別れを惜しむそぶりを見せたつもりはなかったけれど。
同じ現場の仕事の後、各々の家まで送り届けられる車内でのこと。あと数分で凛月宅に着くという頃、いいものあげる、と不意に司へ差し出されたものは、凛月の写真――今度のライブツアーで販売するグッズのブロマイドだった。
「ス~ちゃんだけ特別だよ? 夢の中でも俺に会える権利」
真っ白なスタジオでただスツールに腰かけている、とてもシンプルな画だ。だからこそ凛月の佇まいが際立って目を引く。タイトなセットアップをさらりと着こなし、わずかに細められた紅いひとみは、どこか余裕に満ちた表情にも見える。今、司の目の前で柔らかく夜を囁く先輩とは、ちょっぴり遠い凛々しい騎士の姿。
2224