七夕の話「「あ、」」
マンションのエントランスで鉢合わせた僕達は、互いの手にあるモノを見て同時に間抜けた声を上げたのだった。
◆ ◆ ◆
「いや、まさか七海が買ってくるとは思わなかったよ」
「…たまには良いでしょう」
不貞腐れたようにビールを呷った七海が流した視線を追いかけて、僕も林檎ジュースを口に含んだ。
僕等の視線の先、ベランダにあるのは笹。
そう、今日は七夕なのだ。
七海ん家に帰る途中、通りがかった花屋に売られていた、子供騙しの細っこい笹。
それを買ったのはただの気まぐれだったけど、まさか七海まで同じ店で同じ物を買ってくるとは予想外だった。
「それじゃさ、アレももらった?短冊」
「ええ、もらいましたよ」
テーブルの端っこにあった雑誌の下から取り出した二枚の短冊を見せて、七海は「アナタは?」と首を傾げる。
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