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    夏のある日

    #五夏
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    水着(ワンライ)「あっちい~」
    「言うな悟、余計暑くなる……」
     湿度を含んだ空気が、じっとりと肌にまとわりついて気持ちが悪い。なにもしなくても外にいるだけで汗が吹き出し、こめかみのあたりからつうっと汗が流れ落ちた。ジィジィと蝉が鳴く音があちこちから響き、視界がゆらりと揺らめくほど高温が立ちこめている。
     白と青のコントラストが強く、高く積み上がった雲の影が濃い。ぎらぎらとした日差しが容赦なくふたりを焼いていて、まごうことなく夏真っ盛りである。
     呪術高専は緑豊かな場所にある。はっきり言えば田舎で、コンクリートの照り返しはない代わりに日陰になるような建物もなく、太陽が直接ふたりに降り注ぐ。
     あまりの暑さにコンビニにアイス買いに行こうと言い出したのは悟で、いいねとそれに乗ったのは傑だ。暑い暑いと繰り返しながらなんとかコンビニまでたどり着き、それぞれアイスを買う。安いと悟が驚いていたソーダアイスは、この暑さでは格別の美味さだった。氷のしゃりしゃりとした感触はそれだけで清涼感があるし、ソーダ味のさっぱりとした甘さがいまはありがたい。値段のわりには大きくて食べ応えがあるし、茹だるような暑さにはぴったりだった。
     とはいえ、この日差しの下ではあっという間にアイスは溶けて手元までベタベタだし、食べ終わってしまえばまた灼熱地獄が待っている。一瞬下がった体感温度もあっという間に元通りだ。
    「暑い!死ぬ!」
    「だから言うなって」
     反射でそう答えた傑だが、愚痴のひとつも言いたくなる暑さなのはよくわかるので口を噤む。これでは涼んだのか余計に暑くなったのかわからない。いまにもアイスのようにだらりと溶けてしまいそうだった。
     それなのにエアコンの効きが悪い寮は蒸し風呂のような暑さだし、結局どこに行っても暑さからは逃げられない。せっかく急遽授業がなくなり任務もない、貴重な自由時間なのに、ふたりにはまったく居場所がなかった。
    「帰ったらシャワーでも浴びるか」
    「それくらいしかやることないもんな……あ、傑!いいこと思いついた!」
    「……なに?」
     さきほどまで溶けそうな顔をしていた悟が、ぱあっと表情を明るくして言う。こういうときの悟は二択だ。突拍子もないことを言うか、面倒なことを言うか。長くない付き合いだが、そのくらいはわかる。果たしてどちらだろうと、傑は少し面倒そうに返事をした。
    「海!行こう!」

     そういうわけで、悟とふたりで電車を乗り継ぎはるばる海までやってきた。緑と森に囲まれた高専から海まではそこそこの時間が掛かり、てっぺんにあったはずの太陽はすでに傾いている。気温も日差しもさきほどよりは弱まり、もはや海に来た理由はなんだったのかと疑問視してしまうが、それはそれ。普段の生活では縁がない海という場所に内心傑は高揚していた。靴を脱いで制服のズボンをぐるぐる巻き上げ、足元だけ海のなかに入っていく。
     ピークを過ぎほとんど人がいない海のなかに、ざぶざぶと入っていくのは心地良い。たとえ昼間の猛暑のせいで水が湯のように温かろうと、透明度ゼロの海だろうと。
     本来であればざぶんと水のなかに入ってしまいたいが、水着も持っていないしこのまま帰らなければならないことを考えれば制服を濡らすことも出来ない。いよいよ本格的に海に来た意味とは、と考えてしまうが、それでも傑は来てよかったなと思う。高専に入って出会い頭で喧嘩した悟とふたりで、特段用事もないのに海に行く日が来ようとは想像もしていなかった。こんな高慢な男とは絶対に仲良くなれない、と思った第一印象が見事にひっくり返っていた。
    「なに傑、気持ち悪い顔してっけど」
    「喧嘩なら買うよ」
    「本当に変な顔してただけで、喧嘩は売ってないよ」
     それを売っているというのでは、と傑は思うが、もはやそれくらいで本気で怒ったりしない。慣れとは恐ろしいものである。
     足元だけの海水浴をしながら、砂浜を当てもなく歩く。海に到着してあまり時間は経っていないが、あまり長居しては高専に戻れなくなる。そろそろ戻ろうと声を掛けると、悟はあからさまに口を曲げた。
    「えーまだいいじゃん。せっかく来たのに」
    「明日は朝から任務だろう。また来ればいい」
    「今度は水着も着てしっかり海満喫したい」
    「そのときはもっと綺麗な海がいいな」
    「沖縄とか?」
    「いいね」
     任務がある以上なかなか私用で遠出するのは難しいが、言うのはタダだ。止める人間のいない妄想は加速していく。
    「派手なアロハシャツとか着て」
    「水族館でも行くか」
    「ナマコ触ったり」
     思わず悟を顔を見合わせて、どちらともなく吹き出した。ふたりの笑い声と波の音が重なり合う。
    「はー笑った。帰るか」
    「そうだね」
    「あ、待って傑アイスキャンディー買う」
    「……昼間アイス食べただろう」
     そんな日が来るかどうかはわからないが、来たらいいなと傑は純粋に思う。少しの名残惜しさを残して、潮のかおりを感じながらふたりは海を後にした。
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    DONE夏のある日
    水着(ワンライ)「あっちい~」
    「言うな悟、余計暑くなる……」
     湿度を含んだ空気が、じっとりと肌にまとわりついて気持ちが悪い。なにもしなくても外にいるだけで汗が吹き出し、こめかみのあたりからつうっと汗が流れ落ちた。ジィジィと蝉が鳴く音があちこちから響き、視界がゆらりと揺らめくほど高温が立ちこめている。
     白と青のコントラストが強く、高く積み上がった雲の影が濃い。ぎらぎらとした日差しが容赦なくふたりを焼いていて、まごうことなく夏真っ盛りである。
     呪術高専は緑豊かな場所にある。はっきり言えば田舎で、コンクリートの照り返しはない代わりに日陰になるような建物もなく、太陽が直接ふたりに降り注ぐ。
     あまりの暑さにコンビニにアイス買いに行こうと言い出したのは悟で、いいねとそれに乗ったのは傑だ。暑い暑いと繰り返しながらなんとかコンビニまでたどり着き、それぞれアイスを買う。安いと悟が驚いていたソーダアイスは、この暑さでは格別の美味さだった。氷のしゃりしゃりとした感触はそれだけで清涼感があるし、ソーダ味のさっぱりとした甘さがいまはありがたい。値段のわりには大きくて食べ応えがあるし、茹だるような暑さにはぴったりだった。
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