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    カンパ

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    カンパ

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    お題箱より
    ありがとうございました!

    #とらふゆ
    #たいみつ

    とらふゆから見たたいみつ「そうですよ。三ツ谷くんの交際相手も男性です。言ってませんでしたっけ?」
     話の流れはこうだ。まず、全国の自治体で同性パートナーシップ制度の整備が進んでいるというニュースを月曜夕方に千冬と一緒に見た(ペットショップは月曜定休だ)。ちなみに俺は、結婚や、それらに近しい意味合いを持つ制度にたいして良い印象を持っていなかったが、それらの制度に救われる人々もいるだろうし、それらの制度にときめきを覚える人々がいることも知っていた。なお、ときめき、なんて柄にもない言葉がポンと頭に浮かんだのは、何をどう考えても千冬に無理矢理読まされた少女漫画の影響でしかない。
     さて、話を元に戻すと、月曜夕方の情報番組で流れた同棲パートナーシップ制度のニュースに、千冬はほんのちょっとうっとりした顔をして、しかしすぐにかぶりを振ってから「三ツ谷くんたちもパートナーシップのやつやってたりすんのかなあ」と漏らしたのであった。ここでようやく冒頭の台詞に戻るというわけ。
    「三ツ谷が男と付き合ってる? そんなん聞いたこともないけど」
    「あー、三ツ谷くん、付き合ってること周りに言ってないみたいだから」
    「じゃあなんて千冬が知ってんだよ」
    「一虎くんと付き合ってることを東卍メンバーに報告した日の夜に三ツ谷くんから個別に連絡があったんすよ。実はオレの交際相手も男なんだよー、みたいな」
     世間が認める認めないは別として、俺たちはまごうことなきマイノリティだ。もしかしたら三ツ谷は、自分と近しい人間が、自分と同じように同性の人間と付き合っていることに親近感を覚えたのかもしれない。それで個別に連絡なんてしてきたのかも。しかしそれにしても、三ツ谷と千冬が個別に連絡を取り合う仲だなんて、変な感じ。
    「結構いろいろ相談に乗ってもらったんですよ。男とのセックスの仕方なんて右も左も分からないから、準備だったりケツ穴のケアだったり。オレとあんたの肉体関係は、オレの努力と三ツ谷くんの助言の上に成り立っているんです」
     なんだそりゃ。三ツ谷に、俺の千冬にケツの洗い方を教えてくれてありがとうとでも言えばいいってのか。しかし思い返せば、初めての行為に及んだ時の千冬は男同士のセックスについてやたら詳しかったように思う。俺との行為に向けて自分で色々調べてくれたんだろうとは思っていたが、その裏に古い友人の影があったとは。なんか、なんつーか、ちょっと癪。
    「つーか、なんで三ツ谷は男と付き合ってること隠してるわけ? あいつの性格的に堂々と言いふらしそうなもんなのに」
    「あー、相手がまあまあな有名人だからじゃないかなあ」
     まあまあな有名人? 有名人と言って真っ先に想像するのはやっぱりテレビに出ているような芸能人だ。アイドル、芸人、俳優、ニュースキャスター。しかし千冬曰く、そう言った類の有名人ではないらしい。じゃあオリンピックの金メダル選手とか? それとも有名な料理人、パティシエとか。しかしこれらも違うようだ。なかなか正解を出してくれない千冬に苛々がつのる。
    「三ツ谷くん曰く、その人は猫ちゃんみたいな人」
     まさかの猫ちゃんときた。ペットショップに並ぶ愛らしい猫たちの姿を思い浮かべる。スコティッシュフォールド、マンチカン、アメリカンショートヘア、ロシアンブルー。三ツ谷の猫ちゃんとはどんな子だろう。猫って表現してるあたり、三ツ谷がタチなんだろうな。
    「三ツ谷の彼氏は可愛い系なのかー」
    「いや、可愛いっていうかオレ的には猫って言うより……あ、三ツ谷くんだ」
     千冬のスマホ画面が煌々と輝く。どうやら噂の張本人三ツ谷から着信があったようだ。部屋の隅に場所を移した千冬が電話越しに三ツ谷と会話している。時折り千冬の笑い声と、電話口から漏れ聞こえてくる三ツ谷の爆笑が部屋に響いた。三ツ谷は昔から声がでかい。
    「一虎くん、今から三ツ谷くんちに行きましょうか」
     電話を終えた千冬が突然そんなことを言うので理由を問えば「ふるさと納税でもらった蟹が捌ききれないのでいくらかもらってほしい、もし暇ならうちで蟹鍋してもいいけど」と三ツ谷から連絡があったとのことだった。蟹鍋。めちゃくちゃ食べたい。なんせ三ツ谷は料理が上手。だけど明日も仕事だし、今から出かけるのも面倒だし、こたつはあったかいし、と決断を渋っていた俺に千冬が追撃の一言。
    「三ツ谷くんの彼氏さんもいるみたいですよ」



     興味本位だ。三ツ谷の可愛い猫ちゃんがどんなやつか見てみたかった。あと千冬にケツの洗い方を教えてくれた礼を伝えようかな、と。
     そんな俺のささやかな計画は三ツ谷の家を見た瞬間に吹っ飛んでしまった。なんだ、この高級マンションは。駆け出しデザイナーの三ツ谷が家賃を払えるレベルの物件ではない。エントランスには豪華なシャンデリアに、意味がわからんくらいにでかい花瓶と高そうな花。床は当たり前に大理石だし、警備員がところどころに立っていて、エレベーターですれ違った人間はついさっきテレビに出ていたタレントの女だ。
     玄関扉から「いらっしゃい」なんて言って出てきた三ツ谷は古臭い年季の入ったエプロンを付けていて、どこからどう見てもこの高級マンションに似つかわしくない。千冬は何度かこの家に来たことがあるのか、勝手知ったる顔でさっさと部屋の中に入ってしまった。後を追うようにして、玄関を上がり、いつもは脱ぎ捨てたままの靴を丁寧に揃えてみたりする。廊下の突き当たりの壁には、ピカソだかゴッホだかわからないが見るからに高そうな絵が飾られていて思わず後ずさった。何で金持ちってこういうでかい絵を飾りたがるの? つーか三ツ谷って金持ちだったっけ? いつも金がない金がないって言ってるイメージしかない。
    「同棲してんですよ、彼氏さんと」
     ダイニングチェアに腰掛けた千冬が俺を手招きしながら小さく呟いた。彼氏さんとは、アイドルや芸人や俳優やニュースキャスターではない有名人だという三ツ谷の猫ちゃんのことか。有名人なんて言ってもピンキリだと思うが、相当に稼ぎがいいらしい。このダイニングテーブルだってどうせものすごく高いやつだ。無駄に緊張する。
    「一虎が静かなの珍しいな」
     高級テーブルの真ん中に蟹鍋を置いた三ツ谷が笑う。そりゃそうだろ、こちとらさっきから驚きの連続なんだ。そもそもお前が男と付き合ってるってのもさっき知ったし、そいつが有名人だとか、三ツ谷が高級マンションに住んでるだとか、めちゃくちゃ美味そうな蟹鍋だとか、情報過多だっつーの。ああ、腹が減った。重なる驚きより空腹の方が勝る。
     その時だ。扉を隔てた廊下の向こう側、玄関扉が開く音が聞こえた。「あ、大寿くん帰ってきたみたい」三ツ谷がそう言って玄関に向かって駆けて行く。たいじゅ。何とも珍しい名前だな。そうぼやいたら「あんたもまあまあ珍しい名前でしょ」と千冬に小突かれた。そうかな、カズトラって珍しいかな。大嫌いだった名前。でも大好きな人たちに呼ばれるうちに、変な愛着がついてしまった名前。
    「一虎は初めましてだよね。こちら柴大寿くん。俺の彼氏で〜す」
     三ツ谷の声がした方へ顔を上げる。そしてぎょっとした。そこには顔も、体も、手も足も、そして態度もでかい男が三ツ谷の背後に立っていた。見るからに高そうなスーツ、バッグ、整えられたオールバックの髪。ドラケンよりでかくないか? 二メートルはあるぞ。いや、ていうか、おい千冬、テメェ。
    「何が猫ちゃんだこのやろう! どっちかってーとライオンじゃねえか!」
     振り向き様にそう叫べば、ダイニングチェアに腰掛けた千冬がテーブルに顔を突っ伏してヒィヒィ言いながら笑っているのが見えた。三ツ谷も腹を抱えて笑っている。「たいじゅくんライオンだって、アハアハアハアハ」柴大寿に尻を蹴られている。
    「アハハ、えっとねぇ、大寿くんは元黒龍の総長で」
    「黒龍?!」
    「昔オレと殴り合いの喧嘩して友達になって」
    「いろいろすっ飛ばしすぎじゃね?」
    「なんやかんやあって飲食店のオーナーになって」
    「説明すんの飽きてんじゃねぇよ」
    「今はオレの可愛い猫ちゃんってわけ」
     ねこちゃん。俺の知る猫ちゃんとはアメリカンショートヘアとかそのへんの、柔らかくて可愛くて食べちゃいたくなるくらいの、つまりはなんかそういう生き物だ。でも目の前のこいつはどう考えても猫ちゃんには見えない。食べちゃいたいどころか食われそうで怖い。さっきからめちゃくちゃ睨んでくるし。
    「……エッ、三ツ谷こいつにちんこ突っ込んでんの?」
    「違う違うオレが突っ込まれるほう。ちなみに突っ込むのもやぶさかではない」
    「オイ三ツ谷、さっきから何だこいつは」
     ようやく口を開いた三ツ谷の猫ちゃんこと柴大寿の声は見た目通りの低さでドスが効いている。普通に怖ぇよ。黒龍の元総長ってのも納得がいく。
    「こいつは一虎。オレの古い友人で千冬の可愛い猫ちゃん」
     千冬はいまだに机に突っ伏して笑っている。椅子を蹴り飛ばしてしまいたいが見るからに高そうな椅子にそんなことできるわけもない。ペットショップ店員は薄給。
    「オマエがカズトラか」
     俺は柴大寿のこと何にも知らないっていうのに、こいつは俺のことを知っているらしい。ニヤリと不敵に上げられた口角と片目だけ細められたその顔はどこからどう見ても悪の大魔王だ。三ツ谷、まじでなんでこいつと付き合ってんの? 見た目だけじゃスタイルがめちゃくちゃいいところしか良い部分が見つけられねぇよ。
    「ほら、蟹鍋できたからさっさと座って〜」
     ひとしきり笑い終えたらしい三ツ谷がキッチンに戻って行く。スーツを脱いだ柴大寿は俺の向かいの席に座り、いまだゲラゲラ笑い続ける千冬を横目に俺の方を見やってにやりと笑った。
    「虎とライオン、どっちが強いんだろうな?」
     そんなの全然わかんないけどどこをどう見たって俺よりお前の方が強そうだしだけど俺だって千冬の前だったら虎どころか狼にだってなっちゃうんだからなと捲し立てたところで、隣の席で笑いが止まらない千冬のせいで全部台無し。テメェ、帰ったら覚えとけよ!

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