201話手鏡ネタ / 鯉月(鯉→→→→→←月) 狙撃によって砕かれた手鏡の欠片をひとつ、億劫そうに屈んでつまみ上げた月島に、背後から鯉登が尋ねた。
「月島、さっきの顔はなんだ」
「さっきの……?」
月島は一瞬思い出そうとして斜め上に視線をやった。手鏡を貸せと言われた時のことだろうか、と思いながら立ち上がる。
「申し訳ありません、私は手鏡なんて持ち歩きませんので」
「違う」
聞きたいことが噛み合わないことに、鯉登が若干の苛立ちを見せた。
「汚い顔だと言った時だ。妙な目をしただろう」
「妙な目、ですか」
鯉登が「汚い顔しおって」と怒鳴った時のことである。
腹を立てるでもなく、恐縮するでもなく、月島の顔にほんの一瞬、何か奇妙な感情が浮かんだのを鯉登は見逃さなかった。懐かしむような、憫笑するような、それは説明し難い表情だった。
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