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    mizuki_410

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    mizuki_410

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    支部から移植してきたロナドラ小説です。
    94ハマって一番最初に書いた小説でした

    #ロナドラ
    Rona x Dra

    【ロナドラ】Inside and OutsideInside and Outside


    俺は今日、警戒令を受けてギルドの仲間とシンヨコのパトロールに出ていた筈だった。
    確かサテツと一緒にいた筈だ。
    それなのに、ふと気が付くと俺は一人で瓦礫の山の前に立っていた。
    ここは何処だ?なんとなく見覚えのある景色だけれど。
    記憶を辿りながら見渡すと、徐々に辺りが朝焼けに染まっていく。
    街を歩いていた時はまだ日が暮れてすぐだったはずだ。
    何らかの催眠による幻覚だろうか。
    それにしても足元の荒れた地面の感触や焦げたような臭いが妙にリアルで胸が騒ぐ。
    とにかく情報を集めて状況を整理しようと足を踏み出すと、朝日に照らされた景色の中で風に吹かれて何かがはためいているのを見つけそれに近づく。
    それは見覚えのあるマントだった。
    いつもアイツが身に付けていた黒いマントが塵の山に埋もれるようにそこにあった。

    「……ドラ公?」

    無意識に呟いた途端に全身の血が引いていくのを感じた。
    こんな時間にこんなところにアイツが居られる筈がない。
    もし本当にこの塵がアイツのものなら。
    慌てて駆け寄るとマントの中に何か塵とは別のものが見えた。
    それが何か頭で考えるより早く口から零れる。

    「ジョン……?」

    塵の山に横たわるジョンはいつものように鳴き声を上げることもなく、微動だにしない。

    「ドラ公……?ジョン……?なぁ、なんで……」

    太陽に照らされた瓦礫の山と、ドラルクの塵と、動かないジョン。
    この状況、見覚えのある景色。
    これは俺が初めてドラルクの城に訪れた日、爆発した城から脱出した直後の光景に似ていた。
    あれから何日経ったのだろうか。
    あの時あの場所にジョンは居なかったけれど、もしあのままアイツが陽の下に置き去りにされていたならきっと、ジョンは主人を探しにきただろう。
    そしてその小さな身体で必死に主人だった塵に縋っただろう。
    家にきた日、ドラルクは確かあのまま陽の下にいたなら危なかったと言った。
    そしてアイツと過ごす中で使い魔が主人と寿命を共有していることも知った。
    もし、これが本当にジョンとドラルクなら。

    「ジョン?ドラ公……?」

    手を伸ばし横たわるジョンに触れる。
    いつも温かいジョンの身体は冷たかった。
    塵の山にも触れてみる。
    いつもなら塵でもうるさく喚いてくるのに、今聞こえるのは手から滑り落ちる砂が擦れる小さな音だけ。

    「なぁ、ドラ公、またふざけてんのか……?」

    返事はない。
    その時一陣の風が吹いた。
    ドラルクだった筈の塵が風に舞い、霧散していく。

    「っドラルク!」

    必死に手を伸ばし掴んだのはほんの僅かな塵の残骸だけ。
    理屈ではなく自分の中にあるもう一つの記憶が教える。
    これは、あったかもしれない別の時間軸の世界だ。
    この世界ではあの日、朝日を浴びたこいつはそのまま此処に残され続けた。
    誰にも掬い上げられることなく、本当に命が尽きるまで朝日に焼かれて。
    ドラルクはジョンやメビヤツと一緒に俺の事務所に訪れる事はなく、コンビを組むこともなく、二度と俺の前に現れないのだろう。
    もう思い出せないくらいに、鮮やかな目まぐるしい日々に塗り潰された筈のかつての日常は今も変わらずそこにあって、扉を開ければあの事務所は静寂に包まれて俺を待っている。
    家に帰るのが怖い、でももしかしたら何かの悪戯かもしれない。
    だってアイツもジョンも面白い事のためになら変な悪ふざけだってやる。
    一度同じように塵のまま戻らない悪戯に騙されたことだってある。
    だから今回もきっと、きっと。
    俺は冷たいアルマジロの身体と拳の中の僅かな塵を抱えてその場を後にした。




    そこからどうやって帰ったのかの記憶は曖昧だった。
    早く確かめたい。
    けれど現実を知るのが怖い。
    矛盾する二つの感情に苛まれながら足を動かして、いつの間にか見慣れた扉の前に立っていた。
    取っ手に掛けた手が震える。
    意を決して扉を開けると、俺を迎えたのは冷たい空気と薄暗い無音の事務所だった。
    毎日脱いだ帽子を預かってくれたメビヤツもないし、俺を迎える声もない。

    「ドラ公……?ジョン……?」

    震える足を踏み出して事務所に入り、住居にしているもう1つの扉も開けた。
    耳が痛いほどに静かな部屋には、何もなかった。
    ソファベッドの隣を陣取る棺桶も、アイツが持ち込んだゲーム機も、小さな赤い金魚がいた筈の水槽も、ジョンの寝床も。
    俺達が一緒に暮らしていた痕跡が、1つ残らず失くなっていた。
    違う。
    最初から無かったんだ。
    俺達が一緒に暮らしていた事実そのものがなかったんだ。
    だってあの日、ドラルクは死んだのだから。

    『おかえり、ロナルドくん。ご飯食べるだろ?』
    『ヌヌヌヌ、ヌヌヌヌヌン』

    俺に残ったのは胸に穴が空いたような喪失感と、冷たいアルマジロの亡骸と、握り締めていた掌に僅かに残る塵だけだった。

    「ドラ公、ジョン、みんな……っ、返事、しろよぉ……っ」

    その声に応えてくれる声はもう、二度と―――――








    「―――――ドくん、ロナルドくん!」

    「っ!」

    気が付くとそこは見慣れた自分の家だった。
    見慣れた、見渡す限り勝手に持ち込まれた物に占拠された賑やかな部屋だった。

    「目が覚めたか……全く、君もよくよく妙な催眠に引っ掛かるな」
    「ドラ、ルク……?催眠……?」
    「今とは違う未来を見せるという催眠だそうだよ。過去にあったどこかで違う分岐だった場合の未来を見せてその隙に血を吸うとか」
    「じゃあ俺が見たあれは……」
    「君か、或いは周りの誰かが何か違う行動をした場合に有り得た未来ということだ。なんだ?別の世界で良い思いでもしたのかね?」

    揶揄うように笑うドラルクと心配そうなジョンが俺の顔を覗き込む。
    良い思い?そんなわけあるか。
    お前達がいない世界なんて。

    「ドラ公……」
    「どうした若造。いつもの威勢がないようだ が?!」
    「どらこう……じょん……ぅ、生きてる……ぅぅぅ……っ」
    「!? どうし、どうした?何を見たんだ君は。とにかく落ち着け、全部夢だから……ほらしっかりしろ」
    「うぅぅぅぅぅ……っ」
    「ああもう、ほら泣くな。ちゃんといるだろ?」

    頬を掴まれ真っ直ぐに見詰められる。
    涙を拭うように目元をその細い指が撫でる。
    感触、視覚、聴覚、嗅覚、その全てがドラルクが確かに此処に居ることを証明してくれていた。

    「ぅん……っ」

    思わずドラルクを抱き締めると一瞬だけ身体を震わせた。
    耳元でサラサラと小さな音がしたけれど、腕の中のドラルクは人の形を保ったままそっと俺の背中に腕を回した。

    「なんだ、怖い夢でも見てたのかな?五歳児ルド君?」
    「うぅぅぅ~~~っ」

    見ていた幻を整理できない言葉でぽつりぽつりと語る度に、ドラルクは肩越しに相づちを打つ。
    ドラルクの城の跡地で見た光景、瓦礫の山の前で冷たくなったジョンと言葉なく空に消えたドラルクだった筈の塵と、返事のない事務所、誰も居ない家、独り残された自分。
    一通り吐き出し終わると、ドラルクは静かに俺の頭を撫でた。

    「それは夢だよ、ロナルド君。全部全部ただの夢。君は今独りじゃないし私達も生きている」

    子供に言い聞かせるように紡がれる言葉が鼓膜を震わせる。
    夢の中で返らない返事を待っていたのと同じ場所で。

    「でも……あのまま現実になったかもしれなかったんだ……」
    「起こらなかった事を憂いて心を砕くなんて時間が勿体ないじゃないか」
    「お前……自分のことだぞ……」
    「今生きているのが現実なんだからそれでいいんだよ。そんなことよりロナ戦のネタにでも頭を使いたまえ。また締め切りぎりぎりまで引っ張るつもりか?」

    つい手を出してしまいドラルクは塵と化し、元の姿に戻りながら笑った。

    「やっといつもの君らしくなったじゃないか」

    いつも通りのやり取りに胸が熱くなる。
    何か一つボタンを掛け違えていたら、今この関係はなかったのだと知ったから。
    このすぐ裏側にこいつらが消えた世界があったなんて。

    「キックボードのガキに感謝しねぇと……」
    「なんて?」

    なんでもないと返すと、ドラルクはそれ以上聞かず空気を切り替えるように微笑んだ。

    「さて、お腹空いてるだろう?夜食にしようか。君は早く着替えておいで」

    食事の話題を出され、思い出したようなに腹が鳴り出す。
    いつものように五歳児だのと揶揄しながらエプロンをつける姿を思わず目で追った。
    いつもの光景だ。

    「腕の人とかギルドの皆にもお礼言っておきなよ?ここまで運んでくれたし心配してたんだから」
    「おう」

    キッチンに引っ込んだドラルクはあっ、と思い出したような声を上げると再びこちらに顔を向けた。

    「おかえり、ロナルドくん」
    「ヌヌヌヌ」
    「っ、……ただいまっ」

    ―――――もう二度と聞けないと思った言葉が今も、変わらずにここにあった。


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