悩みの種(出島小話) 狡噛はとても魅力的な恋人だったが、ある種根源的な悩みの種でもあった。それは友人としてでもあり、仕事仲間としてでもあり、恋人としてでもある。友人としては話を聞かないところ、仕事仲間としては独断専行しがちなところ、恋人としてはあまりにもロマンチストすぎるところがそうだろうか。とにかく経歴だけ見れば最高にすばらしい俺の恋人は、俺にとっては一番の悩みの種でもあったのだった。
捜査中出島を歩いている時、迷子を見つけた。上等な服を着た少女で、マーケットには似合わなかった。すぐにドローンに引き渡すべきだったのは分かっている。けれど捜査中だった俺たちは彼らに接触することは出来ず、少女の親を探すふりをして任務につくことになった。少女は最初のうちは静かだった。けれど段々と飽きて来たのか、次々に疑問を俺たちにぶつけ出す。
「二人の関係は?」
「パパとママはどこ?」
パパとママの心配が最後なのは笑ってしまう。しかしどれも答えにくい質問だ。だって誰がどこで聞いているのか分からないのだ。だからこういう手合いには俺たちは適当に応えることにしているのだけれど、狡噛は面白がって次のように答えた。
「俺たちは恋人同士で国際的なマフィアを追ってるエージェント。あとお姫様のお父様とお母様も探してる」
俺は頭を抱えそうになった。全部本当といえば本当なんだろう。けれど少女はくつくつと笑って「それって素敵な生活!」と言った。ドラマか映画みたいで面白いんだろう。
「それでお姫様のパパの職業は?」
俺がそうやって尋ねると、少女は目を細めてこう言った。
「国際的なマフィア。ねぇ、あなたたち、私に自由を与える気はない?」
少女に日本の永住権を与え親と引き離すことに成功した俺たちは、すぐさま追っていたマフィアを捉えることが出来た。娘が父をなぜ裏切ったのかはしれない。だが、それもじきに分かることだろう。
今回は狡噛のロマンチスト具合に助けられたってことになるが、次はどうなるか分からない。悩みの種は成功の種でもある。のだが、こういうのはたまに起こるくらいでいい。