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    いぬさんです。

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    いぬさんです。

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    58話目です。

    58片目の六眼が現れてから実はピリピリしていたし不安そうだった。でも、それを俺には気付かれないようにしているし、気付かれていないと思っているから、そのままにしておいた。

    最近は今までの実からは想像できないくらい甘えん坊になっていたし、実が何か隠してるんだろうなとはずっと分かっていた。隠してる事がなんなのか、俺は分かっていたけど、信じてはいない。


    当主交代のお披露目会は明日。
    今日も実は部屋にいる。

    「悟?今日も仲良ししてもらっていい……?」

    恥ずかしそうに視線を逸らしながら顔を赤らめている実は物凄くかわいい。
    ダメなんて言えるわけもない。

    「いいよ。しよう」

    実はセックスのことを「仲良し」という。はっきり言葉にするのが恥ずかしいらしい。尋常じゃないくらいの恥ずかしがり屋な実らしい。

    抱き締めると実の匂いが心地いい。
    実は少し痩せた。触れば分かる。
    強く抱きしめると壊れてしまいそうで、昔から怖かった。

    「悟……大好き……」

    掠れた声に頭が痺れる。

    「いっぱい優しくして……」

    「これ以上優しくできないんですけど?」

    「もっと!」

    「えぇー???無理だってーーー」

    おどけて見せると実が笑ってくれる。

    「実、愛してるよ」

    「私も愛してる」

    ずっとずっと抱き合っていたい。


    終わるといつも他愛のない話をする。
    今日も実は俺の腕の中でリラックスしている。

    「実?」

    「……ん?」

    「初めてキスした日の事覚えてる?」

    「急になぁに?」

    実がクスクス笑う。

    「覚えてる?」

    「覚えてるよ!キスしたっていうか、悟にキスされたって言った方が正しいと思うけど」

    「あ、いや、うん。まぁそうかな?」

    「そうだよ!」

    「俺まだ小3くらいだったと思うんだけど。じいちゃんが亡くなった時」

    「うん。そうだね」

    「久しぶりの再会が嬉しすぎて泣きすぎた実は酷い顔をしてたわけよ」

    「えぇ……酷い顔……?」

    「でも凄くかわいくてさ。しゃくりあげて泣く実が凄くかわいくて。手を繋いでたらバリアがすーっと消えて、無防備でさ。とんでもなく儚くて。消えちゃうんじゃないかと思えて怖かったんだ」

    「悟が?怖かったの?」

    「うん。怖かった」

    「そんなふうには見えなかったけど」

    「そりゃあガキだけど男としてのプライドがありますので」

    「ふふふ」

    「初めてキスした時は感動した。柔らかくて気持ち良くて」

    「私は感動どころじゃなかったけどね」

    「もっと感動したのは始めて仲良しした時。物心ついた時からずっと実が特別で、大好きなのに実はかわいい弟くらいにしか思ってるくれてなくて、すげぇ悔しかった」

    「悔しいって」

    「悔しかったよ。俺が実と同い年くらいだったら、もっと早い段階で実は俺の事を男として見てくれたのにって何度も考えた。」

    「うん。そうかもしれない」

    「そうかもじゃなくてそうなの!」

    「あはは。そうだね」

    「ずっとずっと好きだった実が心も体も許してくれたっていう事に、凄く感動したんだ。あぁ、ようやくって」

    「……話してくれてありがとう。でも、どうしたの?急にそんな話し……」

    「いや、前に実も全部話してくれたなって思ってさ。俺も言っておこうと思って」

    「ありがとう」

    実が微笑む。

    「でもね、悟」

    「ん?」

    「私はできるだけ自分の身は自分で守れるように努力する。昨日はちょっとできなかったけど」

    「そんな事いわないでよ。俺はいつでも実を守るから」

    「分かってる。でも聞いて。いつでも悟の良心に従って。悟が正しいと思う事をするのに躊躇はしないで」

    実は穏やかな顔をしている。

    「私は今までたくさん悟に守ってもらって、助けてもらった。その強さを、もっとたくさんの人に使ってあげて」

    「なんでそんなこと言うの?」

    「……なんでだろうね?でもずっと考えてた事だよ。夜が明けて明日はお披露目会だし、当主としてやって欲しい事なのかもね」

    「俺は実と離れないよ?」

    「分かってる。私も傍にいるよ」


    微笑む実がとても綺麗だ________



    「悟……かっこいいよ!!」

    紋付き袴姿の俺を見て実の目が輝く。

    「実も綺麗だよ」

    実は親父が用意した控え目な柄の留袖姿だ。髪の毛も綺麗にセットされて簪の装飾が実が動く度に揺れている。

    「大丈夫?変じゃない?こんなにちゃんと着付けてもらったの始めてだから……」

    落ち着かない実を抱き締める。

    「大丈夫。変じゃないし凄く似合ってる」

    「……本当?ならいいんだけど」

    「その着物、私のお披露目の時に着た着物ね」

    「ママ!」

    実と母親が抱き合う。

    「悟。おめでとう。今日は正さんに呼ばれてのこのこやって来ました。しかと見届けますからね。」

    「来るの聞いてねぇよ」

    「これ、ママの着物なの?」

    「五条家に嫁ぐ女性だけが着れる着物よ」

    「えぇ?!それを今日着ていいの?!」

    「実のお披露目会も兼ねるのかもしれないわね?正さんのサプライズかしら?」

    「それも聞いてねぇ」

    当の親父は準備でバタバタしててあまり見かけない。

    「五条。呼ばれてないけど来てやったぞ」

    礼服姿の硝子がリビングに現れる。

    「確かに呼んでねぇな」

    「私がお呼びしました」

    桜子さんだ。五条家の紋付きの和装だ。
    代々大事に取ってあったんだろう。
    俺は桜子さんの耳元に顔を近づけて声を落とした。

    「硝子が必要な事態になるのか?」

    「……おそらく」

    「分かった。硝子、来てくれてありがとう。歓迎するよ」

    「おう」

    「硝子、ちょっといいか?」

    「もちろん」

    俺と硝子はみんなに声が聞こえないところでまで離れた。

    「桜子さんにどこまで聞いた?」

    「詳細までは聞いてない。多分お披露目会が始まる前か最中に良くない事がおこるかも、くらいだな。でも、私を呼ぶって事は怪我人を心配してるんだろう?」

    「硝子、傑が絡んでる」

    「ふぅん?現れる?」

    「いや、絡んでるけど首謀者じゃない。遠くで見て楽しんでるくらいだろう」

    「探す?」

    「……探さなくていい。多分見つからない」

    「だよね」

    「今日は実を頼む。どこかに隠しておきたいくらいだけど、どこにでも出現可能にしてくれる呪霊がいてこの間も家に侵入された」

    「いいよ。言いにくいけど改めて言っておく。死んだら生き返らす事はできない。忘れないで」

    「……分かってる。気合い入れる」

    「五条に気合いなんてあるの?」

    「たまにはね」

    「どんなヤツを警戒してればいい?」

    「身長は180ないくらいの中肉の男。髪は焦げ茶。標準語。年齢は20代後半。残念ながらいたって普通の風貌。左目が六眼」

    「六眼?」

    「桜子さんの片割れだな」

    「なるほど。当主交代に異議あり、ってとこか」

    「ご明察。プラス、俺並みの呪力量」

    「……そんなことってあるの?」

    「不思議なんだよ。何かあるのかも」

    「夏油が絡んでるなら呪具かもね。呪力を底上げできる呪具」

    「それが濃厚」

    「分かった。とりあえず実さんからは目を離さないでいるよ」

    「ありがとう」

    「あぁ、みんな来てくれてありがとう」

    俺と似たような紋付き袴の親父がリビングに入って来た。

    「お客さんも揃ったからそろそろいいかい?」

    「じゃあみんな行こうか」

    全員を促して大広間に移動する。

    「悟」

    実に呼び止められた。

    「どした?」

    実は黙って両腕を広げた。
    ハグして欲しい時の最強ポーズだ。
    絶対に断れない。
    でも、両親はいいとして、硝子も桜子さんもいるのに。

    俺は実を抱き締めた。

    「悟。愛してるわ」

    実の言葉に頭の中がグルグルする。
    視線を感じて桜子さんを見ると辛そうな顔をしている。

    「親父、やめよう」

    「は?」

    全員が声を揃える。

    「硝子、桜子さん、私服あるか?」

    「ねぇな」

    「わたくしは準備してございます」

    「実も着替えて。硝子に何か着るもの貸してやって」

    「悟?今さら無理だぞ」

    「親父、実と桜子さんは何か知ってて隠してる。実に危険が近づいてるなら絶対阻止する。悪いけどお客さんは急いで帰らせて」

    「正さん、悟の言うとおりにしましょう」

    親父は悩んでる。

    「親父、当主としての最後の仕事だ。下知を」

    「誰ぞ!」

    親父が声を上げると数人が現れた。

    「総員配置に付け!来賓を避難させる!」

    「親父、ありがとう」

    「いいんだ。もうお前たちに辛い思いはさせないよ。さ、みんな急いで着替えて」

    「……悟?」

    実が袖を掴む。

    「気付いてないと思ってた?」

    「ごめん……」

    「もう絶対にあんな思いはさせたくないし、したくない。千里眼に見えた未来にも抗ってみせる」

    「悟……」

    実の両目から涙が溢れる。

    「あぁっ!泣いた顔も好きだけど化粧が崩れるから!泣くな!」

    「うぅ……ごめんね……」

    「早く着替えて、またリビング集合!」

    実の部屋に硝子と桜子さんも着替えに行かせる。

    「悟、私たちも着替えよう」

    「分かった」





    俺は、2度と誰も失いたくないんだ_______


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