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    いぬさんです。

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    いぬさんです。

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    39話目です。

    39初、完全勝利と思われたが。

    その晩「さて寝よう」と思って自分の部屋のベッドに一人で入った。
    うつらうつらしていると、悟が部屋に入ってきた。

    「……悟?一緒に寝る……?」

    「一緒に寝る」

    「ん」

    私は悟が入ってきやすいように端によけて布団を持ち上げた。

    悟が入って来て私を後ろから抱え込む。

    「おやすみ、悟」

    「何寝ようとしてんの」

    「えぇ……寝ようよ」

    「まだダメ」

    「まだって………眠いよ…」
    ダメだ。猛烈に眠い。

    「明日土曜で休みでしょ?」

    「今日はいろいろあって疲れたよ……」

    「こうされるの好きなんでしょ?」

    首筋にキスされる。

    「好きだけど……」
    しくじった事に気づく。

    首筋、耳、頬とキスされ、また首筋に戻る。頭、肩、首筋。時々肌の上を舌がなぞる。

    「ん……」
    こんなの反応してしまうに決まってるじゃないか。

    「いっぱいしてあげる」

    抱きしめて、キスをするだけ。
    唇以外の場所に。
    首筋にキスされる度にぞくぞくする。
    声が漏れる。

    私は自分で自分の身体を抱きしめた。
    どうにかして小さくなりたかった。
    悟に触れている面積を小さくしたかった。
    悟の身体から離れたかった。
    できるわけはないのだけれど。

    身体が熱い。
    いつまでこの状態が続くんだろう。
    火照って辛くなってきた。
    自分でも震えているのがはっきり分かる。

    「実ってばなんでそんなにかわいいの」

    「……もうやめてよぅ……」
    泣きそうだった。

    「やめていいの?好きなんでしょ?」

    「……このドSが……」

    「知ってるくせに」

    私を抱き締めている悟の手を掴んで、自分の胸に持っていく。

    「触って……」

    Tシャツの上から大きな手が胸を包み込む。
    指先で弄られるとビクッとなった。

    「え、待って実。反応良すぎない?」

    「いっぱい感じちゃったよ!ばか!」

    「あははっ。俺をいじめた罰!」

    「くっ…もういいから早くしてっ!」

    「きゃ~実ちゃん積極的~」

    「悟のせいでしょ!!」

    私は悟の頭を胸に抱いた。



    翌日、天気が良かったので私は光と外で庭師さんの仕事を手伝っていた(遊んでいた?)。悟は縁側に座ってそれを眺めている。縁側から私たちがいるところまで、10メートルくらいあるだろうか。そもそもここを庭と呼んでいいのかすら分からないような敷地の広さだ。子供の頃からここで過ごしているので一般家庭の庭がどんなものかももう分からない。

    ふと気がつくと、悟が誰かと話している。姿が見えないところに誰かいるようだ。

    「実ー!」

    「なーにー?」

    「ちょっと来てー!」

    なんだろう。光をつれて移動する。

    「光、お兄ちゃんたちお客さん来たから一人で遊んでてな」

    「はぁい」

    そう言うと光は自分の部屋に行ったようだ。

    「お客さん?誰?」

    「硝子」

    「家入さん?どしたんだろ?」

    「さあ?」

    五条家にはよく使う客間が和室と洋室で2つある。家政婦さんに今回は洋室に案内された。悟と二人でソファーに並んで座ると家入さんが客間に通された。

    「相変わらずでかい家だね。迷子になりそう」
    家入さんは空いている一人がけのソファーに腰をおろした。

    「おう。硝子が家に来るなんて珍しいな」

    「うん。五条じゃなくて実さんに話があって」

    「私?」

    「実さんの膜の話が聞きたかったんだ」

    「なんで?」
    悟が怪訝な顔をする。

    「私は医術師だよ?その膜にどんな効果があって、なぜ自力で出し入れできないのか、できるようになるのか、是非知りたいわけよ。この間みたいに触れないと何かあった時困るし。いつも五条が近くにいるとは限らないだろ?」

    私は悟と顔を見合わせた。
    私の膜の事を知っているのは本家にいる人間、呪術を使える人だけだ。たくさんの人に知られると危険度が上がるので、昔から箝口令がしかれていた。

    「んー。硝子だから話してもいい?」

    「うん。いいよ」

    悟が信用している家入さんなら問題ないだろう。


    私たちは家入さんに説明した。
    私たちは「バリア」と呼んでいること。呪力は全て弾くこと。始めて発現した時の状況、大きさを変えられること、無意識の許可があること。そして、術式を強制解除できること。

    「五条の無限みたいだな」

    「俺のと違うのは呪力を持たない人やモノには効果がないってことと、出し入れできないってことだから、無限の下位互換って感じかな?あーでも強制解除できるのは俺の術式より上だな」

    「領域の中ではどうなんだ?」

    「あー、実は領域の存在知らないから……」

    領域???

    「試した事はないと」

    「そう。領域展開できるようになったのってわりと最近だし。でも俺の無限は弾かれないから、領域に入っても問題ないと思うんだよな」

    「ふむ。バリアの出し入れ訓練はしたの?」

    「もちろんやったよ。できなかったけど」

    「対呪いに関してはバリアが機能してさえいれば最強だろうけど、呪い以外には弱いってことか……」

    「非術師に襲われるのを一番警戒してるのはそこなわけ」

    「ふうん。寝てる時はバリア出てるの?タバコ吸っていい?」

    「吸っていいよ。灰皿これね。一人で寝てる時はバリア出てるよ」
    テーブルの上に置いてある素敵な和皿は灰皿だったのか。家入さんが煙を吐く。というか、

    「え。待って?なんで一人で寝てる時の事知ってるの?」

    「一緒に寝ようと思って部屋に行って爆睡してる実を見たから」

    「爆睡って……いつの話なのよ」
    にわかには信じがたい。

    「昔から結構あるよ。爆睡されてるとおもしろくないから自分の部屋に戻るけど」

    「はぁーーーーー?!常習犯ってこと?!」

    「きみたちが昔からラブラブなのは分かった」

    はっとする。
    そうだ家入さんがいるのだ。
    痴話喧嘩だと思われる。いや、思われてる。

    「きみらが二人きりになってバリアが消えて、バリアが戻るまでの時間が2分。その時間を短くするか自力で出し入れするかが求められてるね」

    「そうなんだよな。でもできなかったから俺がくっついてる」

    「ここに来た時からバリアはあったから、きみらは別々に過ごしていたか、誰かが一緒にいたってのが分かるわけだ」

    「なんか……そう考えると恥ずかしいんですけど……」

    「実は見えてないから分かんないよな。あ。」

    「なに?」

    「すっかり忘れてた」

    「何を?」

    「親父が新しいメガネ作ってくれて渡されてた」

    「いつ?」

    「実が高専に来ることになった時」

    「えー?!随分前じゃない?!」

    「だから忘れてたの。ちょうどいいや、硝子ちょっと待ってて。実は一緒に来て」

    「客が来てんのにいやらしいことするなよ?」

    「だいじょーぶ」

    いや、なんか大丈夫そうじゃない。


    悟の部屋に行き、机の引き出しの中を探している。「どこだっけ?」忘れたんかい。

    「あぁ、あったあった。かけてみ」

    ケースからメガネを取り出す。ケガをした時に壊れて以来、呪いや呪力が見えるメガネはかけていないから久しぶりだ。
    かけて自分の手を見ると確かにバリアはあった。呪力がない私にも見えるのは本当に不思議だ。私には透明な膜のように見える。悟は桜色に見えると言っていたが、大体の人には透明に見えるのだろう。

    「はい、こっち来てー」

    悟が両手を広げる。

    「いやらしいことしないって言った」

    「しないしない」
    悟がにっこり笑う。しぶしぶ胸の中におさまる。

    「はい、深呼吸ー」

    悟の心臓の音。呼吸に合わせて動く胸。悟の匂い。ほっとする。2、3分そのままだっただろうか。

    「はい、自分の身体見て」

    身体を離すと靄が晴れるみたいにすーっとバリアが消えていく。

    「ね?こんな感じ」

    「なるほど~。初めてじっくり見たわ」

    「はい。じゃあ手を繋いで急いで戻ろう」

    私たちは小走りで客間に戻った。

    「やっぱりなんかいやらしいことしてきただろ。バリア消えてるじゃん」
    家入さんが何本目かのタバコをふかしている。

    「してないしてない。硝子、実に触ってみて」

    「嫌だよ。痛いもん」

    「今なら大丈夫!バリア復活するから急いで!」

    顔をしかめて家入さんが立ち上がる。

    「触れってどこに」
    「あ、じゃあ……」
    私は繋いでいない方の手を差し出した。
    家入さんが私の手を取ろうとしてぴたっと止まった。

    「無限か」
    はっとして悟を見る。

    「バリアが消えたらこうやって体のどこかに触って無限を拡げてる。これなら非術師も凶器も貫通しない。二人で出かける時とかはこれで対応してきたんだけどね。」

    「なるほど。無限とバリアは安心と信頼の証か。いいキャッチコピーができたじゃないか」

    「そういうこと。でもずっと手を繋いでるわけにもいかないから、ベストは自力で出し入れできることなんだよな」

    「私もそう思う。で、やっぱり決めた」
    家入さんがタバコを灰皿に押し付けた。

    「何を?」

    「実さんのバリアをきちんと調べさせて欲しい。今日はそのお願いに来た」



    私と悟は顔を見合わせた。


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