心のフレームびしょ濡れの服を絞りながら、こんな雨が降るなんて聞いてない!と大きくため息をついた。さっきまで上昇していた気持ちが急激に萎んでいくのを感じながら、帰ることも出来ないくらい、更に激しく降るようになった雨をぼんやりと眺めていた。今日は本当についてないなぁと心の中で呟く。
でも、しばらくして一つの人影が遠くからこちらへやってくるのを確認すると、萎んでいた気持ちが一気に急上昇していったのを感じた。
あれはキースだ。間違いない。
「おーい、ディノ。」
と遠くから俺を呼ぶ声がして思わず笑みがこぼれた。
「キース、迎えに来てくれたのか?ありがとう!」
「お前なぁ、午後から急な雨の予報だってテレビで言ってただろ?」
と傘を差し出しながらキースか言う。
「え?そうだったっけ?」
慌ててスマホの天気予報を確認すると傘のマークがついていた。ほんとに雨の予報になっている。確認しそびれただけだったんだ……
「ほら、早く帰るぞ。」
と歩き出すキースの傘の中にすっと潜り込む。一瞬驚いた顔をして
「…なんで傘渡したのに、こっち入ってくんだよ?」
と言いながら満更でもなさそうなキースに触れるか触れないかの距離まで近づく。
「だって、こういうの久しぶりだろ?」
にひっと、いたずらっ子のように顔を近ずけて笑うといつものように溜息を吐きつつそっと傘をずらして、俺が濡れないようにしてくれた。それから
「だいたい男2人でこんな狭い傘、濡れちまうだろ……」
「でもキースのは少し大きめのなんだからいけるって!」
「あのなぁ……」
という会話をしながらもそのまま歩き出す。
さっきまで早く止んでくれと思っていた雨なのに、今はまだ止まなければいいのにと思うことが不思議でたまらない。この時間が続いて欲しい。……けどその思い虚しく、段々と雨足は弱くなっていき、タワーに着く前にすっかり雨が上がってしまった。さっきまでの俺の気持ちを嘲笑しているかのように、見上げなくても自然と視界に入る大きくて青い空が広がっていた。
「雨、上がったな。」
そう呟き、傘を閉じるキースを見ながら
「そうだな。」
と頷く。ちょっと名残惜しいな、なんて。それは言わないでおこうとその言葉を奥にそっとしまい込む。ふと下を向くと、水溜まりに映り込んでいるものに自然と視線がいった、確認するようにそのまま上を見上げると7色に輝く橋が空に架かっていた。
「虹だ……!」
とおもわず呟く。
「おぉ、ほんとだ。これは立派なもんだな」
と言う声が隣から聞こえて、同じものを共有出来ているんだという実感が湧いて思わず頬が緩む。
「あ、そうだ写真!写真撮らなきゃ!」
慌ててスマホを取りだし、カメラのフレームを空へ合わせる。澄み切った青空に渡る大きな橋は若干色が薄くなっていたけれどもしっかりと収めることが出来た。そっとスマホを降ろすと映り込んだのは、心做しかいつもより優しくてやわらかい微笑みを浮かべているキースで、
「えっ……!?」
と思わず声が漏れる。
「どうしたんだよ、急に幽霊でも見たような声出して」
と少し驚いたような顔をしてから、俺の顔色を伺うようにじっと見つめてくる。それが恥ずかしいような、くすぐったいような気がして、思わず目を逸らす。
「ううん、なんでもないよ!」
ほら、行こう?と言いながらスマホをポケットの中にしまい歩き出す。たぶん今、自分の顔は真っ赤になっているだろう。
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ディノが歩き出した後、キースは
「オレ、そんなに顔に出てたか……?それとも……」
と考えを巡らせながら、火を吹きそうなほど赤く染まる自身の顔を片手で覆い、唸りながら道端に蹲った。きっとディノはまだ知らないだろう、ディノ自身が思っているよりも遥かに大きな好意を、向けられていることを。