限界オタク特級呪霊-----------------------------
記録___20xx年9月
西東京市
市内上空
特級仮想怨霊(名称未定)
その呪胎を非術師数名の目視で確認
緊急事態のため
付近待機中の術師4名が派遣され
内3名 死亡
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「ってのが次憂太達に頼みたい任務なんだ~」
補助監督の報告書を僕に渡しながらいつも通りおちゃらけた様子で頼んでくる
ちなみに報告書を受け取った瞬間隣に居た狗巻くんがぴょんぴょん跳ねて覗き込もうとしてくる
そしてそんな五条先生の様子に何故か僕達よりも五条先生に慣れているはずの七海さんが驚いた様に先生に声をかける
「ちょっと待ってください、五条さん。これあなた宛ての任務ですよ?」
「うん、でも僕今から沖縄の方まで出張だから」
「だとしてもですよ!」
「あっ憂太~生き残った1人の術師って七海の事だから詳しい事は七海に聞いてね!じゃあお土産は期待しないでね!」
それだけ言うとまだ何か言いたげにしている七海さんを置いて帰っていく先生
そんな先生に諦めがついたのか溜息をつきながら七海さんがこちらを向く
「五条さんが居ない今、あの呪霊を祓えるのは乙骨くんくらいでしょうね。詳しい話をしますので移動しましょう。五条先生が乙骨くん達と言ったので狗巻くんも着いてきてください」
「しゃけ!すじこ?」
「大丈夫だったので今ここにいます」
七海さんに言われて気付く
ここ…普通に校舎の廊下じゃん
五条先生こんな所でそんな重要な話しないでよ…
うーん、この感じだと僕と狗巻くんの2人で行くのかな?
というか七海さんも狗巻くんが何言ってるか分かってるんだ
僕結構理解するのに時間かかったのにな…
暫くして高専内の応接室に到着して直ぐに任務の話になる
「まず特級呪霊についてですが…
オタクの呪いの成れの果てです」
「「…………は?」」
あまりに予想外の七海さんのセリフに言葉を無くす
狗巻くんなんて慌てて口抑えちゃってるよ
「七海さんからそんな言葉聞きたくなかったな…」
「聞きたくなくても聞いてください。先程伝えたようにあの呪霊は間違いなくオタクの負の感情から生まれたものです」
「そんな淡々と言わないで下さい!!」
「しゃけしゃけ!」
「なぜならその特級は独自の言語能力を身につけており意思疎通はあまり出来ませんでしたが話す内容は理解出来ました。その呪霊は“推しの死”“解釈違い”“爆死”などと呟いていましたので」
推しの死…??何それ?
解釈違い…?誰と!?
爆死…?どっか爆発したの!?
それよりも…なんで…どうして
「七海さんそんなに詳しいんですか!?」
「たーかーなー!」
「社会人には色々な人がいるんですよ」
とどこか遠くを見つめる七海さん
サラリーマン時代に何があったんだ?
「それからこの呪霊は攻撃する人を選んでいる様に感じられました」
「明太子?」
「はい、その呪霊が呟いている事が俗に言うオタク用語と呼ばれる物と理解した1人の術師が攻撃をしつつ意思疎通を試みました。私はその時は少し離れたところにおり途中からしか会話は聞こえませんでしたが彼女が呪霊に向かって推しの呪術師は狗巻くんと言った瞬間にその呪霊に喉を潰されて殺されました。狗巻くん何か関係してますか?」
「おかかぁ!」
「狗巻くん関連…?他に亡くなった人は…」
「その呪霊が残りの呪術師にも聞いてきました。推しは?好きなのは?…と。」
「七海さん!それめちゃくちゃ意思疎通取れてません?」
僕がちょいちょいつっこんでも七海さんは聞こえていないかのようにそのまま話を続けていく
「1人の男性の術師は五条さんの名前を出したあと目を潰されて殺されました。もう1人の女性の術師は乙骨くんの名前を出して遥か彼方へ飛ばされ殺されました。乙骨くんまた女性を誑しこんだんですか?」
「失礼ですね、僕のは純愛です」
「ツナマヨー」
「私ですか?呪術師なんてクソですと言ったら領域外に飛ばされました。なのでこの呪霊の詳しい術式はまだ分かっていません」
うーん、結局どんな呪霊なのかは分からないのか
でも無策で特級に挑むのは危ないような…
「ツナツナ!」
「えっオタク用語を覚えてから行く?ってそれは意味あるの…?」
「では移動しながら覚えますか?」
「しゃけっ!」
「覚えません!作戦考えましょう!七海さんもしかして疲れてます!?」
「時間外労働5日目です。苦情は五条さんにお願いします」
あぁ、だからなんか顔が疲れてるしさっきから発言が可笑しかったのか
「冗談はさておきでは移動しましょう」
「しゃけ!おかか…」
「えっ狗巻くん冗談じゃなかったの…?」
**
「はい、では応援する人が被ることを」
「すじこ!」
「えっと同担?」
「お二人共正解です。では次は正気度、精神力を意味するネットスラングは?」
「ツナツナ!」
「SAN値!ってこれオタク用語なんですか?」
「知りませんよ、調べた結果を言ってるだけなので。ちなみに狗巻くんは違います」
「えっなんて言ったの?」
「すっじこ~♪」
「内緒か~」
「というかこれいつまでやるんですか?」
「えっ車の中入って最初にやり始めた七海さんなのに」
「明太子!!」
本当に今日の七海さん大丈夫かな?
本格的に壊れてない?
あと狗巻くんはなんて言ったんだ…?
「みなさん、お楽しみのところ申し訳ございませんが到着しました。特級呪霊はこの廃ビルに潜んでいるようです」
「ありがとうございます!」
「しゃけ!」
「ありがとうございます。では帳の方よろしくお願いします」
「は、はい!お気を付けて」
『闇より出でて闇より黒くその穢れを禊ぎ祓え』
帳が降りてすぐ廃ビルの上から呪いの気配が更に大きく感じられた
「これは上まで行かないと行けないようですね」
「みたいですね」
「乙骨くんは本命に辿り着くまでは余りやり過ぎないように」
これは心配してもらってるのかな…?
「本命に辿り着く前に廃ビルが壊れたら面倒ですので」
「しゃけ」
心配は心配でもそっちか~
しかも狗巻くんも同意しちゃうのか
「…うわっ凄い呪霊の数……」
どれも4級程度良くて3級程度だが如何せん数が多い
「狗巻くん行けますか?」
「しゃけっ………爆 ぜ ろ」
その瞬間数百は居たであろう小さな呪霊達が爆ぜて消えていく
「ありがとうございます、では進みましょう」
「じゃけ!」
弱い呪霊の群れだったが数が多かったのか狗巻くんの声が少し掠れる
「待って、狗巻くん」
「高菜?」
止まった狗巻くんに急いで駆け寄って直ぐに反転術式行う
「じゃあ行こっか!」
そこから最上階までは数体の呪霊しか居なかったため
僕は廃ビル破壊を防ぐため、狗巻くんは温存のために戦闘には参加せず全て七海さんが祓ってくれた
最上階には少し多めの呪霊が居たが七海さんの言っていた特級呪霊は居ない
「屋上ですかね」
「恐らくそうでしょうね。では向かいましょうか」
「しゃけー」
最上階の奥にあった古びた扉を無理やり開けて屋上に出るとそこには里香ちゃんより一回りくらい大きな呪霊がいた
「あれです、あれが例の特級呪霊です」
七海さんの声に狗巻くんが首元のファスナーを何時もの様に降ろし構え僕も里香ちゃんを呼ぶ
「しゃけ いくら 明太子」
「…来い、里香」
「ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙お、おし!おしがァァァ」
「やっぱり貴方達何かしてますよね!?」
「おかか!」
「してないです!」
この疲れて暴走してる七海さんのせいでいまいち呪霊に集中が出来ない
あとなんでこの呪霊は僕と狗巻くんが前に出たら奇声を上げたんだ?
それにおしって何!?
やっぱり呪霊の事なんて分かんない!!
僕が戸惑っている間に呪霊が少しずつ動き出す
「動 く な」
すると相手が格上と分かっているため強い呪言を使えないのか咄嗟に動きだけでもと狗巻くんが止める
しかしそれだけで咳き込む狗巻くん
「オタクの呪いは下手すると大地の呪いより強大です。気を付けてくださいね」
「七海さんそれ先に言ってくれないですか!てかなんでそんなに詳しいんですか!!!」
「の、の、のどがァァァァァこえがかすれちゃ……それもいいけどぉぉぉぉ」
「いいの!?ってかこの呪霊本当になんなんですか!!」
気になったが相手は特級
狗巻くんの呪言も直ぐに切れて動き出すと思い構えるがいつまで経っても攻撃してこない
それどころか悶えてる………………
悶えてる!?!?
「なお、、、なおして!なおしてなおして!」
「なんで!?狗巻くんの喉は治すけど!!なんで!?」
「こんぶ〜」
「え?里香ちゃんの話し方に似てる?似てないよ?里香ちゃんは里香ちゃんだもん」
「すじこ…」
「誑してない、純愛」
「君たちもだいぶ余裕ですよね?」
あっ特級呪霊の前に居たの忘れてた
狗巻くんの喉を治して直ぐに特級呪霊を見る
「うん、なんでペンライト持ってるの!?どこから出した??」
「じゅ、じゅごんとうといィィィィィィ~~~~~~」
「止 ま れ」
意味のわからない事を言っている呪霊に向かって狗巻くんが呪言を放つ
「い、狗巻くん?」
「ツナマヨっ!」
「声が枯れてませんね」
「七海さんさっき一瞬居なくなりましたよね…」
「五条さんに連絡していました。状況説明をしたら楽しそうだから向かうだそうです」
「呪言ありがとうございます」
「この呪霊急に饒舌になった!?」
「いくら!いくら!」
「狗巻くんちょっと楽しんでる…?」
「もういいんじゃないんですか?」
「七海さん適当にならないで!」
ちょっと五条先生!
普段時間外労働しない人を5日間連続で働かせないで!
もう疲れきっちゃって壁に凭れて休んじゃってるんですけど
そんな七海さんは一旦放っておいて狗巻くんの方を見ると凄くいい顔をして首元のファスナーを完全に閉めてた
うん、なんで??
そしてそのままニヤリと笑って(目元しか見えてないけど)
ファスナーに手をかけて降ろしかける
呪霊も呪言が来ると思ったのか嬉しそうに(なんで??)呪言に備える
「ツ ナ マ ヨ」
「なんで!?」
「かぁぁぁわぁぁぁいぃぃぃいぃぃぃ」
呪言でもないツナマヨと言う一言で今までで1番ダメージを受けたように悶え始める
ちょっと…いや大分気持ち悪い
「明太子ー!」
「狗巻くん遊ばないで!」
僕が狗巻くんの方を向いた瞬間に呪霊が動く
僕は直ぐに刀に手をかけて狗巻くんも臨戦態勢に入る
七海さんも壁から体を起こす
そして呪霊は僕を指さすと
「おこ、、おこって、、おこっておこって」
「はい??」
「高菜?」
「あっこれまだ休憩時間ですか」
呪霊の発した言葉により僕は思わず刀から手を離してしまうし
狗巻くんもポカンと固まるし七海さんに限ってはまた休憩を始める
うん、せめて戦いに参加する意欲だけでも見せてください!!
「おこ、らない?あれ、、けす?」
そう言って呪霊が指さしたのは人が多く行き交う市内
そして偶然かもしれないがその方向は高専の方角でもあった
今頃高専には真希さんとパンダ君が授業を受けているはずだ
「……そんな事、させるわけないだろ。来い、里香!あわせろっ!!」
「憂太憂太っあ"」
「ありがとうございます」
「なんで喜ぶのかなァ!!」
疑問に思いながらもこの呪霊は野放しに出来ないと思い攻撃を仕掛ける
「動 く な」
後から狗巻くんが呪言で呪霊の動きを一瞬止める
その瞬間にまず右腕を斬る
それと同時に里香ちゃんが左腕を落とす
「固いっ!やっぱり巫山戯てても特級か」
「しゃけしゃけ」
「うん、やっぱり声枯れないみたいだね」
「どうしようか、あんまり里香ちゃんと一緒にやり過ぎるとこのビルがもたないし…」
「いくら…」
「うん、反動がないけど多分死ねとか言う直接的な呪言は効かないよね。」
「もしかしたら直接的な呪言も効くかもしれませんがそれを試すにはリスクが大き過ぎます」
「いきなり復帰しますね…」
「すじこ!」
「理由ですか?簡単ですよ、君たち2人があの呪霊の推しなので君たちは恐らく傷付けないでしょう」
「なんでそんな事分かるんですか……」
本当に誰かこの呪霊をどうこう言う前に七海さんに休みを上げて
この人なんかもう色々壊れちゃってますよ…
「お疲れサマンサ~、愉快な呪霊はまだいるみたいだね~」
「「五条さん/先生」」
「七海の言ってた通り面白い呪霊だね。ところでなんでみんなわざわざこいつの領域内に入ってるの?」
「「「えっ」」」
「あれ?気付いてなかった?憂太と棘はまぁいいとして七海も?大丈夫、疲れてる?」
「ええ、疲れてますよ」
「こんぶ!!」
「なんで分かるかって?だって僕最強だからって棘蹴らないで!」
もし五条先生の言う通りここがあの呪霊の領域内だとしたらいつ入れられた?
それと領域内ってことは僕と里香ちゃんが思いっきり動いてもここは平気って事なのか?
そんな僕の考えを読み取った様な表情で五条先生が僕を見たあとニヤリと笑う
ここで力尽きた