計を一瞥すると、体感よりずっと長居していたことに気付いた。腰を上げるフーゴにイルーゾォは「もうかよ~?」と頬を膨らませた。
    「本当は置いて帰るだけのはずでしたから。もう戻らなくちゃ。でも、あなたさえよければ、また花をとどけにきていいですか? ……次は、あなたのいる時間に」
    「そんな待たなくてもいいよ。次はなんか暇つぶしでも持ってきてよ。お前の家にある本とかでいいからさ。暇で暇で、死にそうなんだ。まじに死ぬかも」
     イルーゾォはおどけていった。だが、元気が溢れているのに入院生活が続くのも、実際なかなかつらいものがあるだろう。
    「仰せのままに」
     フーゴがうやうやしく、右足を引いて、大きな手振りを付けて深々とお辞儀をしながら言うと、イルーゾォはぶは、と噴き出した。
    「どうした、急に?」
    「さっきのお返しですよ。ほんのお茶目」
     フーゴはにこりと笑って、軽やかな足取りでイルーゾォの病室を後にした。
     コツ、コツ、と心地よい革靴の音が響く。一音毎に、家にある本の背表紙が心に浮かぶ。さあ、何にしようか? イルーゾォは何が好きなんだろう? 何を楽しいと思うんだろうか? フーゴはあれこれ考えながらパッショーネ本部に戻った。家にある本でいいといっても、イルーゾォが退屈しないだろうか。かといって気を遣って無難な本を買っても、すぐにバレそうであるし、かえって不機嫌になる気がする。ではどうしようか。どうしたら、楽しんでもらえるだろう。
     プレゼントを選ぶような楽しい悩みごとは、いつの間にか顔にも出ていたらしい。にやついたミスタに「彼女でも出来たのか?」とからかわれるほどに。
     
      ◆  ◆  ◆

     足音が近づいてきて、イルーゾォは本から視線を外した。革靴の足音は看護師のものでも、フーゴのものでもない。足音はドアの前で止まり、それからすぐに堅いノック音が聞こえた。
    「どうぞ」
    「失礼します。――こんにちは、イルーゾォ」
     パッショーネの若き新ボス、ジョルノ・ジョバァーナである。彼は医者ではないが、イルーゾォの体を作り直した者として時々経過観察をしに来ている。ジョルノはつかつかと部屋を横切ると、ベッドサイドの椅子に遠慮なく腰掛けた。
    「明日は晴れて退院日ですね。おめでとうございます」
    「……ど……どうも……アリガトウゴザイマス」
     イルーゾォは頬を引きつらせながら答える。ジョルノはどうにも苦手だ。イルーゾォが死にかける道筋の全てを描いた軍師のようなヤツだが、統率者の素質も抜きん出ている。シミュレーションゲームのパラメーターでいえば、統率力・武力・魅力・知力がカンストしている。この後は政治力を伸ばしていくであろうし、そうなったらもう手が付けられない。ポンペイでのこと以外にも、裁定者のような目が苦手だった。あの目に映されると全て見透かされているような気分になる。とかく自分だけの世界を持ちたがるイルーゾォにとってはプレッシャーであった。
    「その後、調子はいかがですか? フーゴの話では元気が有り余っているくらいのようですが」
    「元気元気。チョーいい感じ」イルーゾォはやる気なさげに力こぶを見せながらのろのろ答えた。
    「話の通りですね。内臓の大部分を作ったのはあなたが初めてだったので、経過が気になってしまって」
     アドニスのごとき少年は美しくほほ笑む。イルーゾォはアルカイックスマイルを顔に貼り付けて無言で答えた。
     ――やはり苦手だ。あの目に加え、年下の、子供と言っていい少年に自分が見たことも見ることも出来ない部分を見られ、作られた居心地の悪さもあるのである。単純に羞恥心から来る苦手意識だった。
     ジョルノはそんなイルーゾォの苦手意識を意に介さない様子で病室を見回す。退院日を控え、荷物は大方まとめられていたが、テーブルには本が積まれたままだ。見覚えのある本だった。イルーゾォの手元にもまた、見覚えのある本がある。
    「この本、フーゴのでは? フーゴの部屋で見たことがあります」
    「ああ。暇なんで、家にあるのを適当に持ってきて貰った」
    「へえー。本、お好きなんですか」
    「それほどでも」
     イルーゾォは肩をすくめて答えた。元々イルーゾォは読書家ではない。あの時なぜ本を持ってきてほしいと言ったのかは自分でもわからない。フーゴの持っている本など、インテリとかエリートの書棚にあるような難しい本ばかりであろうことは想像に難くないのに。実際フーゴが持ってきたのも難しそうな本だった(少なくとも読書の習慣のないイルーゾォにはそう思えた)。だが、思ったより楽しく読めている。というのも、フーゴが一冊一冊簡単に解説してくれて、それがなかなか上手かったのである。
    「まあ結構面白いよ」イルーゾォは表紙を一瞥する。天文学史と書いてあった。
    「あいつは人にものを教えるのがうまいな」
    「ええ、彼はずっとナランチャの先生ですから、教えるのは上手ですよ。本当、仲良くしているようで、安心しましたよ」
     ジョルノはにっこりと笑った。実際、一番因縁の深いフーゴとの関係を懸念していたのである。蓋を開けてみれば、無用な心配だった。
    「では僕は戻りますが、もし、体に違和感を感じたら、すぐ僕に連絡を。遠慮せず、いつでもね」
    「わかった。でも、そんな心配いらないとおもうけど。実際、調子いいし。新品だもんな」
    「念には念を。あなたはこう見えてやせ我慢する方でしょう。では改めて、イルーゾォ。あなたの力、頼りにしています。これからどうぞよろしく」
    「あ、はい。こちらこそ。存分に役立ててくれ」
    「ああ、そうそう……」
     何か思い出したかのようにジョルノが口を開いた。
    「この前試着して貰った仕事着ですが、調整が終わったので今日中にアジトにとどけます」
    「Grazie. 服に見合うように働かせて貰うよ」
    「お気になさらず。……せめてもの埋め合わせです」
     ポンペイの時までイルーゾォが着用していた仕事着は廃棄処分されていた。もはや汚れとかいう範疇ではなく、クリーニングの世界チャンピオンをもってしてもどうしようもない状態になったので、やむなく廃棄されたのだ。どうもそのことを少年たちは気にしているらしく、わざわざ採寸して新しい服を作ってくれたのである。それもかえって気後れしてしまうようなものを。
    「しょうがないだろ、あん時は……。別に、くたびれてたし、そろそろ新しいのにしようと思ってたし……」
     イルーゾォ自身は仕方がなかったと受け入れている。たまたま自分が生きながらえたものだから、結果として彼らが気まずい思いをしているだけである。それに、高級品だったわけではない。ただ、見繕ってくれたのが目の肥えたソルベだった。裁縫も満足に出来ないイルーゾォに代わってボタンやポケットを付けてくれたのが手先の器用なジェラートだった。ただ、それだけ。それだけなのだ。でも。
    「そうだとしても、捨てるつもりはなかったんじゃないですか」
     ジョルノはイルーゾォをまっすぐ見つめていった。
     そう、それだけの――思い入れのある――服でもあった。
    「……だが、ものには終わりがあるもんだ。いつかは別れなくちゃな」
     イルーゾォは窓の外に目を遣った。鮮やかに色づいていた木々の賑わいも、今やすっかり寂しくなっている。風が吹く毎に冬が降りてくるのが感じられた。ヒイラギの実が入れ替わりに熟し始めている。
    「新しい服もくたびれるまで使わせて貰うさ。だから、この話はおしまいにしようぜ。湿っぽくてかなわねえ」
    「わかりました。それと、明日はフーゴがお迎えに上がります。次は本部でお会いしましょうね。それでは……」
    「ああ、また。……?」
     ――待て。フーゴが? リゾットのはずでは? なんでフーゴ? イルーゾォはきこうとしたが、足音は遠ざかっていった。
     翌日、果たして病院玄関にはフーゴがいた。

      ◆  ◆  ◆

    「退院おめでとうございます」
    「ああ。やっと入院生活ともおさらばだよ」
    「ええ、これからは存分に自由を楽しんでください」
     フーゴはイルーゾォの荷物を車内に積み込む。当初イルーゾォの迎えを予定していたリゾットは急用のためこられず、その他のメンバーもなんだかんだと都合がつかず、それならばと任命されたのがフーゴだった。『素敵な王子様』疑惑をかけられたものの、その誤解も解けたことだし、さらにイルーゾォとも打ち解けているのでリゾットに託されたのだ。
     残った荷物を積み込もうとフーゴが振り返ると、イルーゾォは「ん」と言ってバッグを突き出した。
    「本、ありがとな。全部は読み切れなかったけど。おかげで生き返ったよ」
    「大げさですよ。でも、退屈がまぎれたならよかった」
     フーゴは本の入ったバッグを受け取ると、うつむき加減でそれも積み込む。顔が赤いのを気付かれないように。さっき受け取ったときに、イルーゾォの指が触れた。たったそれだけ。でも、じり、と皮膚が赤くなる音が聞こたような気がした。イルーゾォにも聞こえてしまったのではないかと思うほどに。
     しかしイルーゾォは何かに気がついた様子もなく、助手席に乗り込んだ。何事もなかったかのようにフーゴも運転席に乗り込んで、ハンドルに手をかける。
    「では、安全運転でアジトまでお送りします」
    「うん、よろしく」
     イルーゾォはまるで自分の寝室のソファと言わんばかりのリラックスぶりで背もたれに体重を預けた。そんなイルーゾォを横目に見て、フーゴは車を発進させた。
     
     ――イルーゾォはプライドが高く、高慢だ。彼女を知る者であれば皆そう答えよう。他人を小馬鹿にしたような、素直ではない言動にもそれが表れている。だが、話をしてみれば案外普通に話ができる。素直でない、というよりは素直なのを隠したがっているように見受けられる。彼女が育ったと言うスラムや暗殺者としての暮らしの中で身につけた仕草なのかもしれない。『綺麗なものはいい』と言った彼女に、家にあった天体写真集や美術、地学の図録を見せた時や、その解説をしていた時、柘榴石の瞳は初めて学校に来た子供のように澄んだ光を湛えていた。アバッキオよりも年上なのに。思わず可愛い、と思ってしまうほどに。
     猫のように無遠慮で態度が大きいくせして、小動物みたいな繊細な心もある。
     ころころと表情が変わるくせして、ただ静かに耳を傾けてくれたりして。
     子供っぽいくせに、ちゃんと年上の大人らしくもあり。
     普段の口調は男っぽいのに、仕草は女性で。
     水のように自由で、風のようにこちらの思考をかき乱してくる。
     そんな一言では表せない愛嬌のようなものがある。だからこそ、暗殺チームでも可愛がられていて、だからこそ自分は彼女に惹かれているのだ、どうしようもなく。
     そも、足繁く彼女の元に通っていたのは――自分のウイルスから生き延びてくれた喜びはあるにせよ――今思えば、ただ顔が見たかったからなのだろう。花を届けるだけなら、ドア近くに届けるのでも良かったのに。きっと初めから、憎からず思っていた。
     そのくせ、直接会うのを忌避していたのは、きっと直に拒絶されるのを恐れていたからで、拒絶されるのを恐れるのは、彼女に特別な好意を抱いていたからで。
     この茶葉は好きだろうかとか、この色は好きだろうかとか、見るもの全てを彼女につなげるようになったのは、恋になってしまったから。恋だと自覚してしまったから。
     ギャングの暗殺者で、お世辞にも性格がいいとは言えない、というのはフーゴも重々承知の上。あばたもえくぼ、とはいうが、本当にその通りだった。むしろ、イルーゾォはそうでなくちゃ困る。高慢で、素直でなくて、思考を乱してくる自由さがなければ物足りないのである。

     冬の入り口、ツンと冴えたような空の下を車が走る。入院中も何度か外出の機会はあったはずだが、イルーゾォは感慨深げに流れゆく風景を眺めていた。散歩中の犬や家の窓辺でくつろぐ猫を見つけると、首を伸ばしてよく見ようとするのが可愛らしい。暗殺チームのアジトに近づいてきた頃、ふいにイルーゾォがくるりと頭を巡らせた。
    「そういえば、可愛いあだ名がついてんだな、お前」「え?」完全に予期していなかった話題に、フーゴは一瞬固まる。
    「プリンス……シャ……? いやチャーミングだったかな。看護婦たちが噂してたぜ」イルーゾォはニタニタとからかうような悪い笑みを浮かべてフーゴの顔をのぞき込んだ。「確かに品があって綺麗なツラしてるよなァ。王子様顔というか」
    「あ、はあ……そうなんですかあ……そりゃどうも……」
     どう聞いても下手くそなとぼけ方だったが、イルーゾォは特に気にとめなかったらしく、続けて口を開く。
    「プリンス・チャーミングといえば白雪姫だっけ?」
    「ええ」イルーゾォの素朴な疑問に、フーゴは素直に答えた。「他にもイバラ姫とかシンデレラの王子様もですね。苦境にあるお姫様を救い出す舞台装置というかストックキャラクターというか……。なのでお姫様と比べて王子様の人格は希薄なんですよ」
    「へえ~、やっぱりなんでも知ってるなあ。一を聞いたら十を答えるってやつだな」
     イルーゾォは感心した様子で頭をヘッドレストにくっつけた。このまま上手いこと話題を逸らせそうだ。フーゴはほっとして、本の話題に切り替えようとした。――未遂である。
    「ってことは……対応するお姫様ありきだよな」
    「へえ!?」
    「びっくりした! 急にデケエ声出すなよな!」
     フーゴの叫びよりも大きな声でイルーゾォが抗議の声を上げた。
    「だってさ、単に顔面を持て囃すんならプリンスだけでいいだろ? あるいは外見にちなんで金髪の王子様とかさ。目の色にちなんで紫水晶の王子様とかもあるな。でもわざわざ童話に因むなんて、絶対なんか理由があるだろ、プリンス・チャーミングと共通点があるってことだ」
    「そ、そうですかね……?」
     フーゴは目を泳がせてすっとぼける。イルーゾォの推理力はポンペイでも見たとおりだ。むしろ、ホルマジオやプロシュートのような『いかにもな切れ者』オーラを出していない分、手痛い不意打ちをしてくる。
    「お前実は……」
     イルーゾォの目がきらりと鋭く光った。フーゴはごくりと唾を飲み込む。
    「あの病院に好きな女でも入院してたんじゃあねーか?」
     フーゴは脱力の余り白目をむきそうになった。
    「それであんなに頻繁にきてたんだろ! ひでー虐待親から逃げ出してきたとかさ、そんな少女を助けるために王子様面がしょっちゅう通ってたら、そりゃあ噂に……」
    「イルーゾォさん」
     白目をむきそうになるのどうにかを堪えてフーゴが口を挟んだ。
    「な、なんだよ?」
    「イバラ姫と白雪姫の共通点といえばなんだと思います?」
    「そりゃ、王子が眠ってるところにキスして目覚めるアレだろ?」
    「長いこと眠っていたでしょ、あなたも」
    「ああ。あー?」イルーゾォのなかでようやく何かが繋がったらしい。心の底から意外そうな顔で、自身を指さした。「……俺だってのか?」
    「他に誰がいるって言うんですか、もう!」
    「だって、お姫様ってガラじゃねーだろ!?」
    「そんなの……寝てたらわかりませんよ。わかるのは、眠っている人が美しいことくらいですから」
    「それもそうか。……確かに、起きた時お前がそばにいたし……あの時……そういえば、お前あの時さ、」
    「ち、誓ってキスなんてしてませんからっ! 勝手にそんなことしませんよっ! もし信じられないならリゾットさんに聞いてください!」
     慌てたようにフーゴがまくし立てた。耳の先までツバメのように真っ赤になっている。しかし、イルーゾォはぽかんと口を開けている。
    「い、いや、そうじゃなくって、お前、逃げるようにでてったから……ああ、それであの時リーダーなんか急に怒ったみたいに……」
     合点がいったようにイルーゾォは頷いた。フーゴは前を向いた。二人を乗せた車は最後の信号を通過した。
    「――あなたが目覚めた時、一番最初に見たのがよりによって僕の姿になってしまったので、慌ててしまったんです。あの後リゾットさんに詰問されましたよ。キスでもしたんじゃないかってね。あの時あなたが唇で感じたのは、実際には花びらだったわけですけど」
    「ウブな娘ならともかくだぜ? 俺なんて……リーダーも過保護だよなあ」
     イルーゾォは呆れたように笑った。リゾットの身内に対する心配性はイルーゾォからしても目に余るところがあるのだろう。
    「でも、僕としても本意ではないので、誤解が解けてよかったです。いくらなんでも、恋人でもない女性に、そんな、勝手に……しませんよ」
    「お前……結構ちゃんとしてるのな。でも、なんだか悪かったなあ。俺のせいで変な噂の的になってたようなもんだろ?」
    「いいんです」
     車はアジトの前についた。路肩に寄せて車を停止させると、フーゴは真剣なまなざしでイルーゾォを見た。
    「プリンス・チャーミングは、もともとチャーミングな王子なわけではなかったんです。素敵な王子ではなく、魅了された王子だったんです。王子を名乗るつもりはありませんが、正しく僕は、あなたに魅了されてるんですよ」
    「……まるでおれに惚れてるみてーだなあ」
    「『みてー』じゃないですよ。惚れてるんです。恋慕の情を抱いているんです。焦がれているんです。大好き、なんです……」
     フーゴの声は段々小さくなっていった。目を合わせることも難しくなって、ハンドルを持つ腕と腕の間でぐんにゃりとうつむいてしまった。イルーゾォの目が見開かれてゆく。柘榴石に明るい輝きがさした。深呼吸をひとつしてから、フーゴは恐る恐るイルーゾォを見る。
    「でも、僕は別にその……あなたの顔が見られれば、思いを寄せるのをお許しいただければ、それで……十分、」
     言い終わらないうちに、何かとても柔らかいもので口を塞がれた。それは唇に間違いないのだが、唇であるはずがない気もしていて、――しかし確かに女の唇だった。
     時間にしてほんの数秒。
     ただ、触れるだけの。
     まるで肉欲を知らない幼い恋人同士がするような。
     経験豊富な大人が見たら思わず微笑んでしまうような。
     でも、少年にとっては一生の思い出になりそうな、そんな瞬きの間の――口づけであった。
     離れて行った唇を名残惜しそうに目で追うと、それは美しく歪んだ。
    「目ェ覚めたかよ? ガキのくせにお利口さんな事言ってんじゃあねーよ」
    「イルーゾォさん……」
     フーゴの瞳に熱っぽい光が揺らいでいるので、イルーゾォはニヤッと笑った。しかし。
    「一生忘れません……」
    「まだ夢ん中かよ!」
     完全に夢見心地なフーゴの声にイルーゾォは悲鳴のような声を上げると、後部座席からひったくるように荷物を持って、ずかずかとアジトに入って行った。
     この後まもなく何か『覚醒』したかのようなフーゴの猛アタックをきっかけに二人はお付き合いを始め、すぐ別れそうだという周囲の予想をよそに――凸凹ながらもそれは睦まじくしていたということである。
     

     
     
     
     
     
     
     
      
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